「障害年金不支給急増問題」を受けての厚生労働省との面談及び記者会見
2025年5月26日、当会は「障害年金不支給急増問題」を受けて、厚生労働省と面談(質疑応答)を行い、併せて、厚労省記者クラブにて記者会見を行いました。
<厚労省との面談(質疑応答)>
面談参加者:
厚労省参加者:
年金局/事業管理課/給付事業室/室長補佐
年金局/年金課/年金制度企画専門官
年金局/年金課/企画法令第一係/担当職員
障害年金法研究会参加者:
橋本宏子(代表)
安部敬太(運営委員)
田中葉子(運営委員)
藤岡毅(運営委員)
山本奈央(運営委員)
面談では、冒頭で、当会橋本代表から厚労省専門官へ質問書が手渡されました。この場面は、NHKをはじめとする報道陣により撮影されました。
続いて、事前に送付した当会の質問事項に対し厚労省が回答を行いました。質問と回答は以下の通りです。
【質問1】「不支給割合倍増」に関する事実確認は容易にできるはずです。
報道にある障害年金の不支給割合が令和6年度が令和5年度に比べて倍増したこと(以下「不支給割合倍増」)は事実ですか?
令和7年5月7日衆議院厚生労働委員会で福岡資麿厚生労働大臣は、不支給等は例年翌年度9月に公表しており、データを持っていない旨答弁しています。
しかし、令和7年3月までのデータは既に日本年金機構で集計済みのはずであり、その集計作業と報告を前倒しにさせるだけでよく、例年のようなすべての項目の報告は略して、「裁定請求件数と不支給件数と不支給割合のデータ」だけを先行して抽出して報告(以下「前倒し抽出報告」)させれば事態を早急に厚労省として確認できるはずです。
9月にならないとわからないなどと悠長なことを言わず、その方法で6月中にも厚労省としてデータを確認するべきです。
前倒し抽出報告を行う予定はありますか?
【回答】
障害年金の認定件数等については、年金機構で集計を行ったうえで業務統計として毎年9月に発表しているが、現在、早急に実態把握を行うため、抽出調査を行っている。
抽出したものについて、認定結果と不支給件数の割合などの概略を集計することを検討しており、抽出した内容についても基準にのっとり適正に審査しているか確認して、6月中旬に公表できるよう進めているところ。
【質問2】「サンプル調査」自体の公平性への疑問
福岡厚労大臣は上記委員会にて「サンプル調査を実施する」こと、その調査結果については同月8日参議院厚生労働委員会で「1カ月程度を目途に」明らかにする旨答弁しています。
しかし、そもそも批判されている当事者ともいえる年金機構の障害年金センター長が主導して行われるサンプル調査が公平に行われるのかという疑問も聞こえてきます。
どのような指示系統で誰がどのように(規模等含め)行う調査なのかお教えください。
【回答】
令和6年度の審査結果の単純無作為抽出を行い、不支給事案について個別に調査することとしている。
調査については、厚労省と年金機構の本部が連携して行っている。障害年金センターが主体として行うことはない。
【質問3】「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」の実施状況に関する再検証
令和5年度の診断書種類別件数では、「精神障害・知的障害」が約7割と多数を占めている中、等級判定に当たっては、「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」を用いることになっています。しかし、その実施状況に関する報告は令和2年9月に一度だけ行われたに過ぎません。
「ガイドライン」には、その運用、認定結果等について検証を行うとありますが、障害年金センターでの審査体制のあり方、ひいては、審査結果に疑義が報じられている現状があることを踏まえて、改めて検証する必要があると考えます。ついては、令和5年度と令和6年度の各年度における実態(「ガイドラインで設定された区分・目安と障害認定の関係」新規裁定/再認定)に関し、公表を求めます。
いかがでしょうか?
