Ⅱ 第17回 障害年金法研究会 報告

 

 本章は20201021日に開催された第17回障害年金法研究会(神奈川大学法学研究所との共催)(オンライン)の報告である。

 

  テーマは

 「1型糖尿病訴訟を契機に考える法律問題~認定のあり方・理由付記~」である。

 

 1型糖尿病訴訟(大阪)弁護団副団長の青木佳史弁護士、

「行政法は〝皆の幸せのための法律〟」と説かれる嘉藤 亮教授を講師に迎え、

障害年金における「理由付記の意義」、「障害認定基準の法的性格」等に関して、

1糖尿病障害年金東京訴訟代理人の関哉直人弁護士をコーディネータとして、

会員各位で熱心な討議がなされた。

 

目次

17回研究会 障害年金法研究会 議事録

レジメ青木佳史

レジメ関哉直人

レジメ嘉藤 亮

レジメ七尾由美子

七尾レジメ 参考資料

レジメ安部敬太

レジメ藤岡毅

レジメ震明 裕子

レジメ橋本宏子

 


 

17回研究会 障害年金法研究会 議事録

 

テーマ 「1型糖尿病訴訟を契機に考える法律問題」

~認定のあり方・理由付記~ 」

開催日  2020年10月21日

開催方法 オンライン

障害年金法研究会と神奈川大学法学研究所との共催

講師またはパネリスト

・青木佳史(弁護士)

・関哉直人(弁護士、当会事務局長、司会兼任)

・嘉藤 亮(神奈川大学教授 行政法、当会会員)

・安部敬太(社会保険労務士、当会会員)

・七尾由美子(社会保険労務士、当会会員)

  開催趣旨

    大阪1型糖尿病訴訟弁護団副団長青木佳史弁護士と当会会員で行政法を専門とする嘉藤亮教授を講師とし、障害認定基準の法的性格や理由付記等について、基本的な理解を共有するとともに、意見交換を通して、踏み込んだ検討を行った。

 


 

[青木佳史]

大阪の青木佳史です。平成30411日に大阪地裁で判決が下りました。

原告9名全員に関して、障害基礎年金を否定する処分に理由が書かれていないという行政手続法違反だけを理由としてその処分を取り消すという結論でした。

ところが被告の国はその判決を受けた後「理由さえ付け足せば同じ処分を下すことは許される」という見解に基づいて、再び障害基礎年金を支給停止する処分を下しました

国は、同じ年の5月にそれぞれ原告9名対して再度同じ時期、同じ時点をもって支給停止をする処分を、今度は前回に比べればある程度の理由を書いて送ってきました。

原告らはこれに対して再提訴をして争わざるを得ない状況になったということであります。

改めて平成31411日判決を確認しましょう。

まず理由付記が必要な理由に関する判決の説明です。

「障害基礎年金の支給停止は、生活状況に鑑みても非常に重大な不利益処分であり、それに求められる理由付記には十分な理由の提示が必要である」と指摘します。

その上で本件の認定については、障害基礎年金の認定基準の当該部分自体が具体的なものではない。そのため本件を認定するための判断基準を示さないといけない、付記された理由そのものから、それらの判断過程が了知し得るというものにしなければならないとします。

被告の国は、処分理由は処分を記載した書面自体に書いてなくても、省令とか認定基準などを見れば、自分がどうして支給されないのかは推知できるだろうと主張していましたが、裁判官は、それではいけないと示した上で、本件に関しては、理由は全く書いていないに等しい、としたわけです。

再提訴をした第二次訴訟については、新型コロナ禍での裁判所の機能の停止期間中も、準備書面での主張とか、様々な書面による立証を継続して行ってきており、訴訟はあまり止まらずに進めていると評価しています。

今回の訴訟は、二度と同じ結末になってはいけませんので行政手続法上の争点だけではなく、実体審理としても障害等級2級相当であることは何も変わらない、現在も糖尿病の2級の基準に該当するという立証、診断書やその他、生活実態に基づく立証活動をやってきております。2級であることは変わらないという実体判決を求めることを最大の目的として今回の裁判を行っています。

併せて、「最初の原処分取消判決が確定したにも関わらず、国がもう1回同じ処分をしても平気だ」というこの問題はどうなるんだという議論も続けております。

この点についても、判決で明確に示してもらいたいという期待を持っています。

現時点での原告弁護団のこの点での主張は原告準備書面7としてお配りした資料です。

この中身については、何人かの行政法学者の先生に助言を頂いたり、著名な行政訴訟法の基本書書物等も検討した上で書いています。

ただ、現在のところ、「行政手続法違反に基づいた判決の場合でも再処分ができない」と拘束力を明言している学説というのは見当たりません。

「実質的理由に基づく取消判決の場合は再度の処分は出来ないが、そうではない手続的理由に基づく取消判決の場合は再度の処分はやむを得ない」。この考えが本当にそれでいいのかを、本件を通じて問題提起をしたいわけです。

この問題を明確に意識した上で議論をしてきたのかという観点から学説を検討すると、どうもそこまでの議論はなされてはないようです。今後こういった事態に現実に直面して、行政法学者の中での議論を深めていただきたい論点だと思っています。

後でも触れますが、刑事手続における「double jeopardy:一事不再理」や「デュープロセス」の問題も引き合いに出せるのではないかという点や、行政処分の種類によって場合分けをして、こういう場合には再提訴できない、こういう場合には再提訴もやむを得ないなどと、分析的に議論するなど、もう少し細かな議論を検討するべきではないかと考えています。

本件については、様々な支給停止や訴訟進行の経過から再提訴は権利濫用による違法であると裁判所には判断してもらいたいとして議論をしています。

1型糖尿病だけではなく、内部障害の皆さんの障害基礎年金の認定はますます厳しくなっている中で、それに対するカウンターになるような判決が出せればという思いで頑張っているところです。

[関哉直人]

青木さんどうもありがとうございました。

コンパクトにまとめていただいてありがとうございます。

続いて、私関哉の方からですね、東京訴訟の状況を短く、ご報告させていただきたいと思います。

東京の方は大阪のように、2級が支給された方が支給停止になったという事案ではなく、新たに裁定請求を行ったという型糖尿病の方の事件です。

今日あまり深堀りはしませんが、糖尿病の認定基準、認定要領については3級を基本としており、2級以上の基準が詳しくは設けられておりません。

注意書きの1のところにですね、一番下のところですが、現行認定要領を抜粋しておりますが、糖尿病については、これこれのケースを3級と認定すると。

なお症状、検査成績、具体的な日常生活状況等によっては、さらに上位等級認定すると書いてあるだけで、上位等級、すなわち2級以上に認定されるケースというのはいかなるケースなのかということが基準が設けられていないとそういうことで、レジュメ真ん中の2の争点ですけれども、糖尿病に関する認定基準っていうのはそもそも医学モデルに基づく認定基準だとか、3級をベースにしていて、2級以上は明確な基準がない等々でですね、この基準自体が不合理で違法なんだという主張をしています。

ただ、レジュメの3のところですが裁判所は、現行の認定要領を前提として、原告が3級に該当する症状・状態なのか。

障害年金の訴訟に多分つきものだと思うんですが、認定基準の違法性を主張して、国年令に直接当てはめるっていうことをやろうとするんですが、裁判所はやはり基準ありきはりじゃないと判断ができないので、基準に該当するかっていうところをメインに、審議をしてくると。

こちらも裁判所が関心を寄せているのであれば、そこの主張立証ということで、個々の原告がしっかり支給がされるようにということで、審理をこちらも尽くさなきゃいけないので、やはり現行認定基準や現行認定要領という意識した主張立証せざるを得ない。

そんなことをつらつらと、このレジュメに書いてありまして、Ⅰ型糖尿病の方は、短期間で数字が乱高下しますよということとか、そこの日常生活っていうのを、具体的に、この日はどんなことがあったんだとかですね、そういうことを詳しく詳しく書くっていうものを提出しているという状況で、テーブルは裁判所が関心を寄せているところに乗っかって今やりとりをしてるんですが。

もともとなんでこんなことをやってるかっていうと、基準がはっきりしていないからっていうような根本的なものがあるので、はっきりしていない基準に基づいて、この審理していること自体がどうなんだというところで、その葛藤を常に抱えながら裁判所の中で審議をしているという状況でございます。

私からは以上で、ということで続いて、嘉藤さんの方からご報告をいただきたいなと思っております。

[嘉藤 亮]

先生がたご説明いただきましてありがとうございます。

まず理由付記のところで地裁については取消・認容判決が出たんですけれども、これは他の方もすでにご指摘にあった通り、違法性については実体法と手続法にだいたいわかれますが、これまで取消訴訟におきましては、手続違法については実体の判断に影響するか否かで、取消しの可否が決まっておりました。

つまり手続的瑕疵単体で認容判決が出るっていうことはなかったわけですが、この点については学説上もかなり批判が多いというところもありまして、手続的瑕疵単体でも、認容判決を出せるというような形に変わってきて、資料にもありました通り、この点について近年では建築士法事件で免許取消しの際の理由付記の程度、こちらについて瑕疵があるというところで、取消判決が出たわけです。これはまさしく今回問題になりました大阪地裁判決と同様の枠組みを採用しております。

これまでは、この建築士法事件までは触れていないというところがありましたけれども、この大阪地裁判決については、そこをさらに踏み込んで、事実とそれの法律上の基準へ当てはめた関係、こちらにまで踏み込んだ形で記載しなければならないという判示がありましたので、この点大阪地裁判決は画期的だったかと思います。

この点については、後の議論でありますけれども反復禁止効の所との関係で、また改めてご説明できればと思います。

以上のような形になりますけれども、詳しくは私の資料の方に載っておりますので、この程度にとどめておきたいと思いますがよろしいでしょうか。

[司会]

ありがとうございます。

障害年金のような申請に基づく処分も最高裁判決が及ぶのかって議論がまず一つありますけれども。

[嘉藤 亮]

この点については学説上も同じように扱われるべきでしょう。

行政手続法上は理由の提示に関しましては、その規定ぶりというのは同じでありますので、ですので、こちらについても同じ射程が及ぶだろうと言われておりましたが、大阪地裁判決も同様の判断をとったというところが言えます。

資料にあります通り、東京地裁の平成27年の判決がありますけれども、それに続く事例の判断だということが言えます。

つまり法律上ではどのような基準を提示しているのか抽象的なものであって、ここだけでは判断できないというところがあります。

本案の主張に関してはここが一つ大きいポイントになろうかと思いますけれども、果たしてそのような裁量判断が被告の側に広く認められるのかどうかという点がありますが、これはまた後ほど触れます。非常に基準の中の基準、さらに細かく踏み込んでいかなければ、どのような基準に適合するのかがわからないという特徴がある中で、本件においては、すでにお示ししていただいた通りの非常に木で鼻をくくった形での一面的な処分理由でしかなかったわけですね。

この点を捉えまして平成23年の最高裁判決と同様の形で、細かな基準のどこに該当するのか、ここまできちんと理由を定義しなければならないということを、判示しております。

さらに加えまして、一番初めにお話しました通り、この基準と実際の、今回の原告の方の状況事実ですね。

その上で、本件の場合、さらに特徴的なんですけれどももう一つあるのが、どのような形で理由を提示すれば良いのかという示唆までしていたわけですね。

この件について裁判所の訴訟指揮と申しますか、この後の手続について、ある程度行政庁の方に諭した感が、私は、あるのではないかと思っています。

この点についても実はおそらく、次の実体の話になると思いますので、この点でまた改めてお話できればなと思いますが、理由付記に関しましては、以上のような形で非常に画期的な判決の一つであったと言えるかと思います。

ただしもう一点あるのが、どのぐらいの理由の付記の程度で良いのかという問題が出てきますので、それはやはり事例ごとに判断するしかありません本件についてどのような形であり得るのかというのは、他の会員の方のお話も伺いながら考えていければなと思います。

以上のような形でよろしいでしょうか。

[司会]

 ありがとうございました。

では続いてのパネルディスカッションのところで、またいろいろとご議論させていただきたいと思いますが、七尾さんの方からですね、ご報告をいただければと思います。

 [七尾由美子]

実際に大阪地裁で理由付記の適用関係に踏み込んだ画期的だった判決が出た上で、実態はどうなのかというところを考えてみました。

事例についてはレジメをご参考いただければと思います。個人情報の開示請求をした上で確認できた不支給理由についても、レジメⅡ-4に補足事項として載せていますので、お読みいただければと思います。

処分通知に付された不支給理由は、不支給理由に取り上げられるとは思いもしなかったような点を取り上げ、「判断の根拠となった事実関係等」として列記されているという状況でした。

理由付記の構成としては、認定方法、障害認定基準、判断の根拠となった事実関係等、そして判断という四つにわかれています。そのうち、判断の根拠となった事実関係等には「障害認定日について」「請求日について」として事実関係を列記し、最終の「判断」において「以上のことから(・・・中略)12級および3級の障害の状態には該当しない」という、理由という理由にはなっていない理由で判断をしたということが書いてあります。これは単に事実列挙に過ぎず、理由にはなっていないと思います。

判決が求めているところの「適用関係を示す」そして「当該処分の相手方においてその理由の提示のその内容自体から了知しうるもの」になっているかどうかについては結局のところ全く了知できないものになっていたと思います。

そもそも適用基準である障害認定基準の中身が曖昧ですので、何を適用してこういう判断をしたということを具体的に示すことが難しいのではないかと推測されますが、それにしても処分通知に理由付記として事実の列挙をするのみで、その事実がどのような判断につながり処分をしたのかは具体的記載がなく、大阪地裁判決の求めるところには至っていません。

一方、別途個人情報開示請求手続きを行い取得した障害状態認定調書にはもう少し具体的な、分かりやすい理由が記載されていました。にもかかわらず、その内容は処分通知の理由付記には記載されていません。個人情報開示請求手続きを行って初めて具体的な理由が分かるという状況は大阪地裁判決が求めたことをないがしろにしていると思います。障害状態認定調書に記載されている理由を処分通知で通知しなかった不誠実さはとても残念であり、保険者は大阪地裁判決の意義を真摯に受け止めて欲しいと思います。

とはいえ以前の処分通知に比べれば、ほんの僅かの記載はあり、不十分ながらも1歩前進したと受け止めています。今後、保険者が処分を通知する過程が、認定基準の何に当てはめた判断なのかを真摯に慎重に検討する機会となれば不当な処分も少なくなるのではないかと期待を寄せています。

また、理由があいまいなままでは審査請求および再審査請求をするにあたり、どのような主張をすればよいかは手探りで進めることとなり、あいまいな理由はその後の審査請求、再審査請求で形を変えてきます。

処分理由が曖昧になること、それはやはり認定基準が曖昧であり、曖昧な認定基準のもとでは処分理由を明確にすることができない状況があるからではないかと思います。あいまいな認定基準であることが審査請求から再審査請求に向かう途中で理由が変わっていくことにも繋がっていくのではないのかと思います。

