2025年6月11日付厚生労働省「令和6年度の障害年金の認定状況についての調査報告書」及び9月19日付公表資料等に対する意見及び質問書
2025年10月17日
障害年金法研究会
厚生労働省が公表した表記報告書(以下「報告書」)は、共同通信による年金機構幹部による恣意的な障害年金の認定により障害年金の不支給が大幅増加したとの報道を受け、国会等で問題となり、当会からの「昨今の報道を受けての声明」(5月7日)や多くの当事者団体の真相究明と抗議の声を受けて、発表されたものです。
今回の報告書および「不支給等事案にかかる点検作業の進捗状況について」の報告(9月19日)に対して、意見を表明し、厚生労働省に対する質問事項を挙げます。あわせて、当会が2024年3月6日に厚生労働省へ提出した「障害年金2025年制度改革への障害年金法研究会からの提言書」(以下「当会提言」)をふまえ、国会の年金改革法案附帯決議を受け、今回の不支給増問題等の再発防止のための抜本改革の必要性について述べます。
目次
1. 報告書で改めて浮き彫りとなった日本の障害年金の根本問題
不支給率が、前年度比約1.5倍、精神障害に限れば1.8倍と大幅に増加した事実[1]に対して、報告書は根本原因を分析しておらず、その結果、改善策も表層に留まっています。障害年金制度の根本問題(障害種別を通じた等級モノサシ不在・医学モデル偏重・不透明な手続)を解決することなしに適切・公正な判定は実現できません。当会は、改めて「社会モデルによる認定の抜本改革」と「透明性のある審査体制」への転換を強く求めます。
報告書では、理事長や障害年金センター長を含め、特定の職員が、審査を厳しくすべきといった指示を行なっていた等の事実は、ヒアリングでは確認できなかったとしています。しかし、内部職員による調査に対して、一般職員が、不利益扱いがなされないという保証がないなかで、幹部職員による恣意的な指示の有無について回答できるはずはありません。恣意的指示がなされていたとしたら、障害年金認定の公正性に対する信頼を根底から失わせる重大な事態ですから、日本年金機構や厚生労働省から独立した委員のみによる第三者委員会[2]を設置して改めて調査をすべきです。
(1) 事前確認票の等級案欄を精神障害についてだけ廃止し、内部障害、外部障害では継続することは見直し、すべての障害について廃止すべきです。
(2) 恣意的で、不公正な認定がなされうる障害は多岐にわたっていますから(下記Ⅱ-1-(2)イ・ウ)、2024年度の不支給事案について、精神障害やその他障害だけでなく、内部障害、動作制限により認定する肢体障害についても点検をすべきです。
(3) いつの時点から点検すべきかについては、職員による事前確認票に等級案を付すことが認定に影響を与えていたことは否定しえないことから、職員による事前確認票に等級案を付すことが始まった2022年4月から、すべての障害について点検を行うべきです。
(4) 審査請求で裁決等が行われた事案を点検対象から除外せず、審査請求で結果が出たものも点検の対象とすべきです。行政側を拘束するのは容認決定や裁決だけであり、棄却決定や裁決の後でも原処分庁が処分を見直すことは可能ですから、誤った処分であったかどうかの点検から外すべきではありません。
(5) 点検の結果、支給となった案件については、例えば、「事務処理誤り等について」に含めて公表するとともに、障害の認定等に当たって、どのようなミスにより不支給と判断してしまったのか内容を明示すべきです。
(6) 不支給案件の点検をいつまでに終わらせるのかについて目処を示すべきです。
(7) 理由付記について、抽象的な改善ではなく、なぜ事実関係に基づいて当該等級と判断したのかという適用関係がわかるように記載を抜本的に変更すべきです。
(8) 医師だけによる認定に問題があるという批判に対して、障害認定審査委員会に社会福祉士を入れるとしていますが、同委員会による審査件数は年間40万件の請求(不支給だけでも3万件)に対して、2023年度は19件(内部障害はゼロ)にすぎません[3]。このたび福祉職を追加したとしていますが、これにより改善されたということにはならず、まさに見掛け倒しです。請求者が求めれば実地調査を行い、原則、認定審査手続そのものに他職種が関与するよう認定システムを抜本的に改革すべきです。
(1) 「外部障害」や「内部障害」が細分化した障害別の統計も発表されているのに対して、診断書様式は同じとはいえ、「精神・知的障害」についてだけが、一括りになっています。「精神・知的障害」について、「精神障害」、「知的障害」および「発達障害」の3つの区分ごとの等級、不支給割合等も公表すべきです。
