Ⅱ章-5-2 

補論; 英・米・豪の障害年金制度における労働能力判定の動向

                            河野正輝

目次

 はじめに―本補論の要旨

 イギリスの労働能力判定

1 新たな労働能力判定の導入の背景―ニューレイバーの障害年金改革

(1)       「就労不能給付」から「雇用支援手当」への転換

(2)       個人能力判定(PCA)から労働能力判定(WCA)への転換

2 イギリスの雇用支援手当の概要

(1)       雇用支援手当の受給資格

(3)       雇用支援手当の給付額

(4)       雇用支援手当と就労との調整

(5)       雇用支援手当と個人自立手当の関係

3 労働能力判定の概況

(1)       労働能力判定の枠組み

(6)       最終的な認定の状況

(7)       上訴による高い救済率

4 労働能力判定における判定項目のアウトライン

(1)       身体的機能に関する判定(physical assessment)の項目

(2)       精神的、認知的および知的機能に関する判定(mental, cognitive and intellectual function assessment)の項目

5 労働能力判定のプロセス

(1)       質問票

(2)       判定における認定医療専門職の責務

(3)       決定処分庁の権限

 オーストラリアにおける労働能力判定の動向

 アメリカにおけるリスト方式

1 「適格な障害」の定義

2 「適格な障害」があるか否かの判定方法

3 リスト方式のジレンマ

 日本法への示唆

1 リスト方式に対する評価

(1)       イギリス方式とアメリカ(リスト方式)の相違点

(2)       イギリス方式に対する国連障害者権利委員会の評価

2 日本法への示唆

3 社会モデルの視点から

資料 イギリスのWork Capability Assessment(主要部分の仮訳)

 

 

Ⅰ はじめに―本補論の要旨

イギリスでは、ブレア政権時代に「第三の道」の一環として、新たな障害者政策の目標を立て、新たな手当と新たな労働能力判定が導入された。

新たな手当は、従前の「就労不能給付Incapacity Benefit」(重度のみを対象とした手当)から、障害者の雇用復帰と生計費支援を目的として精神的な障害を含めより軽度の障害者まで対象とする新たな「雇用支援手当Employment and Support Allowance」への転換である[1]

新たな労働能力判定は、従前の身体的な障害状態の判定(10項目)に加えて、精神的な障害状態についても判定(7項目)を行うもので、判定のあり方としては、

    設問項目(記述子)は理解しやすく、かつ自己評価しやすい17項目に整理され(本稿末尾の資料を参照)、

    判定の手続は、17項目に対する自己評価(質問票)に始まり、個別の対面によるアセスメント(半構造化面接)を行う、そのさい障害者は独自の情報とエビデンスを提供でき、かつ親族、友人を同伴できる、

    最後の労働能力制限の程度の判断は、日米で用いられているいわゆるリスト方式に依らず、スコアリングシステムに依る、

等の特徴を有するものである。

ただし、「障害のある人が雇用復帰のために直面している個人的な状況およびニーズ並びに社会的障壁」という障害の社会モデルの視点からは重要な側面が、アセスメントの脇に置かれており、したがって労働能力判定において社会的障壁をどのように考慮するかは、イギリス、オーストラリア、アメリカにおいても未だ検討課題であると考えられる。

 イギリスの判定手続きから得られる示唆の1つとして、社会的障壁と個々の障害者に対するその影響を、身体的機能障害の定型化と同様に定型化することには困難が予想され、当面、社会的障壁とその影響の基準化ではなく、社会的障壁の障害者への影響を個別に判断することが可能な手続きの導入(手続の基準化)を検討する必要性を挙げることができるかもしれない。

Ⅱ イギリスの労働能力判定

1 新たな労働能力判定の導入の背景―ニューレイバーの障害年金改革

(1)   「就労不能給付」から「雇用支援手当」への転換

イギリスの新たな労働能力判定を理解するために、導入の背景を簡単に見ておこう。

イギリスの新たな労働能力判定(Work Capability Assessment, WCA)は2008年に導入された。それまでの就労不能給付(Incapacity Benefit)を段階的に廃止し、新たな雇用支援手当(Employment and Support Allowance, ESA)に切り替える政策転換の一環として導入されたものである。

就労不能給付のときは、判定の対象者は比較的少数の重度障害者に限られていた。が、新たな雇用支援手当は精神障害者を含めより軽度の障害者に対象が拡大された。それに伴って、新たな判定では、既裁定の、事実上すべての傷病手当受給者を労働能力の観点から再評価するとともに、精神的な障害による労働能力の制限を判定することとされた。

新たな障害者政策の目標は、新しい障害法、職場環境の変化、労働安全衛生の発展を考慮に入れて、「できないことではなく、できることを調べる」ことにより「ポジティブ」を強調することとされた[2]

新たな判定では、雇用支援手当の請求者を書面ではなく直接面接により評価する方式に転換された。この方式を用いて、看護師と理学療法士を雇用して医師と一緒に働かせるとしたことによって検査能力が5倍に増加し、コンピューターによって作成されたテンプレートに基づく半構造化面接手法が初めて使用されたとされる[3]