私の方からは以上です。

[司会]

七尾さん、ありがとうございました。

それでは安部さんの方からお願いしたいと思いますよろしくお願いします。

[安部敬太]

レジュメを見ていただいきたいと思いますが、最初の1番、理由付記のところですが、これはこれまでの理由付記っていうことが主ですけど、大阪判決を受けても、基本的には変わっていないかなっていうところがあると思います。

これも個人情報の開示請求でやっと出てくるわけですけど、それにしても、社会保険、特に障害年金関係についてはですね、障害状態認定調書とか、障害状態認定表っていうものを開示請求しても、ほとんど理由が書かれていないことが多いんですね。

資料番号は13でではなくて14なんですけど、このレジュメの番号が違ってますが、私がやったケースで子宮頸がんの方で、請求日時点ではリンパ浮腫も併発している方なんですけど、それについての理由付記はですね、資料143枚目に、事実関係しか、やはり七尾さんの事例と同じように書かれていないということですね。

認定日についても請求や請求日についても貧血がないっていうことだけであとは一般状態区分のイであることっていうのは3級でないことの理由にはならないわけで、3級っていうのはご存知の通り、一般状態区分イ、またはウっていうふうに認定基準に書かれているわけですから、一般状態区分がイであったり、軽労働ができること、あるいは請求分については、フルタイムで働けず、パート勤務しかできない、午前中のパート勤務しかできない方なんですけど、そういうことっていうのが労働に制限がある状態でないっていうことの理由にはとてもならないわけです。それなのに、そういう事実関係しか書かれていないということが実態で、この方についても障害状態認定表とか認定調書を開示したんですけど、そこに書かれていたのはやはり貧血じゃないっていうことと、一般状態区分がイであるっていうことだけです。

七尾さんの事例とは違って、認定した認定医が書いた書面の方が、理由として出てきた事実関係を書いた文書以上にいい加減に書かれている、そういう記載しか残っていないという事例になっています。

とにかく処分理由が、認定医でない人が見ても理解できる程度に書面化することが、もしできれば、認定の公正化とか標準化に繋がっていくと思うんですけれど、まだまだ大阪判決を受けても、そういうことにはとてもなっていないというのが実態だと思います。

昨年の926日、2019926日に大阪地裁判決を受けて、厚労省が出した通知が資料13ですけれども、そこに理由付記の充実についてということで、からまで理由付記をしていくんだということが書かれています。

認定方法、法令、通知、それから認定基準、それから3番目として判断の根拠となった事実関係を記載するんだと言っていますが、ここは嘉藤さんのお話にあった通り、事実関係ではなくて、適用した認定基準への当てはめて関係が申請者に明確に伝わるように記載するんだと書かれているわけです。

2番目の認定のあり方ですが、糖尿病単独での2級以上の認定基準がないということが、先ほどからお話がある通り、糖尿病については非常に問題です。

この国の障害年金の認定のあり方は、徹底した医学モデルを突き進めてきたものとなっていますから、例えば2級になる基準を出せと言ったら、客観的にわかる機能障害というものがでてきて、それに合致しないと2級にしないというふうになってしまう。糖尿病については2016年の認定基準改正で、ほぼ最重度が3級とされたというふうに言ってもいいと思うので、2級の基準というのを設定することが非常に困難な状況にあると思います。

認定基準においては、一般的程度の記載、障害の状態の基本というふうに書かれている箇所ですが、そこに稼働不能であるとか、家庭内での極めて温和な活動以上ができないとか、活動範囲がおおむね家屋内に限定されている場合は2級だと記載はしています。しかし、だったら外部障害、たとえば、両方の視力の和が0.08以下の方が、ずっと家に閉じこもっているかというと、そういうことはないわけで、外部障害の2級のほとんどのケースは、この一般的な程度の説明が当てはまらないわけです。

その一方で、精神障害、内部障害あるいは複数の障害については、この当てはめが行われていくという、非常に大きなダブルスタンダードになってしまっています。これについて、国側もなぜそうなっているのか説明できないという状況にあるわけです。

現状では客観的に機能障害が重症度であることを示せない場合には、稼得能力を完全に喪失していても、2級は認定されない、支給されないという現状になってしまっている。2級に認定すべきはどういう状態なのか、それに当てはめて2級という認定を求めるという認定のモノサシを、請求側から具体的に考えていく必要があるのではないかと思います。そういうことが示せる場合は示していくことも必要にはなると思います。さらに、もっと根本的に、障害種別に共通した、こういう場合に2級なのだという中身を、こちら側から作っていく、そういう作業もこの研究会を通じてやっていけたらいいなと思っています。

[司会]

 安部さんありがとうございます。

一つは大阪地裁判決を踏まえて理由付記の現状と到達点みたいなところを議論をしたいなと思っています。

三つ目としては、本日のテーマの理由付記の問題から考える、改めて認定基準のということで安部さんが今ですね、いろいろと頭出しをしていただいたところでもありますが、この三つについて議論していきます。

実際に議論していただく皆さん、そして指定発言をお願いしている皆さんにお願いしたいこととしては、時間が限られてるので、どんどんどんどん短めにお話をいただきたいというのが一つです。

議論の一つ目ですけども、大阪地裁判決が出まして、そこの理由付記のですね、まず法的な、それについての評価と、実務の話に、その次に入っていきたいと思いますが、まず嘉藤さんの方に伺いたいのが、レジュメの中でですね、平成23年の最高裁の判決に至るまでに、いろいろな経過があって、基本は、その理由付記を何のためにしなきゃいけないのかというと、行政庁の判断の慎重さを期すと、その恣意を抑制すると。

そういった趣旨等を踏まえて、23年最判が出て、さらに、大阪の判決でですね、法令にとどまらず認定基準等のですね、理由付記に、そういったレベルまで理由付記を求めたり、あるいは適用関係なんかも、ということで求めていったということですが、現状これは当然、評価できることとして、ある面、理由付記の判決の到達点というふうに評価をしていいのかということで伺ってよろしいでしょうか。

[嘉藤 亮]

はい、ありがとうございます。

ご質問にお答えしますとご指摘の通りというのが結論でございます。

若干具体的な基準を示してどこに該当するかという、そこまで行ってくださいというのが23年最判ですけれども、本件の場合にはその基準の指摘のみならず、具体的な、適用関係も指摘しなさいというところで、かなり踏み込んでいるという特徴がありまして、これはやはり現在のこの理由付記の判例についての最も最先端な判断だろうということが言えるというのが一つあります。

また一方でもう一つありますのが、これをこの場面でいうのもなかなかふさわしいのかわかりませんが、例えば情報公開だとか、個人情報保護の領域では、理由付記は相当厳しくなってまして、不服申立てで審査請求をするという場合には大阪地裁のこのレベルの理由付記だと、一顧だにせずにバサッと理由付記が十分でないというところで取消しという裁決が出ることがかなり一般的になっています認識としましても厳しくなってますので、この判決の対応というのはやはりそのような状況も踏まえているものだと評価することができようかと思います。

私からは以上になります。

[司会]

ありがとうございます。

続いて青木さんに伺いますが大阪弁護団の評価としても、これは理由付記に関しては、求めていることの全てを勝ち取ったと、そういった評価でよろしいでしょうか。

[青木佳史]

そうですね、少なくともその点についてはそうなります。

ただ、その後の国の支給停止の再処分をした通知書に記載された理由は、判決の判示に沿った内容にはなっていませんので、国は判決の趣旨を踏まえていないと言えますので、そこを今後どうしていくかということは残っていると思います。

[司会]

流れでお聞きしますが、判決後の理由付記の内容というのは、言える範囲で構わないんですけれども、判決の内容にあまりそぐわない点があったということだったんだと思うんですが、どういったものだったんでしょうか。

[青木佳史]

理由の記載の程度や内容については、評価は分かれるところもあると思いますが私たち弁護団としての評価は、この程度の記載では判決が言ってるような、「それ自体からなぜ2級に該当しないか」ということが一般人としてわかるものにはなっていないといういう評価です。

1枚目の処分通知書自体には、簡単に、障害等級1級・2級には該当しないということしか書いておらず、「詳しくは別紙の通り」となっています。

次に、書面には、審査基準として障害基礎年金の認定基準のうち「代謝疾患による障害」の認定基準と認定要領の抜粋が記載されています。

その後に、「なぜ2級の支給停止したか」という事が書いてあります。

そこでは、診断書の記載を一部抜粋して、「3級には該当する」ことが詳しく書かれています。ところが、「なぜ2級に当たらないのかの理由」については、いろんな合併症もあるけれども、具体的に日常的な生活に著しい制限が生じさせる事情は見当たらないので、2級には当りません、とだけ、評価の結論だけが書いてあるんですね。

つまり「3級となる理由」は3級の認定要領において、血糖のコントロールがうまくできないことに加えて、三つの要素のうちどれか一つが当たれば該当するということとされているので、それに沿った形で具体的な診断書から引用と当てはめがなされているんですけれども、「2級に該当しない理由」については2級の認定基準が抽象的だということもあるわけですけれども、「いろいろあるけど、日常生活に著しい制限が生じているわけではないでしょ」っていう評価の結論しか書いてないんですね。

ですから、これを見ても、支給停止された者は、結局のところ「なぜ2級に該当しないか」わからないということでは何ら変わっていません。

これに対しては、「代謝疾患の2級の認定基準そのものが非常に抽象的なものに過ぎない以上具体的に書くといっても限界がある」という反論はあり得ますが、しかし、そうではないと私たちは考えているところです。

 

[司会・関哉直人]

東京訴訟では今おっしゃったことに関連すると、国は現行基準が3級の基準だと言った上で原告の症状が3級に近い状態であるとか、あるいは3級の基準からあまり離れていないとか。

そういったことを根拠に2級に該当しないということを言ってきてるんですけども、どちらにせよ2級の基準が抽象的で基準化されてないということが根本にあるので、何を言っても何を説明されても納得しがたい部分があるのかなと思って聞いておりました。

ちょっと次の話に移りますが、一応この大阪判決が、理由付記に関しては到達点、という、現在の到達点というふうに評価をできるとして、却下処分については、現状は理由付記がされていないそうですが、これは法的な評価としては、どう評価できるのかということを、嘉藤さんの方に伺えればと思います。

[嘉藤 亮]

 この点は私の資料の方ですね、番号としては5番の資料の、7ページに記載をしております、7ページの3

この場合には許認可等を拒否する処分をする場合には、処分理由を示さなければならないとしておりますけれども、このときには特に「却下」と「棄却」を区別していません。

こちらは第7条の場合も同様でして、審査応答義務を定めていますけれども、申請がその事務所に到達したときには、遅滞なく申請の審査を開示しなければならず、云々と続きますが、最後の方でも結局は却下のことを言っているんですが、許認可等を拒否しなければならないということで、拒否という言葉を使っていますので、実は行政手続法上は、却下も棄却も区別していない。

問題は却下の場合の理由付記の程度というところになるわけですけれども、これがやはり申請者にとって容易に推知できるかどうか、ここにかかってこようかと思いますので、却下であれば理由付記がいらないということにはならないとまずは一般的に言えようかと思います。

ですので、7ページの方にも書いてあります通り、それがわかるかどうかですね。

私からは以上です。

[司会]

ありがとうございます。

却下処分についても理由付記については法的に争いうるというふうに、一応整理をさせていただいた上で、それでは現状、最高裁の流れ、そしてそれを受けて、大阪地裁が出て、先ほど安部さんの方から、資料の13でしたっけ、令和元年926日の理由付記記載の充実についてとかいう文章、ご紹介ありましたけれども、これ踏まえてなんですが、さっき七尾さん、安部さんの事例報告の中で、事実の列挙のみで適用関係が明らかでないので、結局不服申立てできないよとそういうご報告いただきましたが、一つの関心として、現状、不支給等の処分がなされたときの理由付記っていうのは、あのぐらいはされてるんですかね。

[安部敬太]

事案によって、向こうが注目した事実というのが、一つとか、二つとか、三つとかそれぞれですが、一応、判断根拠となった事実については診断書からピックアップした形で記載されているということにはないっているとは思います。

[司会]

安部さんありがとうございます。

今回、大阪の取消判決が出た後も再度理由が補充されて処分がされたということについて、もう少し、これが法的にどういう位置づけにあるのかっていうのが、今日の報告時間が短かったせいもあるんですが、ちょっとまだまだ理解が今日浸透してないかなって部分があるので、青木さんの方からこの点について問題提起を、わかりやすい形でお願いできればと思います。

 [青木佳史]

わかりやすい形でお話しする自信はありませんがちょっとだけやってみます。

もともと何かの行政処分があってそれが取り消されるということは、何か違法な理由があったわけです。

従って、「同じ状況でもう1回同じ処分をしてはいけない」というのは当たり前の話になります。

違法だった理由としては、「事実誤認」だったり、「判断が裁量を超えていた」とか、何らかの「基準の評価が間違っていた」などが考えられます。

裁判所が駄目と言ったわけですから、同じような事実評価とか、事実認識とか、同じような裁量の行使、基準の評価などは出来なくなります。

そうでないと裁判をした意味がなくなります。

このことを一般的に整理すれば、「同一の事情で同じ理由で同じ処分したらいけない」ということが、「反復禁止効」と言われる裁判の判決の効力です。

そうすると一般の方からすると、今回も事情は変わらない以上、同じような障害基礎年金を支給停止する処分は出来ないのではないかと考えるわけです。

それに対して、学説は、手続的な違法の場合は同じような処分は下せるとしているのですが、実はそこを学説もどのような結果が生じうるかの詰めた議論は十分にしないで、論理的なことだけで、それはやむを得ないでしょうとされてきたのではないか。

例えば、環境を悪化させる違法行為をした産廃業者に対して指定取消処分を行政がしたが、処分の理由の記載に不備があったことを理由に裁判所が違法な処分だとして指定取消は違法だとしてしまった。

環境を守りたい市民側からすれば、手続上の不備に過ぎないのであって、実体的に環境悪化行為をしていること、そのような業者を制裁しなければならないことは何も変わらない以上、単に書類を整えて手続をやりなおし、適正な手続での処分を出し直せなければならない、となるわけです。

そのような事案のことも考えると、どんな事情でも、行政手続違反の場合に、二度と同じ処分は下せないという結論は、それは行き過ぎではないかという判断があったのだろうと思います。

他方、行政庁としては、裁判所で手続法違反を指摘されたて後でもう1回同じ処分をすることをおくびにも出さないで、素知らぬ顔で判決を受けておきながらですね、いや実はもう1回同じ処分をすることを考えていたなんてことは、これは裁判所を欺くことにもなるのではないか。