(2) 令和2年9月10日付厚生労働省年金局/日本年金機構作成(社会保障審議会年金事業管理部会資料)「厚生年金の業務統計等について」のP11、P12「ガイドライン区分ごとの支給決定割合」のマトリックス表等について、毎年公表すべきです。かつ、当該マトリックス表においては、各セルの受給率の表示に関し、等級別に細分化した表示をすべきです。
(3) 「障害年金業務統計」の不支給案件には、障害認定日請求と事後重症請求を同時に行った場合に事後重症だけ裁定された場合は支給案件として扱っているという共同通信報道がありました。これは不支給の割合を少なく見せる「統計偽装」と非難されて然るべき重大問題です。障害認定日請求が不支給となり、事後重症が支給となった場合に、請求1件・支給1件と処理されたのでは、特に恣意的に障害認定日請求について厳格な認定を行う傾向が強まった場合でも、それを統計で国民は知ることができません。障害認定日請求が不支給となり、事後重症が支給となった場合に、少なくとも請求2件・不支給1件・支給1件とカウントした統計も公表すべきです。
今回の不支給増問題の原因は、不透明で不公正な認定のあり方にあります。障害認定の改革に向けた専門家、実務家、当事者等による会議を早急に設置すべきです。
上記Iをふまえ、以下質問します。
① 上記Ⅰの「2 第三者委員会の設置」を検討する予定はありますか?
② 上記Ⅰの「3 改善策」の(1)~(8)の各項目ごとの当会意見について、どう考えるか回答して下さい。
③ 上記Ⅰの「4 障害年金業務統計の公表方法等」の(1)~(3)の各項目ごとの当会意見について、どう考えるか回答して下さい。
④ 国会の年金改革法案附帯決議と社会保障審議会での意見を受けて、障害認定の改革に向けた会議を設定する予定はないのでしょうか。
⑤ 職員及び認定医に周知するため判断のポイントを付した具体的な認定事例を作成するとありますが(報告書14頁)、これはすべての障害種別について作成するのでしょうか。その他障害である難病等について、実際に請求実績がある個々の疾病ごとに作成する予定はありますか。
⑥ 報告書では2024年度以降の、精神障害および「その他の疾患による障害」について不支給案件ならびについて点検し「必要なものは処分を取り消し改めて支給決定を行う」(報告書15頁)としています。このうち、認定基準「その他の疾患による障害」に基づいて認定された事案について、障害年金業務統計では数値が公表されていません[4]。障害基礎および障害厚生について、2019年度から各年度の決定数、各等級決定数、非該当数を明らかにしてください。
⑦ 上記③の点検は対象案件すべてについて行うのでしょうか。これは年内に優先的に実施するとしています[5]。年内に終了するということでよろしいでしょうか。
⑧ 精神障害について目安より下位の等級に認定されている事案および目安が2つの等級にまたがるものについて下位等級に認定されている事案について、2019年度以降の数値を年度ごとに明らかにしてください。2024年度について、この点検はいつまでに終える予定でしょうか。令和7年度の不支給事案についても、認定プロセス見直し前の4月~8月分の点検を行うとしています。この点検はいつまでに終える予定でしょうか。
⑨ 「障害年金業務統計」の不支給案件には、障害認定日請求と事後重症請求を同時に行った場合に事後重症だけ裁定された場合は支給案件として扱っているという共同通信報道がありました。これはいつからでしょうか。そのように統計処理していることを明示し、障害認定日請求と事後重症請求との同時請求に対して、少なくとも障害認定日では不支給で事後重症だけ認定されたケースの数字を公表することはできないのでしょうか。
⑩ 「障害年金業務統計」の却下案件の多くは初診日認定不能案件と考えられます。却下のうちの初診日認定不能案件数を明らかにしてください。同様に不支給案件にも保険者が初診日を特定したうえでの不支給が含まれていると聞いています。保険者が初診日を特定したうえでの要件未充足による不支給数を統計発表時に公表することはできないのでしょうか。
⑪ 外部障害において傷病が治った(症状固定)との判断の範囲が広げられ、治った時点から5年後の請求であるとの理由による障害手当金不支給および3級14号の支給停止が増加しているのではないかと思われます。時効による障害手当金不支給数および3級14号支給停止数を2019年度から2024年度まで明らかにすることを求めます。