(2)   個人能力判定(PCA)から労働能力判定(WCA)への転換

改正前の就労不能給付で用いられた個人能力判定(Personal Capability Assessment, PCA)と新たな労働能力判定(Work Capability Assessment, WCA)のアセスメント項目を見るとき、最も大きな相違点は、精神障害に関する取扱い(Mental Health Test)にある。

WCAは、身体的な障害状態(10項目)の判定方式とほぼ同様の方式(すなわち障害状態を定型化しポイントを付与するスコアリングシステム)を、精神的な障害状態についても7項目に分けて新設しており、このことの意義は大きいと考えられる。

加えて、どれか1つの項目でも最重度のポイント(15p)を得れば障害認定要件は満たされるとするほか、すべてのスコアを合計するルールも新設され、身体的なアセスメントと精神的なアセスメントを区別せずすべてのスコアを合計して15p以上を得れば障害認定要件は満たされることとされた。

なお、身体的障害のアセスメントでも、下肢の機能障害につき設定されていた3ポイント程度の障害がすべて削除されるなど若干の修正が加えられた。

2 イギリスの雇用支援手当の概要

(1)   雇用支援手当の受給資格

 雇用支援手当(Employment and Support Allowance, ESA)は、国民保険法(National Insurance Act)に基づく給付の1つである。

新たな雇用支援手当を申請できるのは、①公的年金年齢(State Pension Age)未満であること、②労働を制限する障害又は健康状態を有すること、③被用者又は自営業者として働いたことがあること、および④国民保険の納付要件を、通常、直近の23年につき満たしていること(National Insurance Creditsの期間も算入)の全てを満たす者である[4]

ただし、求職者手当(Jobseeker’s Allowance)および法定疾病給付(Statutory Sick Pay)を申請している場合は、ESAを受けることはできない。

ユニバーサル・クレジットと雇用支援手当を同時に受給することは禁止されていない。ただし併給調整により、ユニバーサル・クレジットの支給額は雇用支援手当に相当する額が減額される[5]

(3)   雇用支援手当の給付額

労働能力判定を受けている間の給付額は、25歳未満は週£61.05まで、25歳以上は、週£77.00までとされている[6]

申請者とパートナーの貯蓄および収入はESAの給付額に影響しない。しかし、a)週£85以上の私的年金を受けている場合、b)所得比例給付のESAを受けている者は、世帯収入・貯蓄が£6,000以上の場合、給付額に影響を受ける。

 労働能力判定を受けた後の給付額は、比較的軽度の「労働に関連する活動グループ(Work-Related Activity Group)」と重度の「支援グループ(Support Group)」によって分けられており、前者の場合は、週£77.00まで、後者に属する場合は、週£117.60(月額、約76,000円)までとされている。ただし、所得比例拠出制に加入している場合は、別途支給される。支給の方法は、2週に1度の支払いである。

(4)   雇用支援手当と就労との調整

雇用支援手当は、在職中であれ退職後であれ、申請することができる。雇用支援手当を受給しながら就労するには、2つの条件を満たさなければならない。①週16時間以内の労働であること、かつ②税および国民保険の保険料を控除した後の稼得が週£152を超えないことの2条件である。週£152を超えない範囲で得られた稼得の額によって手当額は調整されるのか、減額もあるのかについては、政府(労働年金省)のガイダンス(注5)では必ずしも明らかでない。なお、手当受給中のボランティア労働については制限なく、何時間でも就労することができる。ただしジョブセンター・プラス(Jobcentre Plus)への届出が必要である。

(5)   雇用支援手当と個人自立手当の関係

 イギリスでは、雇用支援手当とは別に、個人自立手当(Personal Independence Payment, PIP)の給付が定められている。両者の区別を整理しておくことは、障害者の所得保障のあり方を理解するのに役立つであろう。

PIPは、健康状態または障害により特別の生活費(extra cost of living)を必要とする労働年齢の成人を支援することを目的とする給付である。

PIPの給付方法としては、資力調査なし(non-means-tested)、無拠出制、かつ免税の給付である。

重要なことは、上記の目的から、PIPは人の労働能力との関連がなく、人の稼得所得の代替を意図するものではないことである。就労している人もしていない人も平等に受けることができる。この点で、PIPESAまたはESAの前身である就労不能給付(Incapacity Benefit)と異なる。

PIPの受給資格(要件)は、健康又は障害の状態そのものではなく、状態が人の生活に及ぼす実際的な影響による。具体的には次の全ての要件を満たすことが必要である。

 ①16歳以上であること、

    長期の身体的もしくは精神的な健康状態または障害を有すること、

    一定の日常生活または移動に困難を有すること、

    その困難が始まった時から少なくとも12か月は継続すると見込まれること、

 なお、PIPは障害者生活手当(Disability Living AllowanceDLA)に代わるものとして定められたが、16歳未満の児童は引き続きDLAを受給しており、16歳からDLAに代わってPIPを受けることとされている。公的年金年齢未満の成人はPIPを請求することができ、かつ退職後も受け続けることができる。

PIPが保障する「特別の生活費」は、食事・入浴・排せつ・金銭管理等の日常生活の援助に必要な費用部分(Daily living part)と移動の援助に必要な費用部分(Mobility part)に分けられ、PIPの給付額は個々の障害者の障害の程度によって決められる。