【回答】
調査の中で抽出した事例の個別内容についても、確認して参りたい。
【質問4】「不支給者救済のための再検証」の必要性
このサンプル調査結果が出た段階あるいは上記【質問1】の前倒し報告により、【質問1】の状況(不支給割合倍増)が概ね事実と確認された場合、令和6年度の不支給事案が適切に判定されていたかの「洗い出し、再検証」(適切でない場合の職権による再認定)(以下「不支給者救済のための再検証」)を行い、本来受給できたはずの権利が奪われていた請求者を救済すべきです。
このような「不支給者救済のための再検証」を実施する予定はありますか?
【回答】
結果は6月中に公表できるよう機構と進めているが、問題が確認された場合は、必要な対応を行いたい。
【質問5】統計における「不支給」の内訳について
「障害年金業務統計」における「非該当」「却下」等の意味と内訳を教えて下さい。
以下の案件は統計上、どこに含まれるのですか?
① 初診日確認不能を理由とする却下
② 保険者が初診日を特定したうえでの不支給
③ 複数障害等が混在していることによる却下
④ 診断書現症日が取扱いから外れている場合の却下
【回答】
個別具体的内容を確認できないため、詳細な回答は困難だが、不支給=「非該当」、却下=「却下」と集計しているものとして承知している。
提出された書類から内容審査を行った結果、国年法30条等に照らして支給要件に該当しない場合は「非該当」とし、書類不備などにより初診日の特定がされていないなどの理由で内容審査に至らなかったものを「却下」としている。
【質問6】「事件の原因解明のための第三者調査委員会設置」
「不支給割合倍増」が概ね事実であった場合、その原因解明のため、厚労省から独立した公正な立場の第三者による調査委員会等により事件の原因解明を行い、再発防止策を講ずるべきです。第三者調査委員会設置の予定はありますか?
【回答】
6月中旬を目途に結果を公表できるよう機構と作業を進めている。問題が確認された場合は必要な対応を行いたい。調査の結果を踏まえ、対応を考えていきたい。
【質問7】「障害年金に特化した専門検討会の設置
障害年金の認定のあり方について社会的に批判が寄せられています。
当会が繰り返し求めてきた「障害年金に特化した専門検討会」の設置については、新聞の社説、障害者団体、国会議員による質問等でも同趣旨の意見が広く支持されています。
立ち上げの予定はありますか?
【回答】
今回の社会保障審議会年金部会では、障害年金に関する課題として様々な事項を検討した。その結果、いずれの事項も他の施策、社会保険原理との関係について、更なる議論が必要とされた。どのような課題について議論を深めるべきか検討する必要がある。議論の仕方を含めて、議論が必要と考えている。
【質問8】「障害年金判定プロセスの改革」
医師や機構職員などの1~2名が密室で行う障害年金判定プロセスを改善し、判定の透明性を高めるべきです。
報道では、あたかも年金機構職員個人が個別の障害年金受給の可否を自由に決定する裁量権限があると年金機構や職員が思い違いをしているかの印象です。
令和4年度には、職員による「事前確認票」が設けられましたが、その運用は適正に実施されているのでしょうか?
当初案には「障害状態の程度を職員が事前判定する仕組みの導入」とあり、第59回社会保障審議会年金事業管理部会では、これにより「職員が判定することになるのか?」との運用上の懸念が委員から指摘されていました。
一連の報道が明らかになったのは厚労省と年金機構の、障害者から請求を受けた障害年金の帰趨を自分たちが自由に決めることができるという明らかに違法な行為、傲慢な思い込みであるとの会員からの強い批判も寄せられています。
この点の法令遵守を強く求めます。
当会が令和5年3月の提言書で求めている
「障害認定のやり方を 形式(書面)審査から実質審査へ
当事者の希望があれば現地調査を必須とし、当事者・支援者・ソーシャルワーカー等が日常生活・社会生活上の不利益・支障等を説明する機会を保障し、医師だけでなく、複数の職種者が合議により認定する制度へ転換する。」
という改革案は、多くの障害者団体やメディアも支持しています。
このことを国が検討することは社会的に求められていると考えます。
ご検討いただけますか?