今回問題となった不支給増問題は、認定のあり方そのものを変えないことには何度も繰り返されます。個別事案でみると、属人的で不透明な認定のために不公正な処分を受けることは表面化しないだけで、今までも多くありましたし[6]、これからもなくなることはありません。当会は2024年3月6日に「障害年金2025年制度改革への障害年金法研究会からの提言書」(以下「当会提言」)を厚生労働省に提出しています。この当会提言において包括的に述べた障害年金の改革の必要性が今回の不支給問題で改めて明確になったといえます。
恣意的、属人的で、当たりハズレの不公正な認定となっていることの原因は認定のありようそのものにあります。
日本の障害年金認定には、障害種別に共通したどのような障害の状態(活動制限・参加制約)が各等級に該当するのかというモノサシが存在していません。
政令別表に列挙されている外部障害も、「両眼の視力がそれぞれ0.07以下の」、「両耳の聴力レベルが90デシベル以上」、「両上肢のおや指及びひとさし指又は中指を欠くもの」および「両下肢の全ての指を欠くもの」等がどうして同じ2級なのかを国は説明できていません。さらに、列挙された外部障害を除くそれ以外の障害は包括条項によって認定されるものの、それぞれ1級は「日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度」、2級は「日常生活に著しい制限を受ける程度」、3級が「労働に著しい制限を受ける程度」とされているのみで、抽象的すぎてどういう障害の状態(活動制限・参加制約)が各等級に該当するのかははっきりしません。
どのような障害の状態(活動制限・参加制約)が、たとえば2級に該当するのかについて、障害種別に関わらず、説明しているように受け取れるのは、認定基準に記載されている「障害の状態の基本」(第2の1, 以下「障害の状態の基本」)しかありません。1966年の国民年金の認定基準からずっと変わっていません。
たとえば2級について、ここに記載されている、「労働により収入を得ることができない程度」とか、「家庭内の極めて温和な活動…以上の活動はできない」とか、「活動の範囲がおおむね家屋内に限られる」などは内部障害、精神障害には適用される一方で、外部障害には適用されていません。また、外部障害のある人はもちろん内部障害や精神障害がある人の場合も、支援施設への通所、福祉的就労、多大な支援を受けての障害者雇用での就労等により社会参加を行っていて活動範囲が家屋内を超えていても、多くの場合、障害による所得の喪失状態にあることで障害年金が支給されるべき状況にあります。これらから障害の状態の基本は、障害種別に共通する等級のモノサシとはなっていないし、すべきでもありません。
1級についても、「他人の介助を受けなければほとんど自分の用を弁ずることができない程度」で「活動の範囲がおおむね就床室内に限られるもの」としていますが、外部障害にだけは適用がないことは2級と同様です。
3級にいたっては、活動制限や参加制約の程度についての記載は一切なく、「労働に著しい制限」という政令別表と同じ記載しかないため、どのような障害像が3級に該当するかをまったく不明です。
すなわち、障害の種別に関わらず、活動制限および参加制約(それらと関わる社会的障壁を含む、以下同じ)がどの程度である場合に、各等級と認定されるのかについて、国は説明できていません。国が説明できない以上、認定に実際関わっている認定医や障害年金センターの職員(以下「職員」)が理解し、説明することもまた当然に不可能です。
共通のモノサシがなくても、個別の認定基準や精神障害についてはガイドラインがあるから、障害年金の認定は公正に行われていると、厚生労働省はいうのでしょう。
しかし、認定基準等に基づく障害認定は、以下のように認定基準そのものが不公正であったり、属人的要素が関与することにより、公正なものとなっていません。以下、具体的にみていきます。
障害種別ごとに等級の線引きは不公正なものになっています。たとえば2級について、同程度の活動制限・参加制約の状態かどうかが検討されたうえで、2つの障害が同じ2級であると設定されたわけではないからです。
その最たるものが、外部障害と、内部障害および精神障害とのダブルスタンダードです。働けていて所得が十分にあっても機能障害に該当すれば外部障害の場合は1級や2級が支給されるのに対して、内部障害および精神障害は支援を受けて働いている場合でも所得が自立生活ができないほど極めて少額でも、働いているというだけで2級が認められないことが多々あります。さらには、内部障害および精神障害の場合は、働けなくても、家庭内で生活できているからとか、客観的機能障害が示されていないとかいう理由で、不支給となります。働けず所得が得られないから障害年金を受給できると考えて障害年金を請求した障害のある人を、生存権を保障する社会保障制度から排除しているのです。