 日常生活の費用部分は、軽度の場合、週£61.85、重度の場合、週£92.40であり、移動の費用部分は、軽度の場合、週£24.45、重度の場合、週£64.50である。給付額は、受給者の所得や預貯金等によって影響を受けない[7]

3 労働能力判定の概況

(1)   労働能力判定の枠組み

雇用支援手当の受給資格を得るためには、申請者は、労働能力の制限について(すなわち現在の健康状態又は障害が労働能力を制限しているか否かについて)の判定を受けなければならない。その判定(Work Capability Assessment, WCA)は、つぎの2つに分けられる。

    労働能力の制限(Limited Capability for Work)の判定

申請者の健康状態又は障害が労働能力に影響を及ぼす程度に基づいて、雇用支援手当の受給資格を決定するための判定

    労働に関連する活動能力の制限(Limited Capability for Work-Related Activity)の判定

申請者の状態の影響が相当に重度であるために、労働に関連する活動(Work-Related Activity)に従事することを合理的に期待することはできないことから、申請者は支援グループ(Support Group)の対象とすべきか否かを決定するための判定。上記①労働能力の制限の判定と同様の設問項目のほか、②では食事、嚥下の能力を問う項目も追加されている。

(6)   最終的な認定の状況

 20219月までの4半期において、新規認定は19,000件で、そのうち14%が労働関連活動グループ、62%が支援グループ、24%が労働能力あり(fit for work)と認定された。

一方、既認定(雇用支援手当の支給期間が終了したあと引き続き同手当を申請する場合)は13,000件であった。

雇用支援手当受給者のうち労働関連活動グループ(Work-Related Activity Group)は、将来就労に移行できると認定され、就労移行に向けてすぐに措置を講ずることが可能と、労働年金省(DWP)において認定された障害者で構成される。このグループは、労働コーチ(work coach)の定期的な面接を受けなければならない。コーチは労働に復帰できるようスキルを改善する等の支援を行う。このグループに対する雇用支援手当の支給期間は365日である。

一方、雇用支援手当受給者のうち支援グループ(Support Group)は、重度の障害や健康状態があり、労働関連活動に従事することを要求することは不合理と認定された障害者から構成される。このグループは労働コーチの定期的な面接を受ける必要はない。このグループの障害者に対する手当の支給期間に制限はない。

(7)   上訴による高い救済率

 下院の「雇用支援手当および労働能力判定に関する労働年金委員会」の記録[8]によると、20124月から20133月の間に「労働に適している(fit for work)」と認定された人の約35%が独立した審判所(independent tribunals)に上訴して、その上訴の約33%が救済されている。このことは「労働に適している」との原処分10件のうち1件以上が審判所で覆されたことを意味している。なお、20132014年には、ESAの処分に対して232,639件の上訴が提出された。

 このような動向を受けて、強制的な再認定(Mandatory reconsideration)の手続きが20134月にユニバーサル・クレジット(Universal Credit)および個人自立手当(PIP)に導入され、201310月には雇用支援手当を含む労働年金省管轄の全ての給付に導入された。この再認定手続きの導入前は、労働年金省の処分に対して不服がある者は、直ちに審判所および裁判所(HM Courts and Tribunals)へ上訴することができたが、強制的な再認定手続きの導入によって、労働年金省の処分に不服がある者は、まず労働年金省に再認定を求めなければならないこととなった(再認定前置主義)。その結果、2013年以降、再認定による一部見直しもあって、上訴の総数は激減している。

 ただ、原処分庁による再認定の結果になお不服がある者は、第1段階の審判所(Tribunals)へ上訴することができる。社会保障諮問委員会による報告書[9]によると、20152016年の審判所における救済率は58%と高い数字を示している(ちなみに母数の上訴総件数は上記報告書において不明である)。

4 労働能力判定における判定項目のアウトライン

 障害又は健康状態が労働能力に及ぼす影響は、身体的機能に関する10項目の記述子と、精神的・認知的・知的機能に関する7項目の記述子に分けて評価される。合計17項目のアウトラインは以下のとおりである。それぞれの項目につき最重度15p、重度9p、中度6p、該当なし0pのスコアが与えられる(詳細については、末尾の資料「イギリスのWork Capability Assessment(主要部分の仮訳)」を参照)。

(1)   身体的機能に関する判定(physical assessment)の項目

    他人の援助なしに移動することができるか

    立つ、座るができるか

    腕・手を上げる(例、コートのトップポケットへものを入れるために上げる)ことができるか

    上体・腕を使ってものを拾い上げる、動かす、移すことができるか

    手先の器用さがあるか

    自分を理解させることができるか

    他者のメッセージを理解することができるか

    方角を判断して動き、安全を維持することができるか

    失禁があるか

    意識の喪失があるか

(2)   精神的、認知的および知的機能に関する判定(mental, cognitive and intellectual function assessment)の項目