したがって、今回の国の再処分に至る経過は、権利濫用的な違法と言えないか、そのあたりを議論してほしいと思っています。

行政手続法違反に対してもっと重い法的効果を与えないと、行政手続きの適正化は図られないと思います。

参考になるのは刑事手続きの分野ですね。

実際には有罪かもしれない被疑者であったとしても、重要な証拠について、重大な違法手続で検察や警察が捜査をしたときは、証拠排除がなされ、仮に実体的には有罪かもしれなかったとしても無罪にするわけですね。それによりデュープロセスを守ろうとしているわけです。

それは、刑事手続きだけじゃなくて行政手続きにも言えるんではないのかという議論は十分にあり得るんじゃないかと考えております。

[司会]

ありがとうございます。以上の問題提起を行政法の専門家である嘉藤さんからコメントお願いします。

[嘉藤 亮]

私からご説明いたします。

反復禁止効自体は判決の一般的な帰結としてこのようなことが言えるのではないかということで、他の方のご報告にも、既判力から説明するものと、拘束力から説明するものがあるというお話がありましたけれども、手続についてなぜ及ばないかというところを要するにお話しますと、結局実体について裁判所は判断していないというところに尽きると思います。

裁判所が判断したのは、手続に瑕疵があるというところの判断しかしておりませんので、実体判断はしてない以上、そこの部分については及ばないと。

その点について手続違反で取り消しても、同じ処分がされてしまうから意味がないではないかという批判には、これは我々の側も認識しているところがありまして、では、この点にどうしようかということは、まさしく現在検討中の論点でもございます。

また一つ、もう一つなんですけれども。これも、とある学説としても主張されていますが、このような場合、少なくとも弁護士費用は相手側に請求できるはずだと、私は思いますので、こうした主張もあり得るのかなと思います。

ちょっと簡単になってしまいましたが以上です。

[司会]

ありがとうございます。弁護士費用はあまりもらってないから大丈夫ですよね(笑)。

ではちょっとこの論点に関しては、青木さんの方がお土産を期待しておりますので、皆さんも指定発言を踏まえて改めて、嘉藤さんにコメントをいただいて次の論点に移れればなと思っておりますが、ここで指定発言を藤岡さんの方からお願いいたします。

[藤岡毅](会員・弁護士)

事前に資料を配布しておきました。

今のお話聞いて改めて思いました。

今回の国の処分は脱法行為じゃないか!と。

私が取り扱う分野に障害者の介護保障事件があります。

その中で、2006918日福島地裁の船引町事件判決があります。

障害者自立支援法の前の身体障害者福祉法の支援費制度における介護時間が問題となり、自治体が障害者の求める支給時間を拒否した事件です。

福島地裁の判決主文は裁判途中で支援費制度の条文が消滅したことから、訴えの却下で障害者敗訴でした。しかし、判決の理由中の判断において、申請を認めない行政処分に理由が書いていないから不備であり、違法な処分であると認定されていました。

その結果、勝訴したにも関わらず被告自治体は「理由が不備だ」という裁判所からの指摘を重く受け止めて、結局裁判のあと、敗訴した障害者の申請通りの介護時間を認めるという結論になりました。

何を言いたいかというと、三権分立という精神をちゃんと理解していれば、行政庁は裁判所には敬意を払って、そこでコメントされた内容を重く受け止めて、悔い改めて、ちゃんと行政が改善される効果が当然に期待される、それが社会の常識と思うんです。

ところが、今回の大阪地裁の事件は、被告である国が、却下・棄却の処分理由を示せないので主文で行政処分取消し判決が出たにも関わらず、国はそんなことお構いなしで再び却下・棄却処分を下す、そんなことがまかり通ったら、行政は司法の言うことなんて別に聞かなくたっていいんだとして、司法への畏敬の念が無くなるという、この国としてすごく大きな深刻な問題だと思います。

1ページ目で取消判決の反復禁止効の概念を確認しています。

これは実体的理由に基づく取消判決のあとの反復処分は禁止されるけれど、手続を理由とした取消判決については、再度の棄却処分を反復することは問題ないという通常の説明です。

この点は、嘉藤先生のような行政法の専門家を前にして本当に僭越というか不遜ではあるんですけど私見を述べます。

確かに、大雑把にそういう整理はもちろん誤りではないんでしょう。

しかし、学説とか学者の先生は、もっと個別具体的な事案を通して思考を深めていく中で学説はできると思うので、今回の大阪の事例を突きつけられた場合に、従来考えられていた学説の見直しとか補充とかいうことは十分ありうるのではないかなと感じています。

ぜひ今回の第二次訴訟の判決で、判例がそこをリードするような形で見解が示されるのではないかということを期待します。

私が書いたのは、条解行政事件訴訟法第四版という書物を引用しています。

ここには行政訴訟の学説の到達点が書かれています。

素直に読めば、結局どういう説に立っても、取消判決を受けた行政庁が、取り消されたはずの前の処分と全く同じ処分を出すのは自由という結論では、当事者間の公平を損なう、対等な関係を損なう、紛争解決も遅れる、そんな結論は明らかにおかしいということは学説の共通の問題意識であることは読み取れます。

当該棄却の理由を前の裁判で提出することが不可能だったと立証できれば再度の同一処分はセーフだけども、行政庁が前の裁判で棄却の理由を提出することができなかったっていう立証に成功しなかった場合は、二度目の同一処分は禁止されるとも学説は言います。

だとしたら、その学説的な理解では、前の裁判で当該棄却の理由の提出義務があったといえる以上、二度目の同一処分は違法という結論に至るということは現在の標準的な学説理解でも行けるんではないかという気もしているのです。

つまり私は標準的な学説の到達点を素直に考えれば、大阪弁護団の言ってることとは異ならず、大阪弁護団の考えは学説からかけ離れた特異な意見でもなんでもなく、学説の普通の理解に過ぎないということを言いたいわけです。

3ページの説明です。

「実体的な判断は示されていない手続き的な理由」という論点立て自体の考察です。

社会保障の権利は、障害年金を考えても、申請のときに書く生活状況等を見ながらの調査、審査、判断という手続きが行われていて、最終的には厚生労働大臣の裁定処分という、それも手続きによって生み出される、「本質的に手続き的権利」なわけですよ。

そういう意味で考察すれば、本質的に手続き的な権利である以上、「手続き的な瑕疵は実体的権利と無関係」などとそもそも言えるのかという根源的な疑問があります。

単純に「手続きと実体の峻別論」、「二分論」という思考は、社会保障の権利というものの本質を見た場合に正鵠を捉えていないと思います。

まとめると、障害年金受給権の法的性質を正しく理解すれば、「処分理由が欠缺していた場合に、処分庁の理由の追加はどうでも許す」とすることは、権利の本質に反し許されないのではないかということです。

レジメ4ページ目3について触れます。

取消判決後に国は日付や理屈を変えた却下処分の書類を送ってきていますが、第二次訴訟を考えると、障害者の申請に対して、却下処分が2回出されているといえないでしょうか。

私見では、障害年金の申請が拒否されるっていうのは生存権の剥奪に外ならず、、障害者に対する死刑判決のような非常に不利益な処分なわけです。

それが2度繰り返されるなどということは行政処分の本質からあってはならないのではないかと思います。

これを憲法39条の一事不再理を参考にすれば、やっぱり死刑判決が2度行われることや、一度無罪になった者が有罪になったりとか、同じことの刑罰が2回繰り返されるということは許されないのと同じように、一つの申請に対して、重ねて2回不利益処分がされるということは、やっぱりおかしいということです。

つまり、「本件は一事不再理効にも反して許されない」と、専門の先生を前に、非常に稚拙な理屈立てで恥ずかしいんですが、素人的な考えかもしれませんが、思いとしてはこんな感じになります。 

[司会]

ありがとうございます。

続いて弁護士の立場から得重さんにご発言お願いします。

[得重貴史](会員・弁護士)

今の藤岡先生のあの一事不再理効についてちょっと私も関連して申し上げたいと思っておりまして、一事不再理効でどうしてもその刑罰の方にフォーカスされがちだとは思うんですけども、行政のした行為、これも一種の国がする国民に対する重大な人権侵害行為だと思われますので、あくまでこれはその憲法39条の趣旨として、国家がその国民に対して行われた重大な人権侵害行為っていうふうに考えて、刑罰のみならず行政の行為としてもその二重に処罰することは許されないんだっていうようなそういうアプローチで検討できないのかなっていうのは私も少し思うところです。

すいません、以上です。

[司会]

ありがとうございます。

今の話も受けて青木さんの方で、嘉藤さんに質問というふうな形で改めてこういう疑問もあるんだけど、みたいなことなんかありましたら最後、嘉藤さんこの論点まとめていただくにあたり、お願いします。

[青木佳史]

一律に行政手続法違反で再処分が全て禁止されるかされないかという二者択一の議論ではなくて、もう少し細かく、具体的な処分の性質とか、それによって受ける不利益とか、より類型化、場合分けしながら、その拘束力を詰めていく段階に来ていると思います。

そのような細かな議論に、行政関係者のみならず学者の皆さんに入ってもらいたいと思っていて、そのためには何が必要なのか、あるいはそのあたりの議論をよし精密にしてもらいたいので、そのあたりを研究者から感触を伺いたいところです。

[司会]

この論点を嘉藤さんの方でおまとめいただければ幸いです。

[嘉藤 亮]

ありがとうございます。

あくまで説明不足だというふうに裁判所から見てしまうと、別のように扱われますので、その点は注意が必要だということがまず言えようかと思います。

不利益処分は例えば、許可の取り消し、こういったものが念頭に置かれていますけれども、これは権利の剥奪になりますので、刑事手続のような議論が妥当する場面があるだろうというのは、これは一貫した議論、学説でも一貫した意見ではあるわけですけれども、本件の場合申請に対する処分、つまり、一応は3級という形では認めているけれども、それでは足りないというものですので、一事不再理の議論と全く同じように議論できるかは難しいところがあるのではないかと感じます。

そして最後、手続のお話ですが、これは私の資料であった憲法論が足りないという部分にまさしく合致しておりまして、社会保障の分野においては、結局その実現は実定法に基づいて行われなければなりませんし、その実現においては、手続が決定的な要素を持ちますので、この手続に十分ではないというのは、結局その権利の実現が果たされていない、実現が十分になされていないこととイコールとみなすことができると思われますので、その点の主張は全く同感です。

ただ難しいのは、それを持って絶対的に、今回のような同じ処分が遮断できるかどうかというところは、なかなか私としても難しいところがあろうかと思います。

それは先ほどの理由付記の程度の問題が理由の追加や差し替えと同じような議論ができるのかというところに関わります。

そうなるとこれは、実体の問題として、先ほどのようなところを取り上げていくというのが一つやり方としてはありうるのではないかと、私としては思いますので、おそらく裁判所も同じような思考になりそうな気がするので、やはり実体判断のところが一つキーポイントになろうかなという気はいたします。

ただ、手続的瑕疵のところについては、我々の方でも議論が不十分であるといったお恥ずかしながらあると思いますので、その点について最後、青木さんから指摘いただいた点についてはやはりこのような場で我々がきちんと叩かれることが一番大事かなと思います。

私からは以上でございます。

[青木佳史]

すいません、1点だけいいですか。

本件は、基本権申請に対する拒否処分じゃなくて東京訴訟はそうなんですけど、うちは、障害等級2級が認められ支給されていたのが、3級として不支給処分をされたので、典型的な不利益処分だと思うんですね。

それで、今回裁判所がなんで理由付記の根拠だけで処分取消をしたかっていうと、結局「2級から3級に下げる理由というのは本当はないんだろう」っていうのが裁判所の事件の見立てとして審理全体の中から伺えたわけですね。

つまり、被告国は原告がどんなに求釈明をしても、2級から3級に下がったという理由は一切言いません、ということで3回ぐらい弁論が空転したっていうこともありまして、裁判所は、「実体として処分には理由がない」という判断も裏に持ちながら「理由は書けないんだろう」という価値判断のもとで、理由付記だけで処分取り消したと、端的に言えば「ちゃんと障害年金を支給継続させろ!」という言うメッセージを含むものだったのではないかと思うんですね。

法論理としては、「理由付記がないので」ということで取消していますが、理由付記っていうのは、他の行政手続きとは違って特に社会保障分野における、先ほど藤岡さんが言ったような手続きこそ、一番大事だということ。

第一次判決は実体的な評価がなされていたと位置づけるとこの判決の意味はまた変わってくるんですけれども、この点でこの判決は従来型の判決に止まるっていう評価ももちろんあり得るわけですが、ともあれ、現実に一連の訴訟指揮のもとで行われたことは踏まえた上で今回の裁判の審理はなされて、きちんとした判決が出るものだと思っています。

[司会]

ありがとうございます。

先ほど類型化っていう話がありましたけれども、一律的に手続的瑕疵に反復禁止効が及ばないというような判断ではなくて、類型化が進む中でいろいろな要素の中で、こういうケースについては反復禁止効が及んでもいいんじゃないかというのが、憲法論も含めて、そこで侵害される権利とかあるいは審議の状況とか、今出た中でだけでもですねいろいろな要素を取り込んで類型化して手続的瑕疵の場合であっても及ぶケースがあるということが構築されていくといいなと思ってお聞きしておりました。

理由付記の問題から障害認定基準の問題を考えるということで、七尾さんにちょっとマイクをお譲りしたいんですが、レジュメの最後にですね、こういった理由付記を求めていくことで、ひいては、適切な理由付記を作成できない障害認定基準の抽象性という課題も具体的に表明していくのではないかと考えるとありますが、このあたりもう少し詳しく教えていただけるとありがたいです。

[七尾由美子]

今までの認定での処分通知を振り返ると、処分通知では具体的な理由は何も明示されず、審査請求でも「1人で住んでいる」「抗うつ薬が出ていない」などのように事実だけを列記し「~なので2級に相当しない」というような保険者意見が出るのみでした。

今後、適応関係を明記して理由付記を記載することが真摯に行われていけば、では1人で住んでいることはなぜ不支給の理由になるのか、認定基準のどこに当てはめて不支給理由としたのかというところを具体的に考える機会となるのではないかと思います。

認定基準のどこどこを照らすと該当しない、ときちんと説明することができれば、認定する側でもこの理由では不支給処分には当たらないのではないか、では支給してもいいのではないかというように考える道筋になっていくのではないかと思います。

また事実として列挙された「抗うつ薬が出ていない」に関しては特に認定基準に服薬についての記載はありませんし、「福祉サービスを利用することなく、単身生活が可能である」に関しては、等級判定ガイドラインでは、1人で暮らしている場合には援助の必要性も考えると記載されています。にもかかわらず、付記された理由ではそれについて何のコメントもなく触れていません。具体的な理由付記をしようとする姿勢を持てば、どのような必要性であれば2級に該当するかということも自ずと明らかになってくるのではと思います。

