Ⅴ章  最新法令情報紹介

障害者権利条約の総括所見の解説

                            

弁護士 関哉 直人

目次

.はじめに

.日本の総括所見の特徴

.障害年金と関わる総論部分

1.障害の人権モデル

2.専門家に対する権利条約の周知

.障害年金と関わる各論部分

1. 自立生活及び地域社会への包容

2.福祉的就労における所得保障

3.障害年金の額の見直し

.おわりに

 

 

 

Ⅰ.はじめに

 障害者権利条約(以下「権利条約」という。)は、20061213日国連総会において採択され、2008年5月3日に発効している。日本は、2007年9月28日に署名し、2014年1月20日に批准している。

 日本は、批准に併せて、障害者基本法を改正し、障害者差別解消法を制定し、障害者雇用促進法を改正するなど、障害の社会モデルを部分的に採用し、合理的配慮の不提供を差別と位置づけている。

 権利条約は、締約国は政府報告(国内の状況が権利条約に適合するかについての政府の意見)を提出するルールとなっている。その後、これを審査する立場にある権利委員会から事前質問事項が送られてきて、さらに政府が回答する。そして、権利委員会と政府との建設的対話を経て、権利委員会から総括所見(勧告等を含む権利委員会の意見)が出される。日本の建設的対話は、2022年8月22日、23日にジュネーブの国連本部において行われ、9月9日に総括所見が出されている。

 

Ⅱ.日本の総括所見の特徴

  日本の総括所見は、他の国の総括所見と比較しても、項目が多岐に及び、手厚い内容である。これは、JDFや日弁連などのNGOがパラレルレポートを提出し、日本の課題を権利委員会に訴えてきた成果であるといえる。

  また、権利条約は、障害が個人に帰属するもの(医学モデル)ではなく、社会に存在するもの(社会モデル)に基づくものであることを基本としているが、昨今の権利委員会の見解に見られるように、障害が人権モデルに基づくべきであることが強調されている。

  日本の法制度との関係では、権利条約19条(自立した生活と地域社会への参加)と24条(教育)に関し、勧告(recommends)に留まらず要請(urges)がなされ、より抜本的かつ速やかな是正が求められている。19条との関係では、グループホームを含む限定された地域生活の選択肢の見直しが求められた。教育分野では、特別支援教育を是とする日本の教育を見直し、インクルーシブ教育を実現するよう求められている。この点、地域生活の選択肢を広げていくためにも、障害年金を含めた所得保障を拡充していくことが求められるところである。

また、総括所見では、様々な分野において障害当事者の参加が求められている。障害年金の分野においても、審議会や研究会等、法制度を検討するにあたり当事者の参加がないまま審理を進めていくことが問題視されるべきであろう。

 

Ⅲ.障害年金と関わる総論部分

 総括所見の内、障害年金と関わる総論部分について若干紹介する。

1.障害の人権モデル

 権利条約の一般原則(第1条-第4条)に関する勧告において、次のとおり、障害の人権モデルが紹介されている。医学モデルは施策を実現するための機能的な概念と言われているが、人権モデルはこれを支える理念である。人権に基づき障害を理解していくことの重要性があらためて提示されたものと理解される。

(a)障害者、特に知的障害者及び精神障害者を代表する団体との緊密な協議の確保等を通じ、障害者が他者と対等であり人権の主体であると認識し、全ての障害者関連の国内法制及び政策を本条約と調和させること。

(b) 障害認定及び手帳制度を含め、障害の医学モデルの要素を排除するとともに、全ての障害者が、機能障害にかかわらず、社会における平等な機会及び社会に完全に包容され、参加するために必要となる支援を地域社会で享受できることを確保するため、法規制を見直すこと。

 

2.専門家に対する権利条約の周知

  障害のある人とともに働く専門家に対し、権利条約の理念、内容を理解することが求められている。

10(c)障害者団体の緊密な関与により、司法及び裁判部門の専門家、政策決定者及び議員並びに教員、保健医療関係者、ソーシャルワーカー及びその他障害者に関わる専門家に対し、障害者の権利及び本条約上の締約国の義務に関する組織的な能力構築計画を提供すること。

 