⑪日常の課題(例、洗濯機を使う、目覚ましをセットする等の簡単な課題)を学習することができるか

⑫日常にある危険(例、沸騰した湯、鋭利なもの等)を認識できるか

⑬日々の個人的な活動(例、食事を作る、買い物に行く等)を開始し、終了することができるか

⑭日々の変化に対処することができるか

⑮住まいの外に出歩くことができるか

⑯社会的な接触を持つことができるか、他者と関係を持つことは常に排除されるか

⑰攻撃的で抑制できない態度をどの職場でも日常的にとり、制御できないか

5 労働能力判定のプロセス

(1)   質問票

雇用支援手当を申請すると、質問票(Questionnaire)が送られてくる。質問票は、障害又は健康状態が労働能力に与える影響に関する判定項目(17項目)について、申請者自身の判断を求めるものとなっている。質問票の回答欄に☑を入れ、加えて、申請者の側から考慮を望む他の情報を提出することも求められる。質問票に関係するエビデンスを当局(Medical Services)に提出することも奨励される。

質問票はまた、申請者が何か特別のニーズを有する場合、その情報を提出する機会となっている。たとえば対面による判定の際の通訳を求めることができる。

最重度の障害者を除き、ほとんどのケースにおいて認定医療専門職(approved healthcare professional)の対面による判定が行われる。ただし、書面によるエビデンスをもとに総括的で十分に正当な意見書(advice)を決定処分庁(the Departmental decision maker)へ提出できると上記専門職が判断する場合、対面による判定は行われない。

(2)   判定における認定医療専門職の責務

認定医療専門職(approved healthcare professional)は判定において身体検査を行うわけではない。もとより、診断して治療計画を立てるGPのような責務を負うこともない。

本専門職の責務は、申請者の状態が労働能力に与える影響を判定し、決定処分庁に対して意見書を提出することである。その見解が申請者自身の機能障害の理解と異なる場合は、とりわけ十分な説明を付した意見書を提出することになる。

当局(Medical Services)は、可能な場合は、申請者が要求する同性の専門職を提供するように努める。申請者は対面による判定の間、親族または友人の同伴を求めることができる。なお、対面による判定の際にも申請者は他の情報を提出する機会を有する。

(3)   決定処分庁の権限

雇用支援手当の受給資格の決定は処分庁(the decision maker)において行われる。処分庁は注意深くすべてのエビデンスを検討する。このエビデンスには、申請者によって記入された質問票、申請者の医師から提出された情報および認定医療専門職の意見書が含まれる。申請者が提供した独自の情報および根拠が認定医療専門職による判定の段階のみならず処分庁による決定の段階でも検討対象となるエビデンスに含まれるかは明らかでなかったが、2019年以降、強制的な再認定(Mandatory Reconsiderations)の段階で追加の口頭および書面による証拠を収集するための新しい運用アプローチが採用されたとされる[10]

申請者は身体的及び/又は精神的、認知的及び知的機能の活動のいずれかで15pを得れば、もしくはそれらの諸活動(the Schedule2 activities)の合計で15p以上を得れば、労働能力の制限に関する基準は満たされることになる。

申請者の医師は、判定に先立つ労働の適合性に関する意見書において、申請者の労働適合性について見解を示すよう求められる。この見解は他の全てのエビデンスとともに処分庁により検討される。

Ⅲ オーストラリアにおける労働能力判定の動向

オーストラリアでは、Work Ability Tables(WAT)に基づく障害判定方法(試案)が開発されている。WATは、総合的な労働能力の中核をなす下記の9つの労働能力がそれぞれ申請者の持つ障害によってどの程度影響を受けているかを判定するものである。

    規則的に出勤する能力

    作業を持続する能力

    仕事の指示を理解し従う能力

    職場で他の人と意思疎通する能力

    通勤や職場内で移動する能力

    作業で物を扱う能力

    職場での行動

    多様な作業課題を学び実行する能力

    作業で物を持ち上げ、運び、動かす能力

ただし、WATは試案にとどまり、実際上は従来のIT方式(Impairment tables、イギリスのWork Capability assessmentに類似した障害判定方式)が一部改良を重ねられつつ、今日も用いられている。

筆者が注目した点は、オーストラリアでは、社会環境の変化に弾力的に対応する必要性から、障害判定基準(IT)の制定は法律形式ではなく行政規則(the legislative instrument)に依らざるをえないことを説明したうえで、同じ理由から、ITには予め有効期限(10年)を付して定期的な見直しを行う方式を採用し、着実な改善を義務付けていることである。

ただ、2023年4月実施へ向けて10年ぶりの見直しが提案されているIT改正案(Australian Government, Department of Social Services, Explanation of proposed changes to the Disability Support Pension Impairment Tables.[11]は、依然として医学的な機能障害に基づく判定方式を維持しつつ、その医学的判定をより明確化することに焦点を置いていて、社会的障壁の検討には踏み込んでいない[12]

Ⅳ アメリカにおけるリスト方式

1 「適格な障害」の定義

アメリカの社会保障障害保険給付(Social Security Disability Insurance Benefit)における障害(disability)の定義は他のプログラムにおける定義と異なり、社会保障(障害保険給付)は完全な障害に対してのみ支払われる。部分的な障害又は短期的な障害に対する給付は存在しない。

 次の全てに該当する場合に、社会保障規則の下で「適格な障害(Qualifying Disability)」があると見なされる。すなわち、

    病状(medical condition)ゆえに、労働することができない、または相当の有償労働(substantial gainful activity)を遂行することができないこと。