列挙されたその事実を認定基準のどこに当てはめて判断したということを具体的に記載できるようにするためには、現在の認定基準では足りないという認識を持ち、認定基準を変えていこうという姿勢が出てくるのではないかと期待しています。

[司会]

ありがとうございます。

基準の具体化の必要性っていうことが明らかになってきて、では具体化っていうことを訴えていくということになると、先ほど安部さんがおっしゃったような問題点も出てくるわけですがそういった問題提起、具体化することに対する問題提起も含めて、震明さんの方に指定発言をお願いしております。

震明さんに、先ほどの論点12の件も含めての指定発言をお願いしますので、ちょっとまとめて皆さんにレジュメが行っていると思いますので、それに基づいてご報告いただければと思います。

 [震明裕子](会員・社会保険労務士)

これもつい先ほど青木先生がおっしゃいましたけれども、2級に該当するかどうかっていうのは、東京の裁判とか、あるいは今後新規で裁定する人にとっては大変重要なことなんですけれども、今回、判決の中では支給停止が大変不利益な処分であるというふうに述べられていますし、生活設計をする上で、突然に、支給停止処分を行なったっていう経緯も考慮するってなっているので、2級に該当するかということよりむしろ、印象的には、障害状態が変わっていないので、停止処分とした理由、そこをやっぱり示すべきなのかなというふうに思っています。

おそらくこれは、もう示すことができないんだろうなというふうに考えているんですけれども。

基本的には、救済されるという流れにあると思うんですね。

にもかかわらず、ある期間の人たちだけが救済されないっていうところはとても不公平に感じているので、その点はどうなのかなというふうに思っています。

そして、後は理由付記についてなんですけれども。

現状のところでは理由付記、現状の認定基準ではとても曖昧なので、難しいだろうなっていうのは皆さんと同じ意見です。

例えば精神であれば、先ほど七尾さんもおっしゃってたように、独居であるとか、福祉サービスの利用とか、就労状況とか、そういった客観的なものを求められてくるので、そこをもってマニュアル的に判定をされるっていうふうなことになってしまっては困るなっていうことをすごく感じていて、若干ふわっと、曖昧な点があって助かってる部分があるので、その辺を上手にこちらから、どういうのが2級かっていうのを示していくっていうのが、たいへん難しいなと思っています。

稼得能力といっても良い職場が見つかる人がいればそういうのが見つからなくて働けない人、同じ障害の程度であっても働けないという場合とか、いろんな周辺事情によって著しい支障があるっている程度っていうのが変わってくるのでこの辺をなかなか公平にしていくっていうのはとても難しい問題だなというふうに感じています。ちょっと私が感じているところは以上です。

[司会]

震明さん、ありがとうございました。

その障害特有の要素っていうのを考慮するんだよとあるいは支援の有無をどう評価するのかとかですね、ああいうのを出していくっていうのは、一つのアイディアなのかなと思って聞いてたんですが、安部さんの問題提起からして、そういったガイドラインのようなものを具体化させていくっていうようなことでは解決が難しいんですかね。

[安部敬太]

ただ、ガイドラインがもともと精神の診断書に、日常生活の判定に4段階7項目があって、日常生活の能力の程度に5段階、これも一つの評価なんですけど、それを組み合わせた形でマトリックスを作っているんですが、精神についても、私はもっと本来であれば、数が多い評価になっていいと思っていて、7項目じゃなくて、2030100でもいいんですけど、少なくとも、就労の状況も含めた支援の状況も項目を入れる、それから日常生活で認定するのであればですけれど、日常生活のもっといろいろな場面で、コミュニケーションのいろいろな場面とか、社会生活や地域での場面とか、そういうことも含めた指標というのを、精神の場合でもたくさん作るべきだと思います。

内部障害について言うと、糖尿病も含めて、客観的に示すことができる機能障害だけでは、その人の社会的な不利になり、社会生活にどのくらい参加できるのか、就労も含めて、それを測ることはできないケースっていうのは、難病とか、がんの方も含めて、そういうたくさんケースはあると思います。ですが、現状では一般状態区分という5段階1箇所の評価しかないわけですね。

[司会]

ありがとうございます。

皆さん考えていること言いたいこといっぱいあると思うんですが、時間の関係もあるので、今までの議論を踏まえて、橋本代表の方に指定発言なんですが、まとめ的にご発言いただければと思います。

[橋本宏子](会代表・研究者)

障害年金を受ける権利の保障にとって重要なのが手続きであると私は考えます。その理由に関係することとして、障害基礎年金を受ける権利がどのように捉えられているのかみてみたいと思います。

 

大阪地裁判決(平成31年4月11日・確定)は生存権とはいっていませんが、「障害基礎年金の給付を受ける権利につき裁定を受けた受給権者は、障害年金が支給されることを前提に生活設計をたてることになるのであり、支給停止処分は重大な不利益処分」という言い方をしています。

 

「障害基礎年金の給付を受ける権利につき裁定を受けた受給権者という言い方は、(行政主体による決定がなければ)本人が考えている「障害基礎年金を受ける権利」は絵に描いた餅になってしまうということです。この点は支給されていた年金が停止された場合についても同じことが言えます。

 

これで「権利あるところ救済方法あり」と言えるのでしょうか。

憲法25条に基づく障害基礎年金を受ける権利は決して人間の生存を損ない、あるいは危うくするようには解釈されるべきではないとするなら、現状のような状況は、憲法上の人権保障が空洞化されていることに通じるものではないでしょうか。そこで重要になってくるのが手続きだと私は考えます。

国民の生存の権利、つまり障害基礎年金を受ける権利は、現在のように、行政主体の決定に依拠すべきものではなくて、行政主体の決定は、国民の生存の権利保障のための1手段に過ぎないと考えた場合には、法的問題として、国民の生存の権利性と行政主体の決定の間に何らかの調和を見出す必要性がでてくる。

このような必要性が出てくるのは、社会保障給付、ここで言えば障害基礎年金の給付を受ける権利の法的性格が財産権と同じようには考えられない法の柔軟性を持つということに関係しています。イギリスの補足給付上訴審判所(Supplementary Benefit Appeal Tribunal)は、こうした「社会保障給付に固有の手続の必要性」に基づき、「国民のニーズの一種の確認手続」として制度化されたものといわれています。

社会保障給付に係る行政手続きの解釈と運用においては、行政手続き一般の重要性に重ねて、こうした社会保障給付に固有の手続きの必要性が強調される必要があるのではないかと私は考えていますが、いかがでしょうか。

社会保障に関する判決ではありませんが、だいぶ昔の判決ですが昭和38年の白石判決は、憲法14条の法のもとの平等と憲法13条、人間の尊厳31条の国民の権利、自由の保障規定に手続き的保障を含ませることによって、行政手続きの公正さの要請を裏付けようとしています。

憲法で保障する人権との関連で「行政手続」を考える上で、アメリカ法の適正手続き並びにイギリス法の自然的政治の法理に見る行政手続きの考え方に学ぶことは大きいと考えます。ここでは先学に学びながら2つのことを挙げておきたいと思います。

一つは、イギリスやアメリカでは、特定の行政手続法に個別事案を当てはめてきたわけではなくて、我が国で言う刑事手続き保障も行政手続保障も截然と概念区分せず、多種多様な形で人権を保障する手続きが育ってきたというふうに言われていることです。

二つ目は、イギリスの広義の「行政手続」の法体系における行政当局の行為は、たんに、静止的あるいは断片的に捉えるべきでなく、権限の遂行される過程として、動的あるいは継続的に捉えられるべきものと考えられていることです。この立場は、アメリカ法において、行政過程としてこれを捉える立場と共通する、といわれています。つまりこのことは、流れとして行政行為を捉えるということでしょうか。

行政手続きを、このように、総合的かつ継続的に捉えることは、行政庁の行為、大阪の裁判の例で言えば、支給停止の理由を改めて記載した書面を再度作成、さかのぼって支給停止処分を行う通知書を送付するという行政行為を、当初の処分、つまり障害基礎年金の支給停止処分に継続する広い意味での行政手続きの流れの中に位置づけて捉えることはできないか、ということへの関心を浮上させます。先に述べた国民のニーズの一種の確認手続きを体現する、イギリスの補足給付上訴審判所は広義の行政手続きの一環。いいかえれば、審判所ぬきに「行政手続」は考えられない、とされています。

このように事案の性質に応じた事前あるいは事後手続き、さらに行政不服手続きと司法手続きがどのように総合的に活用されれば、人権を奪うことにならないか、というイギリス法の視点は、手続法と実体法の融合への示唆も含んでいるように思われます。そしてこのことは、反復禁止効を考える視点とも関係するように思いますが、いかがでしょうか。

話は変わりますが、国民のニーズの確認手続きは、国民の権利を絵にかいた餅にするのではなく、人間が人間として生きるための障害年金への期待、要求を、ニーズとして捉えようとするものです。

そこでは、行政主体の主張は、大阪の裁判が指摘するように、いかなる事実関係に基づき、どのように障害認定基準を適用して、当該処分がなされたのかを当該処分の相手方において、その理由の提示内容自体から了知し得るものとすることが必要となります。

それに対して障害年金を請求しようとする当事者は、人間として生きるための障害年金への期待、要求を本人の考える障害認定基準、あるいはそれを超えた独自の視点から主張していくことになると考えます。

以上で報告を終わります。

[司会]

 ありがとうございます。

これが今回の理由付記判決後の再処分が許されるのかっていうことには、かなり直結する議論だなと思ってお聞きしておりました。

時間が、もうなくなりまして申し訳ないんですが、でも、お1人、お2人、感想なりご質問なりいただければと思いますが、いかがでしょうか。

特にルールは決めてないんですが、マイクを外してご発言いただいても、挙手をしていただいても、コメント欄に入れていただいても、発見しうる限りどなたか、いま挙げましたか。

 [河野正輝](会員外・研究者)

 嘉藤先生がおっしゃったまとめと結局は同じようなことを言うような気はしますけれども、私は年金権の裁定というのは、生活保護の支給の決定や、総合支援法の支給決定と違って、裁定行為は権利の形成的処分ではないというふうに説明されてきたというふうに思います。

これは行政法上の一般的な説明ですから、嘉藤先生の補足のお話を伺った方がいいかもしれませんけれども、僕らは年金権の裁定というのは権利の形成そのものは客観的な事実の発生で成立しているものを、公の権威でもって、その事実を確認する行為、確認行為であって権利の形成的処分、形成的行為ではないというふうに説明されてきた、理解してきたと思っています。

それと同じように障害年金も本来は、客観的な事実をもって確認できるほどに、その判断基準は明確でなければならないということが要請されるというふうに思われるんですけれども、現実には、この事例がまさに示しているように、非常に抽象的で、糖尿病の3級については、比較的症状や検査結果や日常生活の制限等にあたって判断できる。

判断認定基準と認定要領が示されていますけれども、それを上回る2級以上については本当に抽象的にとどまっている。

その抽象的にとどまっている中で、2級基礎年金を支給しないという停止処分について、理由が示されなかったことは、それは、理由不備なのではなくて、実体的判断として、2級に該当しないという判断が入っていることになっていないけれども、入っているものとして理解すべきものではないかなと。

つまり実体的理由の反復は禁止する、禁止されるけれども、手続き的な反復は許されるという、そういう単純な峻別で、この場合、手続き的理由だけが欠けていて、したがって、もう一度反復して実体的理由をつけて処分ができるという、そういうふうに単純に考えるべき性質のものではないんじゃないか。

2級に該当しないという判断がそこに入っているという判断、実体的判断が示されたというふうに理解すべきではないかと考えると、そのようなことが反復禁止事効に照らして許されるのかという詰め方が、やっぱり、社会保障の場合の、社会保障に関する、特にこの場合の事例に関する事例に即した、特殊性に即した詰め方になるのではないかという印象を持ってお聞きしました。

そうすると、そのことを前提にしてですけれども、そうすると一つはこの場合の反復して、支給停止処分をなお継続されたという判断の違法性というのを、強く強く主張していくことが大事だろうというふうに思うと同時に、もう一つは、年金権の裁定としての裁定基準が非常に抽象的だというところを、探っていくと、結局は症状と検査結果というところは割りに医学モデルに基づいて、はっきり具体的化されているところはあるけれども、日常生活の制限の状況というところは非常に抽象的で、結局は、この事件で言うと、症状と検査結果を具体的に挙げれば、3級に該当するものであるということで、2級に該当するほどの日常生活の制限、著しい日常生活の制限の状況には当たらないということですから、そういうことですから、そうすると、この訴訟を通じて、もし勝ち取ることができるとすれば、日常生活の著しい制限に当たる事例として、具体的に立証していく。

[司会]

最後に嘉藤さんと青木さんの方から一言ずつですね、河野さんのご発言も、受けてコメントいただいて最後は橋本さんの方に進めていただきたいと思います。

お願いいたします。

[嘉藤 亮]

河野先生ありがとうございました。私の趣旨も河野先生と同じです。

理由付記というのは実体判断が色濃く示された領域だと思っています。

さきほどお聞きした「訴訟指揮の実態」も踏まえましたら私の資料の最後の頁にありますとおり、行政庁の判断の妥当性・適切性を裁判所に見てもらい、説明のつかないことをやっているということは、それ自体、実体的に違法だといえようと思います。理由付記の中で、そもそも総合的に判断するというのは、普通は「救う方向」に動くはずなんです。

それが「マイナスの側に動く」というのは、より強い説明責任が求められますので、そのような説明はできないということであれば、その裁量判断というのは、やはり適切に行使されていないという実体の問題にも繋がろうかと思います。

正確にお答えになっているかどうかわかりませんけれども、私からは以上でございます。

[司会]

ありがとうございます。

[青木佳史]

もう一つ先ほどから議論に出ていますが、認定基準を詳しくしたらいいのかどうかとか、「日常生活における支障」という抽象的な基準はどうかという話です。

これについては我々弁護団としては、特に内部障害であることもあって、医学的な数値で、血糖値とか、ペプチド値とか、意識障害を伴うような重症の低血糖は1年に何回あるかっていう数値だけで判断されることは、ご指摘があったように、日常生活に支障がある人の中でそれに数値が当てはまらない人を漏らすことに繋がる非常に危険な発想だということで、その方針をとらないということにしています。

加えまして、社会モデルについて考えると、この障害年金をいかにして福祉サービスと同じように社会モデル化していくという大きな課題が全く取り残されているわけです。例えば、皆さんはほっといても血糖値は一定に保たれている訳ですけども、患者さんはその一定に抑えるためにいかに一日どれだけの努力をして生活をしているかということがあるわけです。

そのことを改めて課題として突きつけられながら、でも、そんなことまでこの裁判では求められないし、今の課題は明確だと思って今活動しているところですので、その点をさらに深めていければと思っています。今日はその点でも非常に有意義なお話をお聞き出来ました。どうもありがとうございました。 