障害種別に共通する活動制限・参加制約が説明できず、個別の障害種別の基準が他の障害との均衡を意識して作成されて来たわけではなかったため、2019年以降2024年度までの障害年金業務統計でみると、障害種別によって他の障害に比して、不支給率が何倍も高い状況が固定化しています。たとえば、障害基礎年金の新規裁定では、大種別では内部障害が高く、精神障害の2倍から5倍、外部障害の約2倍です。内部障害の中でも循環器(精神障害の4倍から9倍)、呼吸器(精神障害の5倍から10倍)、および血液・造血器・その他障害(精神障害の4倍から8倍)が高いことは歴然としています。この傾向は基本的変化はなく続いていますから、認定格差は偶然ではありません。この障害種別による等級認定の格差も、障害種別に共通する等級ごとの障害状態像(活動制限および参加制約)がまったく明確でないことに起因しています。
外部障害は客観的機能障害のみで等級が認定される一方で、内部障害および精神障害は活動制限および参加制約の程度が等級認定に大きく影響します。この内部障害および精神障害を認定するにあたって、どの程度の活動制限および参加制約を2級とするのかという判断が最終的に2級か否かを画することになります。どのような障害の状態(活動制限・参加制約)各等級に該当するのかというモノサシがない以上、個々の事案について、最終的にどの等級と判断するかは、その認定医や職員の頭のなかだけにあるモノサシで判断するほかありません。
報告書は、精神障害とその他障害について、「医学的な検査数値等の客観的な指標等がな」い(報告書8頁)という点で共通しており、このことにより、2024年度の不支給事案についてはすべて点検を行うとしています(同15頁)。実際、2024年度の障害基礎と障害厚生を合わせた「血液・造血器・その他」の2級非該当の割合は2023年度(74.9%)に比べて、1.2倍(91.2%)に増加しています[7]。客観的に機能障害が示せないことにより、精神障害とその他障害の認定については、今回のように何らかの要因で、不支給割合が増加することは今後も起こりうることは必然です。
精神障害はガイドラインが設けられたものの、ガイドラインの施行から9年が経過し、原則としてガイドラインをほぼそのまま適用した当初の等級認定とは異なり、明確な合理的な理由なしに等級の目安に反していたり、複数の目安のうち下位の等級に認定することが年々強まっています。
客観的に機能障害が示せずガイドラインもなく、認定事例も示されていない難病等のその他障害の場合は、なおさら認定が非常に困難であり、バラツキも極めて大きなものとなっています。
そして、客観的機能障害により等級の例示が示されている内部障害の場合も、客観的機能障害では軽度であっても、就労がまったくできないなど活動制限・参加制約が大きいケースがしばしばります。しかし、このような場合には客観的機能障害が重視されて認定されるため、活動制限・参加制約が大きくとも、2級等に認定されないことがほとんどとなっています。
内部障害と精神障害では活動制限・参加制約の程度が等級認定において重視されるものの、その時に注目されるのは医師が認定可能とされる家庭内を中心とした生活能力であり、就労、就学、地域活動等の社会参加制約は後景に追いやられています。そのため、軽い家庭内活動や近所に時々買い物に行けるものの、就労はできないという場合に2級等に認定されないことが多々生じます。
客観的機能障害で認定することが基本とされる外部障害の場合も、日常生活動作制限の評価が等級認定の重要な判断要素とされている、「肢体の障害/第4 肢体の機能の障害」認定基準が適用される場合ならびに両上肢および両下肢障害などの場合には、筋力や関節可動域に比して、日常生活動作制限の評価をどうの程度重視するかによって、等級認定の結果は大きく違ってきます。ここでも、どの認定医や職員に当たるかによって、同じ診断書でも等級認定に相違が生じることが普通に起こっています。
第一に、上記アで述べたように、等級ごとの活動制限・参加制約の程度のモノサシがないことで、障害種別による認定の不公平が存在しています。活動制限・参加制約(それらを生み出す社会的障壁)が同じ程度であっても、障害種別や障害部位によって、障害年金が受給できる人とできない人が生じています。