Ⅳ.障害年金と関わる各論部分

 次に、総括所見の内、障害年金と関わる各論部分について紹介する。

1. 自立生活及び地域社会への包容

 先ほどご紹介したとおり、地域生活に関しては、勧告より強い「要請」がされている。ここでは、直接的には自立生活を実現するための予算の再配分が求められているが、グループホーム等の特定の生活施設で生活する義務を負わず、自身の生活について選択等ができるようにするためには、障害年金の範囲、額の拡充を含めた見直しが求められるところであろう。

 また、障害のある人にとっての社会的障壁の評価等に関し、既存の評価形態を見直すことを要請している部分に関しては、障害年金の障害の評価に関しても同様の要請がなされていると考えるべきである。

42(a) 障害者を居住施設に入居させるための予算の割当を、他の者との平等を基礎として、障害者が地域社会で自立して生活するための整備や支援に再配分することにより、障害のある児童を含む障害者の施設入所を終わらせるために迅速な措置をとること。

(c) 障害者が居住地及びどこで誰と地域社会において生活するかを選択する機会を確保し、グループホームを含む特定の生活施設で生活する義務を負わず、障害者が自分の生活について選択及び管理することを可能にすること。

(d) 障害者の自律と完全な社会包容の権利の承認、及び都道府県がその実施を確保する義務を含め、障害者の施設から他の者との平等を基礎とした地域社会での自立した生活への効果的な移行を目的として、障害者団体と協議しつつ、期限のある基準、人的・技術的資源及び財源を伴う法的枠組み及び国家戦略に着手すること。

(f) 障害者にとっての社会における障壁の評価及び障害者の社会参加及び包容のための支援の評価を含む、障害の人権モデルに基づいた、地域社会における支援及びサービス提供を確保するため、既存の評価形態を見直すこと。

 

2.福祉的就労における所得保障

 権利委員会は、一般就労への移行機会が確保されていないことや福祉的就労における工賃の低さに注目し、移行の機会確保や同一労働同一賃金等への是正を求めている。障害年金の見直しと併せて改善を求めていく必要がある点である。

58(a) 障害者を包容する労働環境で、同一価値の労働についての同一報酬を伴う形で、作業所及び雇用に関連した福祉サービスから、民間及び公的部門における開かれた労働市場への障害者の移行の迅速化のための努力を強化すること。

 

3.障害年金の額の見直し

  障害年金に直接関わる部分として、権利委員会は、権利条約28条に関し、障害年金の額に関する規定の見直しを求めている。注目すべきは、「障害者団体と協議の上で」として、検討プロセスに当事者参画を求めていること、及び、額の見直しは、「障害年金が著しく低額であること」に注目し、大幅な増額を求めているものといえることである。

 重要な点であるため、委員会の懸念部分・勧告部分の全体を引用する。

59.委員会は、以下を懸念する。

(a) 障害者及びその家族の相当な生活水準を利用する機会を確保するための、障害に関連する費用を負担するための規定を含む、社会的な保障形態が不十分であること。

(b) 市民の平均所得に比べて、障害年金が著しく低額であること。

(c) 民間及び公共住宅の利用の容易さ(アクセシビリティ)を確保する基準に関する限定的な進捗。

60.本条約第28条及び持続可能な開発目標のターゲット1.3の関連性を考慮し、委員会は以下を締約国に勧告する。

(a) 障害者、特により多くの支援を必要とする者に対して、相当な生活水準を保障し、障害に関連する追加費用を負担するために、社会保障制度を強化すること。

(b) 障害者団体と協議の上で、障害年金の額に関する規定を見直すこと。

(c) 民間及び公共住宅に適用される法的拘束力のある利用の容易さ(アクセシビリティ)基準を定めること、及びその実施を確保すること。

 

Ⅴ.おわりに

日本の初回審査における総括所見では、数々の勧告や要請がなされ、次回報告(2028年)までに国内の法制度や運用を権利条約に適合するように是正することが求められている。

障害年金に関しては、権利委員会が直接的に求めている額の見直しはもとより、福祉的就労を含む労働分野の是正やその他の所得保障の拡充とも関連させながら、障害のある人の生活全般の権利保障を実現するための改正を求めていく必要がある。

 

以上