    病状ゆえに、過去に行った労働に従事し又は他の労働に従事することができないこと。

    病状は少なくとも1年間継続しているか、または継続すると見込まれるか、もしくは死に至ると見込まれるものであること。

2 「適格な障害」があるか否かの判定方法

 障害保険給付の受給資格を得るのに十分な被保険者期間(労働期間)がある場合は、つぎの5つの設問からなる段階的なプロセスを踏んで「適格な障害」があるか否かが判定される。

    働いているか

    重度であるか

    障害状態のリストに該当するか

    従前の仕事を行うことができるか

    他のタイプの仕事を行うことができるか

このうち③の「障害状態のリスト(the list of disabling conditions)」とは、身体機能の一つ一つ[13]について、「相当の有償労働」を行うことができないと医学的に考えられる機能障害のリスト(list of medical conditions)を詳細に定めたものである。

3 リスト方式のジレンマ

障害保険給付の行政機関(Social Security Administration)は、障害判定基準として臨床医学の用語で定義された機能障害のリストを使用している。

一方雇用関係において、もし使用者が応募者を選定するにあたりそうした機能障害リストを使用した場合は、疑いなくADAに抵触することとなると解されている。機能障害のリストは医学モデルに基づき定型化された障害程度区分を定めたものであって、そうした障害程度区分は、機能障害の程度・範囲について個別に判断することを求めるADAの要請を満たさないとされているからである。

 このように社会保障行政とADAの間に「リスト方式」の採否について一種の緊張・対立が見られる。が、それだけではない。障害者権利運動の間では一種のジレンマも見受けられる。医学モデルによる機能障害のリストは、社会モデルを支持する障害者権利運動の立場からは攻撃すべき対象とされる反面、障害給付を当面必要としている立場からは給付を受ける迅速で信頼できる方式と見られることもあるからである。

Ⅴ 日本法への示唆

1 リスト方式に対する評価

(1)   イギリス方式とアメリカ(リスト方式)の相違点

イギリスの判定方式は17項目の記述子(descriptors)から構成され、かつスコアリングシステムを備える。一方、アメリカのリスト方式は、上述のとおり、1.00筋骨格系障害から14.00免疫系障害まで大分類したうえで、小分類(細部)において「相当の有償労働」を妨げる障害程度に該当する「機能障害のリスト」を、詳細を極めて定めるものである。

このような方式の相違によって、イギリスでは、比較的軽度の障害者まで対象として、かつ比較的軽度の障害者には雇用支援を、重度の障害者には生活支援を図ることを目的としている。一方アメリカでは、障害者の状態が当該リストに掲げる「完全な障害」に該当するか否かを判定するだけである。

こうした相違が認められるとはいえ、判定にあたり障害の医学モデルに基づいた機能障害の状態と程度に焦点を当てるという基本は共通している。イギリスの判定方式のこの限界は、国連障害者権利委員会の見解(後述)が指摘する通りである。

ただし、イギリスの判定のプロセスに、質問票、対面による判定(半構造化面接)、親族・友人の同伴などが導入されている点は、手続的基準の面における相違点として注目してよいであろう(もっとも、アメリカの手続面の調査は本稿では尽くされていない)。

(2)   イギリス方式に対する国連障害者権利委員会の評価

 障害者権利委員会はイギリスに対する総括所見(201611月)において「証拠は、雇用支援手当に関連するプロセスにおけるいくつかの欠陥を示している。とくに委員会は、労働能力判定に若干の調整が加えられたにもかかわらず、その判定が技能および能力の機能的評価に引き続き焦点を当てており、かつ、障害のある人、とくに知的および/または心理社会的障害のある人の雇用復帰のために直面する個人的な状況およびニーズならびに障壁を脇に置いていることに留意するものである。」との注文を付けている。これに対して、イギリスの労働年金省は、障害者の労働を促進し、可能にすることが最優先事項であり、これを実現しようとしているさまざまな方法を説明したと答えた。

(3)イギリス方式は医学モデルのジレンマを克服できるか

イギリス方式には、障害者の独自の情報提供や対面による判定における協議等の可能性があることから、障害者側から社会的障壁の影響を訴える余地があるかもしれない。しかし、障害の状態と程度の記述子(17項目)が労働能力の機能的評価に限定されていることからすれば、医学モデルのジレンマの克服には、障害者権利委員会の見解のとおり、やはり限界があると思われる。イギリスでも、障害認定にあたり社会的障壁による影響を考慮に入れる何らかの改善が引き続き求められるであろう。

2 日本法への示唆

●ガラパゴス化(?)している日本の現行リスト

障害年金の目的・要保障事由をどのように考えるか(制度設計論)と障害認定基準をどのように設定するかとは密接に結びついている。障害年金を私保険のように身体機能の欠損に対する保険金の支給であると構成すれば、身体機能の欠損の部位・程度が定型化・基準化され、それに該当するか否かが認定されることとなるだろう。軍人恩給の場合も身体機能の欠損に対する国家的補償として構成されるから、身体機能の欠損の部位・程度それ自体が定型化・基準化され、稼得能力の制限の程度や就労の有無にかかわりなく恩給が支給されることになる。