第二に、上記イおよびウで述べた等級認定は最終的には活動制限・参加制約(それらを生み出す社会的障壁)の程度で等級が決定されます。しかし、そのモノサシがない以上、恣意的、属人的な不公平な認定となるのは必然です。日本年金機構の障害年金センターのセンター長による、事実上の認定厳格化の指示が2024年度の不支給率増加に大きく影響しているという報道について、報告書は事実であるとは確認できなかった、としています。しかし、どのような障害の状態(活動制限・参加制約)各等級に該当するのかというモノサシがない以上、個々の事案について、最終的にどの等級と判断するかは、その認定医や職員の頭のなかだけにあるモノサシで判断するほかありません。そのため、その時々の幹部の姿勢が、上記で述べた各等級の活動制限および参加制約の説明が一切できないことにより、恣意的であったり、不公正な等級認定(これまで受給権が認められた診断書と同様の診断書を提出したとしても今度は不支給となる)はいつ何時でも起こりえます。今回露見した2024年度の不支給割合の増加はその一端が明らかになったに過ぎません。そして、このように同様の診断書や障害状態にあっても、一方は支給され、一方は不支給となるという事案は、個別に見ると常時生じています。まさに、認定医や職員がそれぞれバラバラに等級のモノサシを頭の中に持っていて、どの認定医や職員に当たるかによって、結果は正反対となるからです。まさに当たり外れの状況に障害年金を請求する障害がある人は置かれています。
障害のある人の生存権を保障する中核を担う障害年金制度にもかかわらず、現状の障害年金認定が、等級認定のモノサシがない中で、支給されるかどうかが、障害種別もしくは障害部位別により、または担当する認定医等の当たり外れで決まってしまう不公正な状況にあることを厚生労働省はまず理解すべきです。
等級ごとの活動制限・参加制約の程度(モノサシ)を示せず、障害種別ごとに認定差があったり、実際に認定にあたった認定医や職員の頭の中にあるモノサシで等級が決められたりしている以上、たとえば、どうして2級でないのかという理由を、請求者がわかるように説明できないのは必然です。
現状として、処分理由の文書には認定基準の該当箇所と診断書などから切り取った事実関係の記載しかなく、客観的機能障害のみで等級認定を行わない、内部障害、精神障害、日常生活動作により認定する外部障害の場合に、事実関係により、どうして2級とならないかという説明を国はすることができません。どういう活動制限・参加制約が2級なのかというモノサシがないためです。
理由付記をいくら改善しようとしてもわかるような説明ができなのは、現状の認定のありように致命的欠陥があるためであることを厚生労働省は理解すべきです。
報告書では、精神障害に限って認定文書の記載方法と理由付記に問題が見られたという記載がされた(9-10頁, 13頁)一方で、内部障害、外部障害については「不支給事案について事前確認票や認定調書等を確認したが、判断の理由が明確に記載されている」(8頁)としています。しかし、上記のとおり、認定が公正で透明性のあるものとは言えず、理由付記がその体をなしていないのは精神障害に限ってのものではありませんから、このような評価は根本的に誤っています。
事前確認票や認定調書等に「判断の理由が明確に記載されている」のであれば、処分理由の書面には、判断の理由が請求者に理解可能なように記載されているはずです。しかし、客観的機能障害のみで等級認定を行わない、内部障害および日常生活動作も考慮して認定する外部障害の場合に、事実関係に基づき、たとえば、どうして2級とならないかということが理解できるように記載されている処分理由の書面は一つとしてありません。厚生労働省は内部障害および日常生活動作も考慮して認定する外部障害の場合に、「判断の理由が明確に記載されている」という処分理由書面が一つでもあるのであれば示すべきです。それができないのなら、このような言い方は誤りであったと認めるべきです。
内部障害および精神障害の認定に対して、外部障害は原則として客観的機能障害によって認定されています。活動制限や参加制約の程度は直接問われず、客観的機能障害の程度のみで等級が認定されます。内部障害、精神障害では、一定、活動制限等が判断要素とされますが、その内容は、医師にも評価可能とされる家庭内での活動制限にとどまっています。さらには、客観的機能障害が示せない場合は認定対象から排除されてしまいます。
これら内部障害、精神障害、外部障害の認定のすべてに共通するのが、医学モデル重視の認定です。
障害種別に共通したどのような障害の状態(活動制限・参加制約)が各等級に該当するのかというモノサシが存在しないまま、障害年金の等級認定は行われてきたのは、日本の障害年金認定が医学モデルを徹底してきたからです。