[司会]

河野さんに続きまして、嘉藤さん青木さんどうもありがとうございました本当に今日の柱のテーマの大阪地裁判決は実務に、まずは理由付記の点で大きなインパクトを残してくださったんですが、続けて今、議論してました実態的な部分、認定基準の部分でも、その認定基準全般の核となる問題性というか、そういったところに、またまたこの大阪や東京も続ければいいんですけども、そういったところで実務に繋がるインパクトがインパクトの持てる判決を目指して頑張って行きたいなと、青木先生ともに。

そう思いました。

さて、本当に今日は、パネルディスカッション、長い時間本当にありがとうございました。

以上

レジメ①青木佳史

1糖尿病障害年金支給停止等取消訴訟 

大阪地裁判決(平成31411日)と再提訴の取組み

20201021

弁護団 弁護士 青 木 佳 史

 

1 はじめに

 1型糖尿病は,根本的な治療法が確立しておらず,ひとたび発症すると,症状が改善することは見込まれず,程度の差こそあれ,生活上の厳しい負担が生涯続くものであり、これまではその状態に鑑み、障害基礎年金2級を支給してきたにもかかわらず,平成28年12月から突然,原告らを含む多数の1型糖尿病で障害年金を受給してきた患者に対し、何らの理由を示さず、「障害の程度が厚生年金保険法施行令に定める障害等級の3級の状態に該当したため,障害基礎年金の支給を停止しました」とだけ記載した停止通知で処分をしてきたものでした。

 

2 判決までの審理経過

本訴訟は、平成29年11月20日に大阪地裁に提訴し、民事第2部に係属し、平成30年2月23日の第1回期日から翌年2月8日の第5回期日での結審、同年4月11日の判決という審理経過であり、障害年金をめぐる行政訴訟としてはスピード結審となりました。これは、原告らは本件各支給停止処分(1名は支給停止不解除処分)について、違法である論点として、①国民年金法36条2項は、「障害等級に該当する程度の障害の状態に該当しなくなったとき」に障害年金の支給停止をすることができるとしているが、原告らには何ら障害の状態の変更がないこと、また②各処分通知には、行政手続法8条ないし14条の求める理由の提示が全くないことを主張してきたところ、被告国は訴訟において、原告らからの再三の求釈明にも、現時点で3級相当であると主張すれば足りるのであり、障害等級2級から3級に変更した根拠については一切応える必要はないとして、原告らはどのように変更の評価をしたのか明らかにしなければ反論できない、として膠着状態となった。裁判所も、国に対し、支給停止処分等の実質的な理由を説明・開示するよう求めましたが応じませんでした。

 この被告国の態度は、単に支給停止の処分通知に理由の記載をしなかったに止まらず、そもそも記載できる具体的理由が存在しないこと、つまり1型糖尿病患者について2級の障害年金を出すことはしないとの結論ありきの意図に出たものであることをうかがわせるものでした。

裁判所は、第3回期日を終えた2018年9月、原被告双方に、病状に照らした障害等級が2級か3級かの審理には国の訴訟態度もありまだ時間がかかるが、各支給停止通知の理由の提示については、すでにこれまでの主張・立証で機が熟してきているため、この論点だけ分離して中間判決を出すこととしたい、との提案をしてきました。

これは裁判所が被告国が3級に変更した明確な根拠を主張しようとしない態度に鑑み、原告らの迅速な権利救済を可能とするため、審理に時間を要する①の点の審理に及ぶことなく、あえて②の理由の提示がないことの違法のみを分離して取り上げて判決を行い、原告勝訴の場合には終局判決となる道を示したのでした。意外にも、被告国はこの提案に何らの留保もつけずに応じ、原告らも裁判所の積極的な提案の意図を汲んで、この争点での判決を求めることとしました。

 

3 大阪地裁判決(平成31年4月11日・確定)の概要

2019年(平成31年)411日、大阪地方裁判所第2民事部(三輪方大裁判長)は、原告ら9名のうち、8名に対しては平成28年12月7日付障害基礎年金の支給停止処分,1名に対して平成28年11月28日付障害基礎年金の支給停止を解除しない処分を,いずれも処分違法に基づき取り消す、との原告ら全面勝訴の判決を言い渡しました。(1) 障害基礎年金の支給停止は「重大な不利益処分」

本判決は、まず、 障害年金を受ける権利に基づき、各支給停止処分を重大な不利益処分であると認定しました。すなわち、「当該障害基礎年金が支給されることを前提として生活設計を立てることになるのであって、支給停止処分は、このような受給権者の生活設計を崩し、生活の安定を損なわせる重大な不利益処分である。」として、そのような重大な不利益処分であることを前提とすることで、国に十分な理由の提示が求められることを導き出す出発点としました。

(2) 糖尿病の障害認定基準・要領等の抽象性を断定

次に本判決は、国年法施行令は2級の定義を定めるが、その内容は抽象的なものといわざるをえないとし、また、行政上の認定基準を定める障害認定基準についても、特に、糖尿病等の代謝疾患による障害の程度に関する内容はごく抽象的なものである、としました。その上で、さらに認定基準の解釈の参考とされる「認定要領」も、糖尿病について3級と認定する場合については具体的に定める一方で、それがどのような場合に1級もしくは2級の障害の状態の程度にあると認定するかについては、「なお、症状、検査成績及び具体的な日常生活状況等によっては、さらに上位等級に認定する。」として、総合評価の対象となる事情を列挙したものに過ぎず、これら事情相互の関係や重み付け等を定めたものではなく、やはり抽象的であるといわざるをえない、としました。

 そこから、糖尿病に関する障害基礎年金の支給停止処分をするについては、いかなる事実関係に基づき、どのように障害認定基準を適当して当該処分がなされたのかを、当該処分の相手方においてその理由の提示内容自体から了知しえるものとする必要性が高いものとしたのです。被告国が、省令やそれ以下の通知を見れば、認定基準や認定要領が載っているのであるから、それらを見ればわかるはずであると主張したことを、根本から退けるものになりました。

3)本件支給停止処分についての判断

そして判決は、具体的な本件の処分通知についての認定では、原告らの各障害の程度が1級及び2級には該当しないとの結論のみを示したものと評されてもやむをえないほど簡素なものであると、強いトーンで断定しました。加えて、これまで原告らは短い者で2年から長い者で16年間、継続的に障害基礎年金を支給してきており、特に、(1名を除く)原告は、2,3年に一度診断書も提出して審査をし、「あなたの障害の状態は従前の障害の状態と同程度であると認めますので、引き続き障害年金を支給します。」という記載のある書面を交付していたにもかかわらず、今回の一転して原告らに支給停止処分をしたという経緯等も併せ考慮するとしました。

そうすると、「認定要領」において、2級になるかどうかの総合評価の対象であるとされた事情である「症状、検査成績及び具体的な日常生活状況等」について、2級に該当する程度の障害の状態に該当すると認定しなかった理由は何ら明らかにされておらず、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意の抑制をはかるという趣旨を全うしていないといわざるをえない、としました。

また、原告らの不服申立の観点からも、この処分通知では、原告らが提出した診断書に記載された事実関係を前提としてされたものかすら認識できないのであって、本件各処分について不服申立をした場合、前記診断書に記載された事実関係のうちどの部分や範囲が争点となるのか、また事実関係は争点とならずそれを前提とした上で、総合評価の手法や判断内容等が争点となるのか等の見通しを立てることは困難であるから、不服申立の便宜をはかるという趣旨に照らしても不十分な理由の提示というべきである、としました。

こうして本判決は、認定基準、認定要領等の抽象性を前提に、「重大な不利益処分」をする以上は、その通知書自体から、どのような事実関係や評価によって、2級該当性がなくなったのかをわかる程度に記載しなければならないという明確な判断を示したのです。

4)被告国の主張する年金実務運用の事情をことごとく排斥

本判決は、さらに、被告国が審理の中で主張してきた年金実務の大量処理の実情についても、本件原告らの理由の提示を簡素にしていい理由にはなりえないとして、全て排斥しました。

まず、①年金に関する処分が膨大で、限られた時間内に処理しなければならない(H29年で628万件)から、通知内容を定型化せざるをえないという被告国の反論については、この628万件は支給停止処分に関する数ではなく、糖尿病に関する支給停止処分はその一部にすぎないから、根拠になっていないとした上で、仮に、その理由が定型化されて提示される場合でも、理由提示の要件をみたさなければならないし、本件処分の性質から記載自体から理由が了知できなければならないから、定型化といっても限界がある、それを優先することにはならないと指摘しました。

また、被告国が、支給変更処分の場合に、障害認定基準の適用関係を個別具体的に示すことは極めて困難というほかはない、特に障害年金は、受給権者の障害の状態がそれぞれ異なるので、111ページに及ぶ障害認定基準の適用関係を個別具体的に示すことは現実的に不可能である、などと主張しましがが、これについても本判決は、いずれも個別の障害に応じて示すことは十分可能であるとして一蹴しました。

 

 4 4.11大阪地裁判決の意義

   突然支給停止処分を受けた原告らの「重大な不利益性」を十分に踏まえ、年金実務における理由の提示について、行政の恣意的運用の防止と不服申立の便宜の観点から、厳しく本件処分そして年金実務運用を批判するものになりました。

   本判決は、障害年金の支給停止処分について行政手続法8条ないし14条違反(理由提示の不備)で処分を取消した初の裁判例になりました。そして、裁判所が原告らの生活を脅かす重大な不利益処分であることを十分に踏まえ、国の応訴態度により明確に説明できる理由がないことを推察して審理の長期化を回避し、理由提示の不備の争点だけに絞って中間判決の手法を積極的に提案して早期救済を図ろうとした姿勢は行政訴訟のあり方に大きな一石を投じることとなりました。また、障害年金の認定基準・認定要領について、その基準の抽象性を具体的に明らかにし、理由の提示に求められる水準を明らかにしたこと(大量処理という年金実務の要請よりも個々の年金受給者の権利を重視した)も、今後の年金実務に少なからず影響を及ぼすものとなりました。本判決は、2019年4月26日、被告国は控訴を断念し確定しました。

 

5 被告国の本判決を無視した再処分、原告らは再提訴へ

   ところが国は、判決に控訴しなかったにもかかわらず、驚くべき対応を取りました。国は、控訴はしない方針はとりつつも、違法とされたのは理由を支給停止の通知書に詳しく記載しなかった点だけである、として、支給停止の理由を改めて記載した書面を再度作成し、平成28年12月7日に遡って支給停止処分を行う通知書を、2019年5月13日、原告ら9名に送付してきたのです。

これにより、原告らの障害基礎年金の支給停止状態はさらに継続することとなりました。これは、原告らの早期救済を図った大阪地裁判決の意図を完全に無視するものです。国は、裁判所から争点分離の判決の方針を示された時は、このような同一理由による再処分を行う可能性は一切明らかにしていませんでした。もしそのような示唆があれば、裁判所は中間判決にはせず、支給停止要件に該当しないことの争点も審理判断したはずですし、原告弁護団の対応も同じです。国の対応は、このような審理の機会を奪い、かえって不当に救済を遅延させる背信的なものと言わざるをえません。

このようなことが許されるのであれば、いくら行政手続法違反で処分が取り消されても再処分できるわけですから、司法判断は手続を振り出しに戻すだけのものとなり、同法の存在意義はほとんど失われます。国の対応は、障害基礎年金の趣旨に反し、原告らの生存権を侵害するものであり、人権侵害にさらに人権侵害を重ねるものであるといわざるをえません。

勝訴判決と国の控訴を勝ち取った原告らでしたが、一夜にして再び失意のどん底に突き落とされました。もう立ち上がれない、このまま消えてしまいたい、という声も出たほどです。しかし原告らと支援者・家族、弁護団で、時間をかけて、絶望と怒りを再度共有し、二重、三重の過酷な負担を覚悟し、国に対し、再度の訴訟を提起することを決めました。2019年7月3日、大阪地裁への再提訴に踏み切り、同じ第2民事部の三輪裁判長のもとで、審理が行われています。第1回期日2019年10月日、第2回期日が2020年1月15日、第3回期日が同年3月23日に実施されましたが、その後新型コロナウィルス対応のため大法廷での口頭弁論期日は中止されましたが、期日間の主張活動は継続し、その後進行協議として7月20日、8月12日において今後の主張・立証活動を集中的に検討した上で、9月9日に第4回期日が再開されました。今後、さらに進行協議や11月10日に大法廷期日をはさみ、12月3日と14日に原告本人尋問期日を実施し、3月1日に結審をする予定となっており、終結に向けた主張・立証活動が大詰めに向かっています。

新たな裁判では、従来の論点に加え、①国の再処分は行政事件訴訟法33条1項に反して許されないこと、②再処分できる場合があるとしても、本件は著しい権限濫用であって許されないこと、③平成29年に国会で支給継続となった約3000人の受給権者との平等原則違反があること、を加え、原告らの完全な救済を求めることとしています。しかしこれまで行政手続法違反で処分取り消しとなった事案につき、再処分をされたことを違法として争った事例がみあたらず、行政法・行政訴訟法の学者・研究者も、行政手続法違反の効果について詳しく論じたことものがないため、未成熟な論点についての判断を求めることになります。この間、行政手続法違反の効果等をめぐる行政法の主な文献などを検討してきましたが、手続法違反で取り消されたものについて、実質的な理由で再処分をすることは許されるという見解が強く、手続法違反の実効性確保については十分な議論がなされていない状況です。

この研究会を通じて、このような理不尽な再処分を許さないための行政法上の解釈が求められています。

また、原告らの障害の状態につき、医学的数値論争にするのではなく、血糖コントロールのために、日常生活にいかに大きな負担がかかっているかを具体的に立証し、それが何ら軽くなっていないことを立証するため、様々な試みを行ってきました。受給期間中の各診断書の詳細な比較とともに、原告ほぼ全員について1ヶ月間の血糖値データと各低血糖・高血糖になった際の生活上の障害を詳しく再現しました。また、昼夜を問わず低血糖、高血糖になった場合の本人や家族の負担をビデオ撮影を実施してDVDに編集して提出をしてきました。

そして6月から9月にかけて、原告全員の陳述書作りを行い、原告各人の生活の状況を詳しく浮かび上がらせるため、家族の方の視点も取り入れて作成を行うことで、改めて弁護団としても原告らの日常生活の大きな負担を実感することにもなっています。

今後、結審に向けて、弁護団としては、完全な勝利を目指して奮闘していきます。

以 上

 

レジメ②関哉直人

1糖尿病障害年金不支給処分取消訴訟(東京訴訟)について

弁護団 弁護士 関 哉 直 人

 

 

