刊行によせて

                  橋本宏子(障害年金法研究会 代表)

 

 このたび、「障害年金法研究会が発行する公式雑誌」として、ウェブジャーナルを発行する運びとなりました。

 障害年金法研究会は2015年に設立され、その後、①具体事案を協働して解決すること、② 勉強会での研鑽 ③ 制度に関する提言を「活動の三本柱」として、今日まで地道にその活動を重ねてきました。その詳細については、ジャーナル掲載の「会の活動報告」を参照下さい。

 障害年金法研究会は、障害年金問題に関わる弁護士・社会保険労務士・研究者・ソーシャルワーカー等が協力して具体的事案を通じて研鑽を重ねて連携していくことを目的としていますが、その目的の遂行のなかでは、特に「障害年金事件を担当できる弁護士を増やす」ことを念頭に置いてきました。

 

 私事ですが、私はかつて社会保険審査会委員を務めたことがあります。その時の経験では、本人が単独で「再審査請求」をする「本人請求」の事案が多く、年金に精通した弁護士が社会保険労務士とも連携をとりながら事件を受任して専門的に主張・立証すれば、救済されていたかもしれない(少なくとも、論点はもっとも明確になった)と私には思われる事例にいくつか遭遇しました。こうした体験は、障害年金問題を担える弁護士のすそ野を広げたいという思いに繋がり、その思いが障害年金法研究会の設立にも反映されることになりました。

 

 アメリカでは、対象は貧困層ですが、関連で障害者あるいは児童などの権利の実現のために活動する弁護士を法的に支援するクリアリングハウスレヴューという雑誌が、全米を対象に発行されています(Sargent Shriver National Center on Poverty 発行)。

 アメリカにおいてこれらの人びとの権利保障のために活用される法政策は多様で、訴訟により権利の実現をはかるだけでなく、議会を通じての実定法化、政策交渉による事業化、法的支援団体の活動による権利実現のバックアップ、多段階での聴聞の機会を利用した市民参加などがあげられます(以下、広義の法政策という)。

アメリカでは歴史の中で、政府だけでなく、選挙、社会運動、当事者の関わり、参加といった市民社会の側も動きも含めて統治を包括的に行うという考え方がひとつの潮流となってきたためと思われます。

 

 世界が混迷を極めるいま、クリアリングハウスレヴューにも思いを馳せながらウェブジャーナルの今後を、私達自らの手で作り上げていきたいものです。

 ウェブジャーナルは今後、①理論と実践を繋ぐ論考、②事例研究の掲載に学ぶ、③研究会の具体的活動報告を柱とすることになるでしょう。それによって実務家は直面している具体的な事例を通じ、より大きな(基本的な)問題へと関心を広げ、研究者は実務家が直面している具体的な事例から研究上の課題を引き出す(とくに、個々の法分野の研究者のあいだに障害年金法への関心を広げる)ことにより両者の連携が深まり、上に述べたような広義の法政策の具体化に努めることができればと思っています。できることなら私自身、その「つなぎ」の役割が果たせれば、と願っています。

広義の法政策の実現は、当初から障害年金法研究会が目指してきた一つの方向性・課題ではありますが、これまでの定例会や裁判事例研究会ではなかなか積み上げていくことができませんでした。ウェブジャーナルが、これまでできなかった理論化の方向に歩みだしていくための場を構築していくための第一歩となることが期待されます。

 ともかくも障害年金法研究会が、ウェブジャーナルを刊行するまでに成長してきたことは、ひとえに障害年金法研究会会員、特に「拡大運営委員会」「編集委員会」関係者の甚大な努力に支えられてのことです。内々のことではありますが、ひとこと申し添えさせて頂きたいと思います。

 最後になりましたがご多忙のなか、障害年金法研究会のために論考をお寄せ下さり、また「座談会」にも参加下さいました河野 正輝 九州大学名誉教授(日本障害法学会 会長)にも心からのお礼と引き続きのご支援をお願い申しあげる次第です。