日本の現行の障害認定基準(令44月改正)では、例えば1級程度の障害状態とは、視力は両眼の視力がそれぞれ0.03以下、聴力は両耳の聴力レベルが100デシベル以上、上肢は「両上肢の全ての指を欠く」などというように、身体機能の欠損の部位・程度が基準化され、それに該当すれば稼得能力の制限や就労への影響の有無・程度を問わず年金支給することとされている。この認定基準のあり方には私保険や軍人恩給の考え方の残滓を疑わせるものがある[14]

そのうえ現行の障害認定基準が引きずっているものに、労働能力(稼得能力)の制限に対する代替所得の保障を目的とした厚生年金制度と日常生活能力の制限に対する所得保障を目的と定めた国民年金制度との再編・統合の経緯があり、とりわけその再編・統合の機会に、1級、2級の障害程度の定義規定が曖昧・不透明となったという経緯がある。

●記述子のあり方とスコアリングシステム

まず代替所得の保障としての障害年金における障害認定基準としては、身体機能の欠損の部位・程度ではなく、その状態が労働能力に与える制限の程度こそ基準化されるべきであろう。

かつ、労働能力を制限する機能障害の状態と程度の定型化にあたっては、記述子(descriptors)を分かりやすくして(例、イギリスの17項目)、可能な限り、予め申請者が判断・評価できるものとすることが望ましい。

 さらに、機能障害のリストに該当するか否かを書面をもとに専ら医師が判定するというリスト方式ではなく、書面審査から対面審査(face to face assessment)へ、形式審査から実質審査へ転換するとともに、スコアリングシステムにより評価する方式とすることが望ましい。

3 社会モデルの視点から

社会的構造的な不利益の因子とその因子が個々の障害者に与える影響の程度を、心身の機能障害のように定型化しスコア化することには困難(不可能?)が予想される。そうすると、社会的な不利益自体を基準化するのではなく、障害者個人が直面している社会的な障壁の状況、雇用復帰のためのニーズを個別に審査することを可能にする手続きの導入によって、改善を図ることが当面考えられるであろう。

具体的には、イギリス方式から次のような手続の示唆が得られるであろう。

    質問票を導入すること

    Face to faceの個別の対面による判定とすること(その際、障害者による参画と協議が実効性を確保できるような措置を検討する必要がある)

    質問票に加えて、障害者が独自に提供する情報を、判定において考慮すべきエビデンスとすること(その際、社会モデルの視点から調査し情報を収集する等の支援を検討する必要がある)

    申請者は権利擁護者(アドボケイト)を同伴できるとすること

    現行の社会保険審査官制度を独立した再審査機関へ改善すること

 

資料 イギリスのWork Capability Assessment(主要部分の仮訳)

1 身体的活動の判定(physical assessment

(1)誰の援助も受けないで、杖、手動車いす又は他の補助器具(補助器具が通常又は合理的に装着され使用される場合に限る)を使用し又は使用しないで移動可能な距離。

a50m以上の移動はできない。(15p

b)手すりを握っても階段を2段上がる又は下がることができない。(9p

c100m以上の移動はできない。(9p

d200m以上の移動はできない。(6p

(2)立つ、座る

  (a)誰の援助も受けないで、椅子に座った状態から立ち上がり隣の椅子へ移動して座ることができない。(15p

   b)ワークステーション(訳注、流れ作業などで1人の労働者が仕事をするための場所・席)に30分以上とどまることができない。(9p

  (c)ワークステーションに1時間以上とどまることができない。(6p

(3)腕を伸ばして届く範囲

  (a)コート又はジャケットのトップポケットへものを入れるのに腕(手)を上げることができない。(15p

  (b)帽子をかぶるのに腕(手)を頭へ上げることができない。(9p

  (c)ものへ手を伸ばすのに腕(手)を頭上まで上げることができない。(6p

(4)上体と腕を使ってものを拾い上げる、動かす又は移す

  (a500ccのプラスチック容器の水を持ち上げて動かすことができない。(15p

  (b1000ccのプラスチック容器の水を持ち上げて動かすことができない。(9p

   c)空の段ボール箱のような軽いけれどかさ張ったものを移すことができない。(6p

(5)手先の器用さ

  (a)(プッシュホンのキーパッドのような)ボタンを押すことができない又は本のページをめくることができない。(15p

   b1ポンド硬貨又はそれと同等のものを拾い上げることができない。(15p

  (c)ペン又は鉛筆でマークをつけることができない。(9p

  (d)片手でパソコンのキーボードやマウスを使用することができない。(9p

(6)人の援助を受けないで、話す、書く、タイプを打つ又は通常もしくは合理的に使用されている他の手段を使って自分を理解させる

  (a)「危ない」というような簡単なメッセージを伝えることができない。(15p

  (b)見知らぬ人に簡単なメッセージを伝えることに重大な困難がある。(15p

  (c)見知らぬ人に簡単なメッセージを伝えることにある程度の困難がある。(6p

(7)人の援助を受けないで、通常使用されている又は合理的に使用可能である何らかの補助器具を用いて、①口頭の手段(聞く又は読唇)のみで、又は②非口頭の手段(例、16ポイントプリントを読む、又は点字)のみで、もしくは③①と②の組み合わせで、