1 東京訴訟の時系列

  20166月     現行の認定基準(認定要領)施行開始

  2017214日  障害基礎年金の裁定請求

  2017331日  「請求のあった傷病(1型糖尿病)の請求日である平成29年2月14日現在の障害の状態は,障害年金1級又は2級の対象となる障害(国民年金法施行令別表に規定)に該当しません。」とする不支給処分

  2017718日  審査請求

  2018130日  棄却

  2018727日  東京地裁に提訴(処分取消訴訟,後に義務付けを追加)

 

2 争点(主な主張)

(1)糖尿病に関する認定基準の不合理性・違法性

① 医学モデルに基づく認定基準であること

  ② 3級該当性のみを判断するための基準であり,2級以上の明確な基準がないこと

  ③ 他の障害の認定基準に比して平等性を欠くこと

④ 特別児童扶養手当の受給要件との不均衡

⑤ てんかんの認定基準との不平等

(2)(認定基準を適用しない前提で)原告の状態は,国年法30条1項2項,国年令4条の6及び同別表にいう「身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態」であって,「日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」にあたる

(3)本件処分に伴う理由の提示は,行政手続法8条1項本文が求める理由の提示とはいえず,手続上違法である

 

3 訴訟の進行

裁判所は,現行の認定要領の記載を前提に,3級に該当するか,さらに上位等級に該当するかという点に関心を寄せている[1]

この点被告は,「糖尿病は,適切なインスリン治療を行うことで,基本的には血糖コントロールが可能」「基準時における原告の血糖コントロールは,(HbA1c値も7.0%未満で維持されていることや合併症の程度が重大ではない[2]等の事情により)適切な血糖状態を維持しているものと認められ,具体的な日常生活状況を見ても,一般状態区分表のウを超えて,エ又はオに該当する状態にあるとは認められない」と主張している。

これに対し,原告側は,認定日当時を含め継続的に血糖コントロールが困難な状態にあったことを主張し,原告の具体的な状態を立証するため,血糖値のデータに基づく折れ線グラフと勤務状況を一覧化させた資料を提出したところ,裁判所からは当時の日常生活(1日1日の生活状況)を文章化して欲しいと依頼があったため,これを提出したところである。

 一方で,1型糖尿病を現行認定要領で評価することが不合理であることを立証するため,「1型糖尿病患者の症状を一般状態区分に当てはめるとしたらウ~オのいずれの場合もある」「一般状態は恒常的状態を意味すると考えられるため,刻々と症状が変化する1型糖尿病に当てはめるのは無理ではないか」とする主治医意見書や,「1型糖尿病患者の一般状態区分はウ~オに固定化されるものではない。認定要領がそのうちの一つに特定を要求するものであれば,認定要領自体が1型糖尿病患者に適合しない」とする専門家意見書を提出している。

 次回期日は2020119日(月)15時に予定されている。

 

レジメ③嘉藤 亮

障害年金法における理由付記の程度

神奈川大学 嘉藤 亮

Ⅰ はじめに

 第1次(大阪)1型糖尿病障害年金訴訟において、大阪地裁は、理由の提示が不十分であるとして、障害基礎年金の支給を停止する処分及び障害基礎年金の支給停止を解除しない処分を取り消す判決を出し、当該判決が確定しました。そこで、行政法の観点から、理由の提示に関する判例法理を確認し、本判決が採用した理論的枠組みの分析、当該枠組みと判例法理との整合性、そしてあるべき理由の提示の程度についてお話しさせていただきます。

 

Ⅱ 行政手続と理由の提示(行政手続法制定前)

(1)理由付記の趣旨

 行政手続法の制定前は、個別法において理由の付記を求めることがありましたが、そうした明文の規定がない場合は、特に理由を付記する必要はないと解するのが行政実務でした[3]

 こうした中で、当時、特に議論となったのは、ある処分について法律上理由付記が求められていた場合に、理由が付記されておらず、又は理由に不備があるときに、その瑕疵が当該処分の効力にどのように影響するのか、という点でした。ここでは、理由付記における瑕疵は手続上の瑕疵とは観念されず、日付や署名の有無と同様に、処分を行う際の形式的要件に関する瑕疵として捉えられておりました[4]。そして、こうした瑕疵によって、処分そのものが無効となるのか、取消しとなるのか、といった形で議論がなされていたわけです。

 司法の場においては、上記の議論に関し、主に税法分野において判例が蓄積され、最判昭和371226日(民集16122557頁)(青色申告承認取消処分の審査請求棄却決定)は、法律上理由付記が求められる趣旨として以下のように判示し、後に判例法理の骨子となる部分が示されています。

 

「決定機関の判断を慎重ならしめるとともに、審査決定が審査機関の恣意に流れることのないように、その公正を保障するためと解されるから、その理由としては、請求人の不服の事由に対応してその結論に到達した過程を明らかにしなければならない。」

 

 更に、最判昭和38531日(民集174617頁)(青色申告の更正処分)においては以下のように判示されております。

 

「処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を 

相手方に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものである」

 

(2)理由付記の程度

 理由の付記を求める法律は、理由付記の程度について特段の定めを置いておりませんでした。判例は、以下の通りに判示して、単なる適用条文の指摘等では不十分であるとの姿勢をとってきました。

 

・前掲・最判昭和38531日(青色申告の更正処分)

「どの程度の記載をなすべきかは、処分の性質と理由附記を命じた各法律の規定の趣旨、目的に照らしてこれを決定すべきである」

「売買差益率検討の結果、記帳額低調につき、調査差益率により基本金額修正、所得金額更正す」では不十分として取消し

・最判昭和381227日(民集17121871頁)(青色申告の更正処分)

「更正の妥当公正を担保する趣旨をも含むものと解すべく、従って、更正の理由附記 

は、その理由を納税義務者が推知できると否とにかかわりのない問題といわなければならない」

「売上計上洩一九〇,五〇〇円」では不十分として取消し

 ・最判昭和49425日(民集283405頁)(青色申告承認取消処分)

「要求される附記の内客及び程度は、特段の理由のないかぎり、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該処分がされたのかを、処分の相手方においてその記載自体から了知しうるものでなければならず、単に抽象的に処分の根拠規定を示すだけでは、それによって当該規定の適用の原因となった具体的事実関係をも当然に知りうるような例外の場合を除いては、法の要求する附記として十分でないといわなければならない」

「該当号数を示しただけでは取消しの基因となった具体的事実を知ることができない場合には、通知書に当該号数を附記するのみでは足りず、右基因事実自体についても処分の相手方が具体的に知りうる程度に特定して摘示しなければならないものと解するのが相当である」

「法二五条八項三号に該当する。」では不十分として取消し

 

 以上の判例は青色申告制度にかかわるものであって、提出された帳簿書類の記載を無視されないよう法律上によって理由附記を求める必要があったという事情がありました。また、そのためこのような理由付記規定が訓示規定であると解する行政実務を否定する意味合いが強かったことにも留意すべきです[5]

 

(3)判例法理のまとめ

 その後、これら判例の射程は、旅券法(最判昭和60423日民集393850頁)や情報公開請求(最判平成41210日判時1453116頁)に関する処分の際の理由付記にも及ぶものとされました。さらに、これら判例法理は、行政手続法にいう不利益処分にとどまらず、申請に対する処分も含めて形成されてきました。以上を踏まえ、ここまでの判例法理は以下の通りにまとめられます[6]

①理由付記の目的は、行政庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制すると

 ともに、不服の申立てに便宜を与えることにあり、理由の記載の欠缺や不備は取消

 事由となる。

  ②どの程度の理由の記載とすべきかは、処分の性質と理由付記を命じた各法律の規定

の趣旨・目的に照らしてこれを決定すべきである。

  ③処分理由は、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該処分がされたのかが、付記理由の記載自体から明らかにならなければならず、原則として、単に根拠規定を示すだけでは十分ではない。基因事実自体についても、裁量権行使の違法を的確に争えるよう、いかなる態様、事実によって取り消されたのか、処分の相手方が具体的に知り得る程度に特定して適示しなければならない。

  ④理由付記は、処分の公正妥当を担保する趣旨をも含むため、処分の名宛人が処分理

   由を推知できると否とにかかわらない。

 

Ⅲ 行政手続法における理由の提示と平成23年最判

 行政手続法は、「行政運営における公正の確保と透明性(行政上の意思決定について、その内容及び過程が国民にとって明らかであることをいう。…)の向上」を目的として制定されました。

 そこで、申請に対し当該申請を拒否する際(第8条第1項)、そして不利益処分をなす際(第14条第1項)、理由を提示することを求めています。これは諸外国で同様の取り扱いをしていることも影響しておりますが、上記判例法理において示された「慎重判断・合理性の担保と不服申立の便宜」を目的として規定されたものだと説明されています[7]

 行政手続法制定後において、これまでの判例法理が妥当するかどうかを明確とし、さらに踏み込んだ判断を行ったものが最高裁平成2367日(民集6542081頁)になります。本件は、当時大きく取り上げられた耐震偽装に係わるもので、一級建築士が構造計算書の偽装をしたとして、国土交通大臣より建築士法第10条第1項第2号及び第3号に該当するものとされ、一級建築士免許取消処分を受けたため、当該処分の取消訴訟を提起した事案でした。本件の理由としては、「あなたは…建築物の設計者として、建築基準法令に定める構造基準に適合しない設計を行い、それにより耐震性等の不足する構造上危険な建築物を現出させた。また、…構造計算書に偽装が見られる不適切な設計を行った。このことは、建築士法第10条第1項第2号及び第3号に該当し、一級建築士に対し社会が期待している品位及び信用を著しく傷つけるものである。」と記載されていました。なお、当時の建築士法では、建築士法や建築物の建築に関する法令等に違反するとき(第2号)、業務に関して不誠実な行為をしたとき(第3号)は、国土交通大臣は懲戒処分ができる旨を規定しておりました。

 他方で、建築士に対する懲戒処分については、処分基準が定められ、公表されておりました。そこでは、違反設計から不適当設計まで、処分のランク付けを行い、それに加えて、情状に応じたランクの加減方法を定め、これらを合わせた数値が一定以上になった場合に免許の取消しを選択するといった非常に細分化された基準が定められておりました。

 そのため、「本件処分基準の適用関係が示されなければ…いかなる理由に基づいてどのような処分基準の適用によって当該処分が選択されたのかを知ることは困難である」状況があったといえます。

 そこで、最高裁はこれまでの判例法理①に言及した上で、以下のように述べて、理由の提示が不十分であるとします。

 

「どの程度の理由を提示すべきかは…当該処分の根拠法令の規定内容、当該処分に係る処

 分基準の存否及び内容並びに公表の有無、当該処分の性質及び内容、当該処分の原因とな

 る事実関係の内容等を総合考慮してこれを決定すべきである。」

 「建築士法101項…2号及び3号の定める処分基準はいずれも抽象的である上、…い

  ずれの処分を選択するかも処分行政庁の裁量に委ねられている。」

 「本件処分基準は、…公にされており、しかも、その内容は…多様な事例に対応すべくか

  なり複雑なものとなっている。」

「そうすると…本件処分基準の適用関係が示されなければ…いかなる理由に基づいてどの

ような処分基準の適用によって当該処分が選択されたのかを知ることは困難である。」

 「本件処分基準の適用関係が全く示されておらず、その複雑な基準の下では、…いかなる

  理由に基づいてどのような処分基準の適用によって免許取消処分が選択されたのかを知る

  ことはできないものといわざるを得ない。このような本件の事情の下においては、行政手

  続法141項本文の趣旨に照らし、同項本文の要求する理由提示としては十分ではない

  …。」

 

 以上の判示においては、行政手続法制定前に形成されてきた判例法理をそのまま引き継ぐことが表明されております。他方で、上記の判示の下線部にある通り、理由提示の程度の十分生を判断する際に、処分基準の有無が考慮要素として入っており、この点が新たに踏み込んだ部分になります[8]。平成23年最判は、処分に裁量性があること、処分基準が作成されて公にされていること、そして処分基準が複雑であることに着目して、処分基準の適用関係まで明らかにすることを求めております。

 この点、学説においては、行政手続法の制定の趣旨(*個別法の趣旨・目的等ではなく、あくまで行政手続法に着目する点に注意する必要がありますが)を踏まえ、処分基準(及び審査基準)が公にされている場合には、その適用関係も含めた理由の提示が必要であると解されておりました[9]。本件の事情をどう解釈するかについての留保はつくものの、平成23年最判は、学説を反映させた方向へ微調整を行ったものとみることができます。

 

Ⅳ 本件における理由の提示

 そこで本件について検討することになりますが、まず平成23年最判の射程が問題となります。この点、先ほど触れた通り、これまでの判例法理が不利益処分のみならず、申請拒否処分をも含めて発展してきたこと、また透明性の向上という行政手続法の趣旨・目的を踏まえれば、審査基準が公にされている場合は、申請拒否処分にも射程が及ぶものと解されます[10]

また、障害年金の分野においては、繊維筋痛症とされた方への不支給決定を争った事案で、同様に平成23年最判の判例法理を適用したものがあります(東京地判平成271211日判例集未搭載)[11]

 本件に関し、障害年金の受給要件、特に障害の程度要件について、国民年金法(厚生年金保険法も被用者であることから3級がある以外同様ですが省略します)は、障害等級に該当する程度の障害状態にあるときに、障害基礎年金を支給する旨を規定するのみで、障害の状態については政令に委任しております。そして、政令は各級に該当する障害の程度について障害の性質ごとに別表で分類しておりますが、本件に関する1型糖尿病に特化した基準を定めているわけではなく、包括規定でカバーされることになり、その結果、この基準も相当に抽象的なものにとどまっております。こうした法令の規定を受けて作成された障害認定基準は、より具体的な例を挙げて認定の指針を定めるものの、1型糖尿病に関連する「代謝疾患に関する障害」の認定基準は、政令と同様に抽象的な定めにとどまり、認定要領まで来るとようやく客観的数値が出てきますが、それでも総合的に認定することが明記されております。

 本判決は、平成23年最判に基づき、判例法理①と判示事項を引用して、処分の性質及び内容に関し、支給停止処分が「生活の安定を損なう重大な不利益処分である」としました。平成23年最判の判示事項は建築士法特有の事例判断の部分がありますが、本件においては法令の基準が抽象的で、審査基準・処分基準たる認定基準を参照しなければ具体的な判断基準が見えてこない、という形で引き直しを行っております(なお、裁量が認められるかどうかは本案の一つの論点ともなるでしょう)。そして、認定基準すらも抽象的な規定であるからこそ、なおのこと、認定基準の適用関係までも提示すべきとして平成23年最判の判示事項につなげております。

以上の論理構成は、行政手続法の趣旨・目的の観点からも積極的に評価ができます。つまり、平成23年判決によれば、理由の提示の程度は、あくまで処分の根拠法令に着目して判断されることになります。そのため、この部分の解釈如何では、処分基準や審査基準の適用関係まで示す必要がない方向に振れるおそれがあります。この点は、行政手続法の趣旨・目的を踏まえれば適切とは言えません。この意味で、本判決は平成23年判決を適切に解釈・適用した事例判断といえるでしょう。