障害種別に共通するモノサシは障害種別ごとに医学モデルを徹底する場合には原則、不要です。障害種別ごとに、検査数値などの客観的機能障害を、医学的に重度、中等度、軽度の3段階に線引きをして、それぞれ1級、2級、3級とすれば、障害種別ごとの基準は完成します。認定基準の改正は、このように障害種別ごとに行われ、その障害種別に関する専門医が委員となって、他の障害種別との相関関係を検討することなく、繰り返されてきました。その結果が、現行の認定基準です。このことにより、客観的機能障害が示せない場合や、客観的機能障害以上に活動制限・参加制約が大きい場合に支給されるべき人に支給がなされないのは必然なのです。このことから、障害種別に共通するモノサシがないことは、医学モデルの重視の結果であったと言えます。
厚生労働省は、医学モデルだけでなく、社会モデルによっても認定を行っている根拠として、病歴・就労状況等申立書も認定の対象としていて、そこで本人が申し立てている活動制限や参加制約を審査し、等級認定に反映させているというのかもしれません。
しかし、実際の等級認定において、客観的機能障害が示せなかったり、それを超えて活動制限・参加制約が生じている場合に、同申立書の記載を根拠にして等級認定を行うことは一切なされていません。逆に、内部障害や精神障害の場合は申立書内容が機能障害よりも軽めの活動制限等の記載になっている時は等級を軽めに認定する(等級を軽く認定する時の根拠にする)ことがあるのみです。このような認定実務の実態からすれば、社会モデルによっても認定を行っている根拠として、病歴・就労状況等申立書を認定の対象としているというのは詭弁というほかありません。
上記(3)の医学モデルを徹底して認定を行っているという問題は、等級審査に関わるのが医師と職員だけであること、および、認定が医師の書いた診断書という書類を審査するだけであることと表裏の関係にあります。
今回、職員の認定医への関わり方(傾向と対策をまとめた認定医に関する文書[8]の作成、事前確認票における等級案記載など)が問題となりましたが、障害年金の等級認定が認定医に主に委ねられていることこそ医学モデルであることを端的に表しています。
障害年金は、障害により働けない、日常生活・社会生活に支障があることに対する填補のための社会保障給付であり、極めて社会的意味を有する仕組みであり、障害のある人の労働の現場や日常生活・社会生活について、実際には実態をよくわかっていないことも多い医師にその給付の必要性の判断を委ねることは妥当ではありません。これは患者の主治医であったとしても同様です。
ましてや障害年金の認定医は、氏名は一切公開されておらず、果たして請求者の障害・病気に対して専門性がある医師が判定しているのかも不明であり、ブラックボックス内でどこの誰かわからない、どのような専門性があるかもわからない医師が障害年金の受給の有無を決めるという現在の仕組みは障害年金に関する法の趣旨に反するものです。
もちろん障害年金の手続過程の中に医師の医学的知見が不要という意味では全くありません。むしろ、当該障害に詳しい医師が関与することは不可欠です。あくまで医師は医学的判断において知見を発揮するに過ぎず、障害年金請求者に対する社会保障給付の可否を決める立場にはなく、その権限を医師だけに付与すべきではありません。
今回の報告書では、医学モデルを徹底して認定を行っているという、日本の障害年金認定の根幹にある問題についてメスを入れ、そこを変えていこうとする方向性が一切見られません。むしろ、医学モデルによる等級認定を維持したうえで、小手先のほんの軽微な修正を行おうとしているとしか考えられません。
国会の附帯決議を受けて、医学モデルのみによる認定を根本的に改め、社会モデルによる認定に改めるべきです。
どのような活動制限・参加制約が何級に該当するのか(障害年金を支給対象か否かを画するのか)ということは、医学的にはどう考えても決定しえません。どのような活動制限・参加制約が何級に該当するのかは、障害年金の目的に沿った形で、保険者である国自身が決定する必要があります。
当会提言では、社会モデルの視点から、以下を障害年金の目的とするよう提言しています(6〜7頁)。