  (a)感覚機能の障害により、火災避難装置(例、非常階段、避難ばしごなど)の位置のような単純なメッセージを理解することができない。(15p

  (b)感覚機能の障害により、見知らぬ人からの簡単なメッセージを理解するのに重大な困難がある。(15p

  (c)感覚機能の障害により、見知らぬ人からの簡単なメッセージを理解することにある程度の困難がある。(6p

(8)盲導犬又は他の補助器具(通常又は合理的に使用される場合に限る)を使用して進路を取り、安全を維持する

  (a)感覚機能の障害により、他の人の付き添いがなければ、慣れた環境の周りをうまく進むことができない。(15p

  (b)感覚機能の障害により、他の人の付き添いがなければ、道路を横断するといった危険を伴う行為を安全に遂行することができない。(15p

  (c)感覚機能の障害により、他の人の付き添いがなければ、慣れない環境の周りをうまく進むことができない。(9p

(9)夜尿症を除き、意識がある間に、大量の排便及び/又は排尿に至る失禁(自制心の不在又は喪失)

  (a)少なくとも月に1度は大量の排便及び/又は排尿に至る失禁を経験する。(15p

  (b)ひと月の半ば以上において、大量の排便及び/又は排尿に至る失禁のリスクがある。(6p

10)目覚めている間の意識

  (a)少なくとも週に1回、重大な意識や集中の混乱に結果する意識の喪失又は変容という不随意のエピソードを有する。(15p

  (b)少なくとも月に1回、重大な意識や集中の混乱に結果する意識の喪失又は変容という不随意のエピソードを有する。(6p

2 精神的、認知的及び知的機能の判定(mental, cognitive and intellectual function assessment

11)課題(仕事)を学習する

  (a)目覚ましを設定するといった簡単な課題を学習できない。(15p

  (b)目覚ましを設定するといった簡単な課題を超える課題は何であれ学習できない。(9p

  (c)洗濯機の操作のような複雑さが緩やかな課題を超える課題は何であれ学習できない。(6p

12)日常的な危険(例、沸騰した湯、鋭利なもの)を認識すること

  (a)日常的な危険に対する認識の低さが、自分又は他人に危害を加えもしくは財産に損害を与える重大なリスクに通ずる。そのために、申請者は安全を維持するため大半の時間につき見守りを必要とする。(15p

  (b)日常的な危険に対する認識の低さが、自分又は他人に危害を加えもしくは財産に損害を与える重大なリスクに通ずる。そのために、申請者は安全を維持するためしばしば見守りを必要とする。(9p

  (c)日常的な危険に対する認識の低さが、自分又は他人に危害を加えもしくは財産に損害を与える重大なリスクに通ずる。そのために、申請者は時折見守りを必要とする。(6p

13)個人的な活動を開始し、終了すること(すなわち、計画し、組織し、問題を解決し、優先順位をつけ、もしくは課題を切り替えること)

  (a)精神的な機能の障害により、少なくとも2つの連続した個人的な活動を確実に開始し又は終了することができない。(15p

  (b)精神的な機能の障害により、少なくとも2つの連続した個人的な活動を確実に開始し又は終了することが大半の場合できない。(9p

  (c)精神的な機能の障害により、少なくとも2つの連続した個人的な活動を確実に開始し又は終了することがしばしばできない。(6p

14)変化に対処する

  (a)日々の生活が営めなくなるほどに、変化には一切対処することができない。(15p

  (b)日々の生活が全体として著しく困難となるほどに、些細な予定された変化(例、昼食の習慣化した時間を予め打ち合わせた時間に変えるような変化)に対処することができない。(9p

  (c)日々の生活が全体として著しく困難となるほどに、些細な予定のない変化(例、日にちは予定されていたが時間が予め決められていなかった面会)に対処することができない。(6p

15)出歩く

  (a)申請者の住まいの外にある申請者がどこもよく知っている場所へたどり着くことができない。(15p

  (b)他の人の付き添いがなければ、申請者がよく知っている明記された場所へたどり着くことができない。(9p

  (c)他の人の付き添いがなければ、申請者がよく知らない明記された場所へたどり着くことができない。(6p

16)認知的な障害又は精神障害による社会的な約束への対処

  (a)人との触れ合いに携わることは、申請者が体験してきた他者に関するもつれ又は著しい苦痛により、常に排除される。(15p

  (b)申請者がよく知らない人との社会的な接触は、申請者が体験してきた他者に関するもつれ又は著しい苦痛により、常に排除される。(9p

  (c)申請者がよく知らない人との社会的な接触は、申請者が体験してきた他者に関するもつれ又は著しい苦痛により、大半の場合、不可能である。(6p

17)認知的な機能障害又は精神障害による他の人々に対する態度の適切さ

  (a)どの職場でも理不尽とされるような攻撃的な又は抑制できない態度をとるという制御のないエピソードを日常的に有する。(15p

  (b)どの職場でも理不尽とされるような攻撃的な又は抑制できない態度をとるという制御のないエピソードをしばしば有する。(15p

  (c)どの職場でも理不尽とされるような攻撃的な又は抑制できない態度をとるという制御のないエピソードを時折有する。(9p

 



[1] 雇用支援手当は、就労不能の障害者には生計費のための金銭(money to help with living costs)を、そして労働能力を有する障害者には雇用復帰のための支援(support to get back into work)を提供するものとされている。https://www.gov.uk/employment-support-allowance/print, accessed 26 Jan. 2023