 

Ⅴ 補足

 それでは本件では、どの程度の理由の提示が必要であったのかについて、本判決は丁寧に述べています。つまり、診断書の記載内容に基づいて処分を行ったか否か、そして認定要領において2級以上とされるための考慮要素等を明示した上で、診断書や認定書を引用しつつ具体的に理由を提示することを提案しています。しかし、ここまで求めることは少なくとも平成23年最判の範囲を超えるでしょう。

なお、本件の事例から少し離れて理由提示の問題を見てみますと、特に行政手続法の制定後は顕著ですが、日本の行政手続においては憲法論が全く欠けている状況です[12]。これは指摘にとどめておきます。また、本件の本案については、訴訟指揮も含めて議論すべきことがあるでしょう。後の全体の質疑の際にお話しできればと思います。

 

Ⅵ 補足2(その後の経緯を踏まえたもの)

(1)取消(認容)判決の効力について

 取消訴訟における認容判決の効力について、従来、①形成力、②既判力、③拘束力及び④反復禁止効に分類して説明されてきました。①形成力は処分が取り消されること、②既判力は民事訴訟法でいわれるところの議論がそのまま妥当し、裁判所の判断が下された事項については後の訴訟等で異なる主張が認められないことを指します。この点、行政事件訴訟法において明示的に規定しているのが③拘束力ですが、関係行政庁は判決の趣旨に従った行動が義務付けられるものです。例えば、判決によって申請を拒否する処分が取り消された場合、行政庁は申請時に立ち戻って改めて申請を検討し、処分をすることが求められます(行訴法第33条第1項)。最後に、④反復禁止効ですが、これは同一事情で同一理由により同一処分をすることを禁ずるものです。この効力については既判力から説明するもの、拘束力から説明するものがありますが、別理由により同一処分をすることを禁ずるものではないと解されています。さらに、本件に関して重要なことですが、手続的瑕疵については、この効力は及ばないとするのが通説的な見解となっています。

 その結果、理由付記における瑕疵により、処分が取り消されたときは、行政庁としては、申請時に立ち戻り、改めて申請を検討した上で、判決の趣旨に従った理由付記を付して再度処分をすることになります。この場合、そして本件において、形としては同一事情で同一理由により同一処分をすることになりますが、これが反復禁止効に抵触するものとは解されないことになります。しかし、行政庁がこうした対応をとった場合に、そもそも裁判所の訴訟指揮に問題がなかったかどうかについては別途議論がありえます。手続的瑕疵による争訟解決と実効的な救済について再考を迫るハードケースと言えそうです。

 

(2)本件以後の理由付記の程度について

 既にご承知の通り、本判決の後、厚労省は障害年金の不利益処分への理由付記について、障害認定基準やそれに該当する事実関係等を示した上で、判断結果を記載するよう通知しております。これによってどのような改善が見込めるかどうかは、結局はケースによるということになるでしょう。基準の該当・非該当に関する事実を示すことが明らかに適用関係を示す場合もありうるでしょうし、それだけでは足りない場合もありうるからです。むしろこの点は本案の問題にもなるように思われます(説明がつかない対応をしていることそれ自体が、要件に該当しないことの裏返しではないか、といった具合です)。

 

(3)却下処分と理由付記の有無

 行政手続法第8条は、「行政庁は、申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は、申請者に対し、同時に、当該処分の理由を示さなければならない。」と規定しています。ここでは、特段、却下と棄却を区別しておりません。なお、同第7条は「行政庁は、申請がその事務所に到達したときは遅滞なく当該申請の審査を開始しなければならず、かつ、…法令に定められた申請の形式上の要件に適合しない申請については、速やかに、申請をした者…に対し相当の期間を定めて当該申請の補正を求め、又は当該申請により求められた許認可等を拒否しなければならない。」としております。この規定は、却下に言及しているのですが、「拒否」と規定しており、第8条と区別されておりません。結局、却下であろうと棄却であろうと理由付記は求められることになります。

 他方で、第8条は「ただし、法令に定められた許認可等の要件又は公にされた審査基準が数量的指標その他の客観的指標により明確に定められている場合であって、当該申請がこれらに適合しないことが申請書の記載又は添付書類その他の申請の内容から明らかであるときは、申請者の求めがあったときにこれを示せば足りる。」とします。つまり、客観的基準に適合しないことが明白であるとの認識で却下について理由付記が不要であるとする考え方かもしれません。ただし、その基準自体が争点となるならば、なおのこと理由付記が必要となるでしょう。なお、却下処分における理由付記の程度が争点とされる事例もあります。

 

(4)本案での主張について

 上記Ⅳで触れた通り、極めて専門技術的な事項であることから、法律は、認定について行政による基準に基づきなされることを想定しています。とはいえ、障害の種類は多岐にわたるため、政令でも個別的に網羅しきれておりません。そこでさらに内部基準(認定の指針)を設けているわけですが、結局、認定は行政の専門的裁量に委ねられていることになります。

ただし、その判断は客観的な医学的知見に支えられている点で、一定の限界があるものと思われます。客観的数値が障害を認定するに十分なものであるにも関わらず、(予算のひっ迫等)別の要素を加味して認定しないことは、「考慮すべき事項を考慮せず、あるいは軽視し、または考慮してはならない要素を殊更重視する」ものであって(多事考慮あるいは要考慮要素不考慮)、違法な裁量権行使とされます。また、一部の数値が基準に満たないとしても、他の要素を加味すれば認定すべき事案であるにも関わらず、個別事情を一切考慮せずに処分をした場合も同様に違法な裁量権行使とされます(個別事情考慮義務違反)。当然、他の同様の障がいを抱える方と別異の扱いを受けているとなれば、平等原則違反にもなるでしょう。

 本件では、原告の個別事情を踏まえ、2級に該当する旨を主張することになります。また、状況に変化がない中で処分の内容が変更されたということであれば、その説明責任を被告側にあるというべきでしょう。

 以上は、基準自体に合理性があることを前提とします。そこで基準そのものをターゲットにできないか、ということも選択肢として出てくるでしょう。しかし、この点については、確認の利益というハードルをクリアーできるのか、乗り越えるべき課題は少なくないように思われます。

 

レジメ④七尾由美子                     

理由付記された不支給決定事例報告

社会保険労務士 七尾由美子

Ⅰ はじめに  

令和2年6月に受けた理由付記された不支給決定通知事例を参考に

1、   「判決が求めていること」と実態との乖離

2、   「判決が求めていること」に対する評価

3、   実態→たびたび変わる処分理由

について考えてみたい。

II      理由付記された不支給決定事例の概要

1、  事例の経過

     R1年8月:請求傷病うつ病にて障害厚生年金認定日(H284月)請求 

     R23月:カルテコピー(初診日~認定日期間)を要請に基づき提出

     R26月:障害認定日、請求日、ともに不支給決定

     H29年3月:本人請求にて事後重症請求あり →不支給決定(H296月)

2、  補足事項

     診断書における日常生活能力の評価

(認定日、請求日ともに等級判定ガイドライン等級の目安では2級)

 

現症日

日常生活能力の程度

日常生活能力の

判定平均

認定日

H284

4

3.2

請求日

R18

4

3.2

     認定日当時休職していたことを明確にするため、「傷病手当金受給期間証明書」を提出したが、その傷病名は「適応障害」となっていた。

     請求日現症診断書には3種の処方薬記載があったが、抗うつ剤かどうかは確認しなかった。

     診断書「発病から現在までの経過」欄には「治療を開始するも、うつ症状の改善みられず、・・(略)・・1年後の平成27年4月からうつ病にて長期の在宅療養に入る。」との記載があった。

     独居ではあったが別途の申立書は作成しなかった。請求日現症診断書には「受診時にはふらついた歩行、そして机にうつ伏せになるなど、単身生活が危ぶまれる状態が続く。家事全てにわたって手付かずの状態にあり、日常生活に多大な支障を来している」との記載があった。

3、  理由付記内容要約 ※文末添付文書参照

     障害認定日について

                  i.    傷病手当金受給期間証明書の傷病名は「適応障害」である。

                ii.    精神病の病態を示していない。

     請求日について

                  i.    日常生活能力の程度は(4)、日常生活能力の判定は3.0以上3.5未満である。

                ii.    抗うつ剤の処方はされていない。

               iii.    現在の生活環境は「在宅」、同居者の有無は「無」である。

               iv.    福祉サービスについては「利用していない」。

     判断

                  i.    認定日においては精神病の病態を示しておらず

                ii.    請求日においては3級の程度のものとは認められない

ので1級、2級及び3級の障害の状態に該当しない

4、  その後個人情報開示請求をした資料から判明(R29月)したこと

     H29年3月事後重症請求時の傷病名は「適応障害」となっていた。

     前回請求傷病名との整合性が取れないとして、医療専門役がカルテ確認指示を出していた。

     認定医作成の認定調書に記載されていた内容

                  i.    認定日について

・前回請求傷病名は「適応障害」であり、提出されたカルテより診断書現症日時点の症状は落ち着いており、精神病相当の病態は認められない。

                ii.    請求日について

・抗うつ薬が処方されておらず、また服薬も不規則であり、うつ病としては軽症とみる。

・福祉サービスを利用することなく、単身生活が可能である。

Ⅱ 「判決が求めていること」と実態との乖離

大阪地裁判決を受けて理由付記文書が交付されることとなったものの、従来の審査請求、再審査請求時における保険者意見同様、事実の列挙にとどまっており、事実をどのように評価してどの基準を適用して処分がされたのか分からないものとなっている。判決が示した求められる水準「いかなる事実関係に基づきどのように障害認定基準を適用して当該処分がされたのかを、当該処分の相手方においてその理由の提示の内容自体から了知し得るもの」には至っておらず、理由の提示内容からは「了知」できないものとなっている。

 

Ⅲ 「判決が求めていること」に対する評価

事実の列挙にとどまってはいるものの、今までは審査請求時に初めて知ることのできた処分理由(保険者意見)を処分通知と同時に知ることができるようになったことは評価できる。付記された理由に挙げられた事実に対して反論をしていくことが可能となった。

一方、前記4で記載したように認定医による認定調書には、もう少し具体的な記載がなされている。この記載をそのまま理由付記として交付していれば、どのような事実がどのような判断へと繋がったのかをもう少し知ることができ、不服申し立ての際に何に反論をするべきなのかをもう少し了知し得るようになると考える。

Ⅳ 実態→たびたび変わる処分理由(保険者意見)と追われる対応

今回の事例を振り返ると「適応障害」で一度不支給となっていることから、「不支給ありき」で進んでいったのではないかと推察する。

「精神病の病態」とは何か、何をもって「病態」とするか、抗うつ薬の処方がなく服薬も不規則であることをもって症状が軽症と判断できるのか、福祉サービスを利用することなく単身生活をしていたとしてもその援助の必要性がないと判断できるのか、主治医の診断書を無視する根拠は何か、追求していくと明確な答えは出せないであろう。「何をもって」判断するか、現状では保険者が等級認定の拠り所としている行政通達でしかない障害認定基準には、処方薬について、また精神病の病態について、は何も規定がない。となると他の理由も挙げてくることは容易に推察できるところである。

再審査請求公開審理当日に交付される保険者意見が審査請求時の保険者意見とは変わってくることもたびたび起こっており、保険者は何をもって不支給としたいのか、しようとするのか、常に色々と推測しながらの対応をしていかざるを得ない状況となっている。

理由付記の趣旨「恣意を抑制し不服申し立てに便宜を与える」という原点に立ち、判決の求める水準を満たした理由付記をすることで不法な処分が抑制されていくのではないか、ひいては適切な理由付記を作成できない障害認定基準の抽象性という課題も具体的に表面化していくのではないか、と考える。

以上

 

七尾レジメ 参考資料

理由付記文書の内容 ※原文ママ

 

【障害認定基準】精神の障害の程度は、その原因、諸症状、治療及びその病状の経過、具体的な日常生活状況等より、総合的に認定するものとし、労働が著しい制限を受けるか又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの、及び労働が制限を受けるか又は労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を有するものを3級に認定することとされています。

気分(感情)障害の3級に相当するものを一部例示すると、「気分、意欲・行動の障害及び思考障害の病相期があり、その病状は著しくないが、これが持続したり又は繰り返し、労働が制限を受けるもの 」です。

なお、神経症にあっては、その症状が長期間持続し、一見重症なものであっても、原則として、認定の対象となりません。ただし、その臨床症状から判断して精神病の病態を示しているものについては、統合失調症又は気分(感情)障害に準じて取り扱うとされています。

【判断の根拠となった事実関係等】

あなたの障害の状態、日常生活状況等に関しては、主に以下の事項が認められます。

[障害認定日について]

・請求傷病名は「うつ病」であるが、平成27年6月~平成28年12月間の「傷病手当金受給期間証明書」における傷病名は「適応障害」であり、神経症圏の傷病に当たること。

・提出されたカルテの写しより、精神病の病態を示していないこと。

[請求日について]

・「日常生活能力の程度」は「(4)精神障害を認め、日常生活における身のまわりのことも、多くの援助が必要である。」であり、「日常生活能力の判定」(程度の軽いほうから1~4の段階評価に置き換え、その平均を算出したもの)は3.0以上3.5未満であること。

・処方薬は、「サイレース、リボトリール、ソラナックス」のみであり、抗うつ剤の処方はされていないこと。

・現在の生活環境は「在宅」、同居者の有無は「無」であること。

・福祉サービスについては、「利用していない」こと。

【判断】

以上のことから総合的に判断すると、障害認定日におけるあなたの障害の状態は、精神病の病態を示しておらず、また、請求日におけるあなたの障害の程度は、労働が著しい制限を受けるか、若しくは労働に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの、又は「傷病が治らないもの(症状が固定していないもの)」であって、労働が制限を受けるもの、若しくは労働に制限を加えることを必要とする程度のものとは認められませんので、1級、2級及び3級の障害の状態に該当しないと判断しました。

 

レジメ⑤安部敬太

17回「1型糖尿病訴訟を契機に考える法律問題~認定のあり方・理由付記~」

社労士 安部敬太

1.  理由付記

(1)処分通知だけでなく、内部文書(個人情報開示で入手)でも理由が不明である。cf.労災(資料11

(2)処分理由が認定医でない人がみても理解できる程度に書面化することで、個々の事案について行政不服審査がやりやすくなるだけでなく、認定全体の公正化・標準化につながる。

(3)大阪地裁判決を受けた20204月実施の理由付記充実の内容…2019926日付年管管発09262号「障害年金の不利益処分等に係る理由記載の充実について」(資料12