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障害年金は、障害者(身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの[障害者基本法2条])が自律・自立した生活(社会参加活動を含む)を行うために必要な所得を保障するためのものである。 [要保障事由]は、障害に基づく日常生活の制限ならびに稼得活動を含む社会参加活動の制限および社会参加制約により、または社会的障壁により、障害者が尊厳にふさわしい、生き生きとした自律・自立した生活を行うための所得(金銭)が不足し、その補填を必要とする状態(以下「要所得補填状態」)にあることである。 これは内容的には、障害により、 ①稼得活動が制限されること、または稼得所得が喪失している状態 または ②日常生活・社会生活に様々な支障があることに対する金銭給付が必要な状態 である。 |
このように社会モデルも含め、目的を明確にして、そのうえで、その目的に沿った形で、各等級についての活動制限・参加制約の程度を明確にしていくことこそが、国会の附帯決議にある「障害年金制度については、医学モデルのみならず社会モデルも踏まえて、機能障害のみならず、日常生活の状況等を把握した上で障害等級の認定を行うこと。」(2025年5月30日衆議院厚生労働委員会, 2025年6月12日参議院厚生労働委員会)を実現するためには必須です。
それにより等級認定を行っていくことで、上記(1)〜(3)で述べてきた不公正で属人的な認定を抜本的に改革することができます。
あわせて、社会モデルによる認定のためには、上記(6)の認定手続の改革は必須です。
当会は、当会提言5章「障害年金における障害者に対する手続的権利の保障を徹底せよ」(34~39頁)で詳論している以下のような審査手続の改革を求めます。
「(2)障害認定審査における手続保障…形式審査から実質審査方式への転換…」とし「認定の公正性の担保及び当事者の手続保障のため(介護保険、障害者総合支援法等も参考に)請求者が希望する場合は、生活または就労の場に担当官が出向く実地調査を必須とし、そこで請求人本人および支援者(家族、介助者、支援者等)の説明・意見陳述の機会(障害者参画)の保障をする。
認定にあたる職種、資格者についても、決して医師のみで判断することなく、社会福祉士、弁護士、社労士、PSW等の合議により認定する。」
以上のような手続改革により、公正で透明性のある認定に変革していくべきです。これこそが、国会での年金改革法案附帯決議にある「障害年金の判定に際しては、恣意的な判定がなされないように透明性を確保するための検討を行い必要な措置を講ずること」(2025年5月30日衆議院厚生労働委員会, 2025年6月12日参議院厚生労働委員会)を受けて、行政府として行うべき施策であることは疑う余地がありません。
国会で障害年金の改革に向けた附帯決議がなされた今こそ、上記(1)および(2)の抜本改革に直ちに着手すべきです。
まずは、国会の年金改革法案附帯決議「多様な障害種別に配慮し、当事者や関係者の実情を踏まえ、障害年金制度の見直しを進めること」(2025年5月30日衆議院厚生労働委員会)と、6月30日の社会保障審議会年金部会での4名の委員から意見を受け、等級認定の改革に向けた当事者および実務家による会議を設置することから着手すべきです。
以上
[1] 9月19日発表の2024年度障害年金業務統計に基づく数値
[2] 日本弁護士連合会「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」(改訂 2010年12月17日)に基づく第三者委員会
[3] 年金機構年金給付部「令和6年度第1回年金給付専門職研修 障害年金業務における留意事項等」令和6年7月, 55頁
[4] 2025年9月19日「不支給等事案にかかる点検作業の進捗状況について」で2024年度の不支給案件数を約800件としているだけ。
[5] 2025年9月19日「不支給等事案にかかる点検作業の進捗状況について」
[6] 社会保険審査会裁決例をみると、たとえば、精神障害について、家族以外との交流は乏しい(令和元年(国)1515号)、家族や施設スタッフとの交流は保たれている(令和3(厚)256号)、母の援助の下なんとか生活できている(令和3 年(国)590 号)等の診断書記載を国は2級非該当の根拠として主張しています。多くの場合、逆にこれらの記載は2級該当性の根拠となります。外部障害についても、「すべての指があってもそれがないのとほとんど同程度の機能障害」について、両手で行う顔を洗うなどの動作が「全くできない」ではなく、「非常に不自由である」こと等を国は該当しない根拠としています(令和6 年(国)396号等)。障害がない方の手指で行えば「全くできない」とはならないことはだれにでもわかります。
[7] 2023年度障害年金業務統計と2024年度同統計により計算。
[8] 令和7年4月29 日共同通信「障害年金判定、判断誘導の可能性 機構、医師の傾向と対策文書作成」など。