 

[2]第三の道を説くトニー・ブレア英首相がアンソニー・ギデンズ(Anthony Giddens)に大きな影響を受けたことはよく知られている。A・ギデンズ、佐和隆光訳『第三の道』(日本経済新聞社、1999年)では、「私たちは、福祉国家のかわりに、ポジティブ・ウェルフェア社会という文脈の中で機能する社会投資国家(Social investment state)を構想しなければならない。」(196197頁)「ポジティブ・ウェルフェアは、ベバリッジが掲げたネガティブな項目の一つひとつを、ポジティブなものに置き換えるのである。不足を自主性に、病気を健康に、無知を(一生涯にわたる)教育に、惨めを幸福に、そして怠惰をイニシアティブに置き換えようではないか。」(213頁)と述べる。一方でブレア政府は保守党が敷いた民営化の路線をさらに推し進めた(例えば、労働能力判定をAtosMaximusへ民営化した)との批判も強い。アレックス・カリニコス、中谷義和監訳『第三の道を超えて』(日本経済評論社、2003年)205頁参照。

[3] ガーディアン紙は社説「福祉改革のメリットはリスクを上回る」(20081123日付)において、ニューレイバーによる改革の「アイデアは、仕事を探すか訓練を受けるという約束とお金を交換するシステムに、条件を付けずに現金を出すシステムからはなれることである。」「改革は、失業したことで人々を罰するのではなく、求職プロセスに従事することを拒否したことで人々を罰する。市場に欠員がない場合は、手当の請求者は制裁を受けることはない。」(下線、筆者)と述べて政策転換を積極評価した。しかし、新たな判定方式は市場の状況(社会構造的要因)までスコアリングシステムに取り入れる制度なのではない。

[4] 雇用支援手当の申請にあたり必要なものは、①国民保険番号、②銀行等の口座番号、③かかりつけ医師の氏名・住所・電話番号、④障害や健康状態のために7日以上連続して働くことができなかった場合の記録(Fit Note)、⑤働いている場合、その稼得の詳細、および⑥法定疾病給付(Statutory sick pay)を請求している場合、当該給付が終了する日付である。

 なお、雇用支援手当の受給資格要件(Eligibility)としては、障害者からの申請を受けて障害要件に該当すること、および保険料の納付要件を満たしていること等が審査されるだけである。雇用支援手当も国民保険法に基づく社会保険給付の一つであるが、わが国の初診日要件に相当するような要件は存在しない。

[6] ちなみに、2023120日現在のレート(£1.00161.00円)で計算すると、週£77.00は、12,397円で、月額にすれば約5万円である。

 

[8] House of Commons – Employment and Support Allowance and Work Capability Assessment – Work and Pensions Committee (https://publications.parliament.uk/pa/cm201415/cmselect/cmworpen/302/30209.htm) para.90, accessed 20 Apr. 2023.

[9] Social Security Advisory Committee, “Decision Making and Mandatory Reconsideration” (https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/538836/decision-making-and-mandatory-reconsideration-ssac-op18.pdf) July 2016. p.13, Accessed 20 Apr. 2023. なお、最近年の強制的な再審査および上訴の動向については、National Statistics, “ESA: Work Capability Assessments, Mandatory Reconsiderations and Appeals: March 2022”, published 10 March 2022 (https://www.gov.uk/government/statistics/esa-outcomes-of-work-capability-assessments-including-mandatory-reconsiderations-and-appeals-march-2022/esa-work-capability-assessments-mandatory-reconsiderations-and-appeals-march-2022, accessed 17 Dec. 2022.

 

[10]9後段に掲げる最近年の強制的な再審査および上訴の動向に関するNational Statisticsを参照。

[12] なお、筆者において未解明の点として、①WATは、オーストラリアにおける障害者の具体的にどのような障害年金問題の解決に焦点を当てて開発された案であるのか、という本試案の社会的な背景、②WATにおける精神障害についての判定基準、③スコアリングの実際とその有効性、④障害者への質問票、面接協議、独自のエビデンスの提供、アドボケイトの同伴などの手続的な側面の検討などが残っている。

[13] 機能障害のリスト(成人リスト・パートA)は、1.00筋骨格系障害、2.00特定の感覚及び言語、3.00呼吸器疾患、4.00心臓血管系、5.00消化器系、6.00尿生殖器疾患、7.00血液疾患、8.00皮膚障害、9.00内分泌障害、10.00複数の身体系に影響を与える先天性疾患、11.00神経障害、12.00精神障害、13.00がん(悪性腫瘍性疾患)、及び14.00免疫系障害に区分される。

[14] わが国の障害年金制度の課題については、安部敬太「障害年金における障害認定の現状」、永野仁美「目的から考える障害年金の要保障事由」以上、障害法6号、2022年、中川純「障害年金の課題と改革の方向性」社会保障法研究16号、2022年、福田素生「障害年金をめぐる政策課題」社会保障研究Vol.4 No.12019年、河野正輝『障害法の基礎理論』2020年、福島豪「障害年金の権利保障と障害認定」社会保障法33号、2018年、百瀬優「障害年金の課題と展望」社会保障研究Vol.1 No.2, 2016年等を参照。