【回答】
令和6年における認定状況の抽出調査は、職員による事前調査を含め、個別審査の結果を確認し、必要な対応を検討して参りたい。
現在の認定においては、請求者の主治医である医師のみならず、「病歴就労状況等申立書」等については社会福祉職の人が記載を行うこともあり、総合的判断を行っているところ。現地調査については、審査件数が年間40万件近くある中、現地調査を行うことは相当な時間を要するので、慎重な検討を要すると考えているところ。
【質問9】年金機構への丸投げ体質への疑問
障害年金の運用を年金機構に丸投げして、責任ある指導・監督をしない厚労省の姿勢が事態を引き起こしたものと言えます。
厚労省が障害年金政策の基本的な運用の方向性をしっかり監督できるよう、年金機構との関係性を見直すべきと思われます。
この点の反省と改善策についてどう考えているかお教えください。
【回答】
障害年金の運用を年金機構に丸投げしている認識は持ち合わせていない。実態把握のための調査を踏まえ、必要な対応を行って参りたい。
令和6年ころから、当会の社会保険労務士会員の相当数から次のような報告が寄せられています。
【必要な診断書等の資料を添付して裁定請求した事案について、年金機構からカルテの提出を求められ、障害年金裁定請求書類一式が返戻される事態が増えている、しかも提出されたカルテから「今日は気分よく作業が出来た」などの部分がつまみ食い的に都合よく切り取られ、不支給またはより低位等級の根拠として悪用されている】
カルテ上の情報は憲法13条等に基礎づけられた患者の有するプライバシー情報にほかならず、本来、国家権力によりその開示が強要されることは許されません。
障害年金関連法令にも、障害年金の裁定請求者がカルテ提出を義務付けられる根拠規定はありません。
現在の国(国が年金機構に業務委託している以上、国の行為)のこのような行為は障害年金法裁定請求の申請権の侵害、プライバシー侵害であり、違法の誹りを免れません。
厚労省としてのこのような「申請者に対するカルテ提出指示」の実態を把握されていますか?
されていない場合、実態調査をするべきですが、調査をしていただけますか?
当会指摘のような実態が確認された場合、どのように対処しますか?
【回答】
障害年金の等級の決定にあたっては、提出頂いた診断書等の内容に疑義が生じた場合や障害程度の判定が困難な場合は、カルテ開示を含めた医師照会を活用するよう取り組んでいるところであり、ご指摘のように都合よく不支給や低位等級の根拠として悪用されているというような、恣意的な理由で運用していることは承知していない。
【回答】
今回、社会保障審議会年金部会では、他の施策、社会保険原理との兼ね合いから、更なる議論が必要とされた。障害年金の議論の在り方を含め、引き続き検討して参りたい。
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次に、事前質問以外の質問を当会から厚労省へ投げかけました。質疑応答は次の通りです。
l 昨日の共同通信の報道(報道を受け機構が密かに再判定を行っているとの報道)について、まさに厚労省でも実態把握した上で今後の救済を検討されているものと受け止めたが、内部での検討はそういうことなのか。
【回答】
新聞記事が出たことは承知している。内容等について、記事に対する回答は差し控えたい。
l 質問1の件は、概要を早めに報告するということか?
【回答】
国会では「公表は6月」と回答したが、今回「6月中旬」とお話しした。
l 質問1は、「全件データは簡単に分かる。サンプル調査の必要はないのでは?」という質問だった。厚労省は実はもう把握しているのでは?機構に報告させることは簡単にできる。できないはずない。社会に全件データを公表したほうが、厚労省の信頼が高まるのではないか。
【回答】
もともと令和6年度の件数は9月に向けて機構のなかでシステムに組み込まれていている。確定値でない以上、公表はあくまでも9月。今の段階で不支給件数、却下件数など確定数値をお出しできない。調査には、期間と人手の問題がある。
l 質問3については、精神ガイドラインに関する質問なのに、サンプル調査についての回答だった。ガイドラインの妥当性検討は?
【回答】
ガイドラインの検証は令和2年に一度だけやったが、これはそもそも地域差があったことにより認定を中央に統合したその結果、地域差がどうなったかを検証したもの。今回、指摘の内容の再検証と令和2年の9月に一度行われたものは、目的が違う。
調査をした結果として問題があるなら、個別内容を確認した上で、ガイドライン修正が必要なら修正していかねばらならない。
l 質問4について、回答は「職権で救済すべき人を救済することがある」という理解でよいか。
【回答】
調査の結果、問題が確認された場合、問題解決するために必要な対応を取る。
l 質問6については、質問4とは次元が違う話。今回の事件がなぜ起きたのか解明して再発しないようにしようという、違う角度の質問だと認識しているか?
【回答】
違うとは認識しているが、今の段階では質問4も質問6も回答はほぼ同じになる。調査結果がはっきりしていない段階では、答えがしにくい。
l 専門官からの回答は、以前(2025年3月の面談時)の回答と変わらない。今回の一連のできことを踏まえても、対応は変わらないのか。今回の検討結果次第では、認定の在り方について検討が必要となるのでは?
【回答】
現時点においては、状況は前回の回答時と変わっていない。課題を整理し、議論の在り方をふくめて検討していきたい。
l 6月半ばのサンプル調査の結果が出て、新たな措置が必要になった場合でも、回答は全く変わらないという意味か。
【回答】
調査結果が出ていないので、今の時点では回答できない。
l 質問3のガイドラインが示す等級の目安との関係について。サンプル調査では、ガイドラインに沿うと等級に該当するのに実際の認定結果は該当していない、という事例も検証するのか
【回答】
その通り。
(上記に掲載しました質疑応答の内容は、障害年金法研究会側の記録によりまとめたもので、文責は障害年金法研究会にあります。)
<記者会見>
厚労省との面談後、厚労省記者クラブにて、記者会見を開きました。5社の報道機関が参加しました。
会見では、厚労省との質疑内容を報告したのち、運営委員が厚労省の対応などについて、次の意見を述べました。
l カルテ開示強要について、厚労省は調査結果が出ていない現時点から「悪いことはしていません」という対応。3万人の不支給者のおそらく半分くらいは本来支給されるべき人だと考えられるが、だとしたら3万件全件を見直す必要がある。厚労省は不支給から支給への徹底した救済を本当にやるのだろうか、今回の姿勢からは疑念を感じざるを得ない。(藤岡運営委員)
l 質問8で厚労省が「ソーシャルワーカーが申立書を記載しているので社会的事情を組み込んでいる、本人の主治医の診断書が添付されているから本人の状況を汲んでいる」と回答したことについて、申立書は確かにソーシャルワーカーが書くこともあるが、国がそれを推奨しているというのは聞いたことがない。厚労省が回答のなかで申立書は福祉職の人が書いているから医師だけの判断ではない、と公言したのは驚きだ。しかし、申立書は実感からいうと等級認定にほぼ反映されていない。厚労省は「主治医は本人の状況を把握している」と言っていたが、実際には診断書の内容を信頼していない。だからカルテを出せと言っているのではないか。実際に診療している医師が書いた診断書や等級目安を無視した認定が横行している。これが不支給倍増につながったと考えている。特に難病・がんは、主治医の評価を尊重せず、客観的所見があるかどうかで認定しており、厚労省の回答は認定の実態からかけ離れている。(安部運営委員)
l 厚労省は件数が多い中で現地調査は困難と回答していたが、障害福祉の現場では何万件のレベルで現地調査を行っている。生活保護では調査を事務委託している。工夫すればできなくはない。「個別にみていられない」とギブアップするのでなく、できるよう改革すべき。無責任で、真摯な検討をしようともしていない。本日の回答から、「調査やりました」というアリバイだけを作り、雲散霧消してしまうのではないかという危機感を感じた。(藤岡運営委員)
l 国は認定にソーシャルワーカーが関与していると話していたが、当会は、制度としてトータルに本人をみるシステムが必要だと提言している。精神障害や内部疾患の人が増えてくると、医療カルテを見るだけではなく、ケースワーカーなど様々な人が、全体像、実況で本人をみていく必要が出てくる。障害者の人間像、認定に求められるものが変わってきている。(橋本代表)