①認定方法:法令、通知(認定基準、ガイドラインなど)

②障害認定基準…適用した基準を記載

③判断の根拠となった事実関係等…事実関係が「適用した認定基準への当てはめ関係が申請者に明確に伝わるよう記載する。」とされている(通知)。

④判断

(4)それでも今までと比べると一歩前進であるものの、以下の問題点がある。

(ア)②の当てはめ関係の記載はなく、事実のみが記載されていることが非常に多い(資料13)。→それでも、審査請求にあたって、取っ掛かりにはなる。何を根拠に処分したのかが、これまでよりは少しはわかる。

(イ)いわゆる却下処分(初診日特定不能、初診日被保険者期間外、程度認定不能)は申請拒否処分には当たらないとして、理由付記充実の対象外としている。

2.  認定のあり方

(1)糖尿病単独での2級以上認定基準がない。⇔審査基準・処分基準は定めなければならず、具体的なものにしなければならない(行手法5条・12条)。

(2)ただし、一般的に基準があれば、支給されるべき人に支給されるか、というとそうとも言えない。この国の認定のあり方(医学モデル)からすれば、基準として、客観的に機能障害が示せて、かつ、その機能障害が2級に該当していることという2点が要件化する。

(3)糖尿病は、2016年認定基準改正で、客観的機能障害(検査結果、発作の程度と頻度)としてはほぼ最重度が3級とされたので、客観的機能障害の2級基準の設定は非常に困難である。

(4)そもそも障害種別をつらぬく、こういう場合が2級だという内容が、法令にも、認定基準にもない。視力の両眼の視力の和が0.08以下、両耳の聴力が90デシベル以上、一上肢の全ての手指切断、一下肢の足関節から切断、補助具が常時必要な歩行障害、内科的疾患で2級の検査数値や異常所見該当および精神障害2級のすべてが、どうして同じ2級なのかという説明はされていない。あるのは、法令上は「日常生活の著しい制限」(これに対して1985年改正前の厚年における「高度の労働制限」であればまだイメージが可能)だけであり、認定基準の一般的障害の程度でも、稼働不能、家庭内での極めて温和な活動以上不能、活動範囲はおおむね家屋内に限定等の記載に限られる。しかし、この一般的程度は、ほとんどの外部障害で当てはまらない。そのため、外部障害の個別基準では、等級と客観的機能障害の関係が明示されるだけで、(あってもその部位に係る動作能力の程度記載だけで)全般的な能力障害の記載はない。一方で、精神・内部、複数の障害の場合には、(内部障害については検査数値等の客観的機能障害とともに)一般的程度への当てはめが行われる。

(5)障害年金は目的(障害による稼得能力の喪失を補填する)からすれば、障害による稼得能力(または稼得能力を含む全般的能力障害)の喪失の程度により、等級が認定されるべきであろう。現状では、客観的機能障害では重症度が示せなかったり、客観的機能障害は重度とまではいえないが、稼得能力を完全に喪失していることがある。

(6)こちらから、客観的機能障害によらずとも、こういう場合に2級になるという中身を提示し、それに当てはめて2級であることを求める必要性があるのではないか。

 

レジメ⑥藤岡毅

藤岡コメント  第17回障害年金法研究会

  

 反復禁止効に関する大阪訴訟「原告準備書面第7」における原告らの主張に全面的に賛成します。

 よって、私見も同弁護団の主張と重なります。

一 取消判決の反復禁止効について

 「実体的理由の反復は禁止・手続的理由の反復は許される」という説明は従来の文献等を見れば、表面的には誤った整理とはいえないが、本件のような具体的な理不尽な事案を目の前にして考察した場合、各学説・学者も考えや説明を変えたり、補足したりするのではないかと思います。

 大阪の第二次訴訟判決において是非この点の新たな見解が判例として明確に示されることを期待したい。  

 同準備書面3頁にも引用のある「条解 行政事件訴訟法[第4版]」でも、

既判力説にせよ拘束力説にせよ 

 別理由再処分の可否が論ぜられるのは、これを完全に認めてしまうと、…ある処分理由については当初の処分(前処分)時またはその取消訴訟(前訴)で提示・主張するのみ、再処分時ないしその取消訴訟(後訴)で提示・主張するのも行政庁の自由ということになりかねないからである。

 特に、行政庁が前訴において新たな処分理由を主張しようと思えばできたのにあえて主張せず、あるいは主張することを怠って取消判決を受けた場合には、当事者間の衡平・武器対等を損ない、攻撃防御の手段を尽くさなかった行政庁に不当な利益を与えるとともに、事件が裁判所と行政庁との間を往復して紛争解決が遅れ訴訟経済に反することになる。 

 などの問題意識は共通し(669頁)、 結論としては、手続き的違法や審理状況等に応じた調整を受けざるを得ないと同書も解説している。 

 結論

  …反復禁止効の客観的範囲は、裁判所の審理範囲(手続違法および理由の差替え・追加の可否)に応じた調整を受けざるをえないと考えられる。

  …取消訴訟における裁判所に審理対象となる事実関係・法律関係に属する処分理由については、行政庁は、処分理由の差替え・追加が許容されるにとどまらず、それをすべき責務を負い、それを怠って取消判決を受けたら、差替え・追加主張をしなかった処分理由に基づいて再処分をすることはもはや許されなくなる、と解すべきであろう。

「処分庁は取消訴訟の審理において、処分理由の追加はむしろすべき責務があり、それを怠って判決を受けたら、追加しなかった理由での再処分は許されない」というテーゼ(670頁)は本件でも該当するのではないか。

 本件では、「処分庁が前訴で理由を提出することが出来なかった」という事情は全く認められない。

 つまり、私見は学説上の標準的な到達点を素直に当てはめれば、本件は原告の主張が採用されるべきと考える。

 

 二 障害年金処分は生存権を内実にするものの、行政庁の審査と裁定という手続に基づき形成される本質的に手続的権利の性質を持ち、行政庁の審理過程の処分の根拠理由は実体的な権利内容そのものであること。

 

「手続」との語感は「枝葉末節」と誤解されやすいが、行政手続きにおける手続き的正義は憲法第31条等の求める憲法的な権利であり[13]、障害年金受給権における処分理由は「実体的根拠でない手続的根拠」とはそもそも言えない。

最高裁平成7117日判決(民集第4991829頁)は「(国民年金)法16条は、給付を受ける権利は、受給権者の請求に基づき社会保険庁長官が裁定するものとしているが、…その権利の発生要件の存否や金額等につき同長官が公権的に確認するのが相当であるとの見地から、基本権たる受給権について、同長官による裁定を受けて初めて年金の支給が可能となる旨を明らかにしたものである」としていることもこのことを裏付ける。

よって、仮に一般論として「実体的理由の反復は禁止・手続的理由の反復は許される」との整理があったとしても、障害年金受給権の法的性質からしても、「処分理由の欠缺」は到底軽微な手続的瑕疵に該当せず、理由の追加・差替えをして、結論を同じくする申請拒否処分を行うことは許されない。


三 判決効の観点だけからでなく、拒否処分・不利益処分の一事不再理の観点も重要

上記条解671頁で  

一定の種類の不利益処分については、一事不再理の要請から、再処分が禁止される場合があるが、これは反復禁止効とは別の問題であると考えられる。

 と、行政処分の一事不再理について、あっさり触れているが、重要な観点である。

 「市民の申請の繰り返し禁止」の局面でもこの用語が使われるが、憲法第39の保障する刑事事件における一事不再理

「同一の犯罪について重ねて刑事上の責任を問われない。」

を参考に刑事処罰のような制裁的行政処分の繰り返し禁止もこの用語で説明される。

 

 障害年金の申請が拒否される処分とは、障害者にとって、憲法第25条に基づく生存権の否定決定であり、障害のある人の生存を支える基本的人権が剥奪され、生存が危ぶまれるという意味で、「死刑判決またはそれに準ずる制裁的不利益処分」と考える。

 そのため、憲法第39条の保障する一事不再理の法理を参考にする行政処分における一事不再理効は障害年金の申請拒否処分においても、該当すると考える。

 本件で申請(裁定請求)行為は第一次も第二次も対象は一つである。

 同一の申請行為に対して、第一次において理由の提示を何らなさないまま生存権拒否処分を下し、第二次においても同じ結論である生存権拒否処分を下すことなど、不利益的行政処分における一事不再理に抵触し、許されない。

  以上

 

レジメ⑦震明 裕子

1型糖尿病訴訟を通して感じていること

社会保険労務士 震明 裕子(会員)

 

① 判決において、「支給停止は重大な不利益処分である。」とされ、「これまで従前の障害と同程度であるとして、年金を支給する旨書面を交付してきていたにもかかわらず、一転して支給停止処分を行った経緯等も合わせて考慮する」と述べられている。

→ 国は、認定基準に照らして2級に該当するか否かというより、障害の程度が変わっていないのに停止処分とした理由を示すべきである。

 

②平成294月以降に更新で支給停止された人たちは救済されている。

→ 大変不公平である。

  先日、精神障害の等級判定ガイドラインの見直しが行われ、当面ガイドラインに沿って等級判定を行っていくとされたが、そこでもガイドライン実施時に障害年金を受給しているひとで、障害の状態が変わらない場合は、当分の間、等級非該当への変更は行わないこととした取り扱いも継続されることになっている。また、老齢年金においても法改正により不利益が生じる場合には、緩和措置などの救済措置が取られている。これらの対応と比べても、原告の方たちに救済措置がとられないのは不公平である。

 

③判決について国がとった対応について

→処分のための判断材料(当時の診断書、認定基準)は、処分当時も現在も変わらないのに、当時示すことができなかった理由が、何故、今示すことができるのか。処分と同時にあるいは裁判の過程で示すことができたはずである。

 

やり直したとしても、当初の行政処分がなされた時と同じ資料や証拠を収集することは困難になっている。

→同感である。社労士は、遡及請求や審査の過程で過去の診療録や検査数値が必要となることがある。カルテの記載が十分でない、必要な時期のデーターがない等により、過去の障害状態を証明することができず諦めざるを得ないこともある。

病気の特性から、当時の状態を推測し得るという申立や医師の意見書を添付しても推測にしかすぎないと一蹴され、くやしい思いをしたことがある。

無駄な時間と労力を費やすだけでなく、やり直しは原告を不利な立場に追い込むため、障害年金の場合は、このようなことは認められるべきでない。

 

④どこまでの理由付記を求めるか

→印象としては、今の曖昧な認定基準では、具体的で納得できるような理由付記は難しいのではないかと思う。

再審査請求まで行っても、こちらの質問や論点を無視して診断書の記載内容の羅列のみで最後に「総合的に判断して日常生活に著しい制限があるとは言えない」としか記載されていないことが多々ある。

せめて、障害状態認定表の内容を、記載して欲しい。審査請求、再審査請求で理由が変わることがあるが、理由付記により記載した理由に責任を持たせることができるのではないだろうか。

 

懸念していること

→審査する上で客観的なものを求められる。精神であれば、ガイドラインの等級の目安も客観的なものとなり得るが、他に独居、福祉サービスの利用、就労状況などがある。

具体的な理由を求めすぎると、これらでラインを決められマニュアル的に運用され個別事情が考慮されなくなるのではないか懸念している。少し曖昧なところもあってよいのかと・・・

 

⑤「日常生活に著しい支障がある」というのはどういう程度か

確かなのは、国(審査側)と一般的な感覚(私たち)の間に随分乖離があるということである。国の判断には、日常生活の不自由さや稼得能力だけでなく、財政の問題や年金制度の将来の方向など他の要素も含まれてくるため、その時代によっても変化するものである。

また、傷病や審査する人によっても差があり、公平さに欠けているものの、ではいったいどのようになれば公平なのかは奥深い問題である。

この研究会で、一歩ずつ公平なものに近づけて行くことができればと思う。

 

 

6月に受け取った却下通知に理由付記がなかった。

→年管発09262の理由付記の対象に「却下」が含まれていない。

 

レジメ⑧橋本宏子

橋本宏子 コメント

 

 Ⅰ 「権利あるところ救済方法あり」 

  「権利あるところ救済方法あり」(クック(コーク))といわれますが、「障害基礎年金を受ける権利」の救済方法は今のままで十分なのでしょうか?その前に「障害基礎年金を受ける権利」とはどのようなものなのでしょうか。

 

 Ⅱ 「障害基礎年金を受ける権利」(社会保障給付にかかる権利)の保障にとって、重要なのが手続であると私は考えます。その理由に関係することとして、「障害基礎年金を受ける権利」(社会保障給付にかかる権利)がどのように捉えられているのか、みてみたいと思います。

 

1、裁定を受けた受給権者

大阪地裁判決(平成31年4月11日・確定)は生存権とはいっていませんが、「障害基礎年金の給付を受ける権利につき裁定を受けた受給権者は(障害年金が支給されることを前提に生活設計をたてることになるのであり、支給停止処分は重大な不利益処分」)という言い方をしています。

 

2、権利は絵に描いた餅?

障害基礎年金の給付を受ける権利につき裁定を受けた受給権者という言い方は、(行政主体による決定がなければ)、本人が抱いている「障害基礎年金を受ける権利」は絵に描いた餅になってしまうということです(この点は、支給されていた年金が停止された場合についても同じことがいえます)。このように、現在の法的状況のもとでは、障害基礎年金を受ける権利は、多分に行政主体の決定に依拠しています。つまりその決定の枠内での権利性でしかない、ということになります。これで「権利あるところ救済方法あり」といえるのでしょうか。

 

憲法25条に基づく「障害基礎年金を受ける権利」は、けっして人間の生存をそこない、あるいは危うくするようには解釈されるべきではないとするなら、現状のような状況は「憲法上の人権保障が空洞化されている」ことに通じるものではないのでしょうか。ではどう考えればよいのでしょうか。そこで重要になってくるのが手続(「国民のニーズの一種の確認手続」)だと私は考えます。「国民のニーズの一種の確認手続」という考え方について少し説明させてください。

 

国民の生存の権利(障害基礎年金を受ける権利)は、現在のように行政主体の決定に依拠すべきものなのではなくて行政主体の決定は、国民の生存の権利保障のための一手段にすぎないと考えた場合には、法的問題として、国民の生存の「権利」性と行政主体の「決定」の間になんらかの調和を見出す、いいかえれば「国民のニーズの一種の確認手続」が必要となってきます。このような必要性が出てくるのは、社会保障給付(ここでは「障害基礎年金の給付」)を受ける権利の法的性格が、財産権と同じようには考えられない、法の柔軟性をもつということに関係しています。イギリスの補足給付上訴審判所(Supplementary Benefit Appeal Tribunal)は、こうした「社会保障給付に固有の手続の必要性」に基づき、「国民のニーズの一種の確認手続」として制度化されたものといわれています。

 

 Ⅲ 今日の議論に関連して

 

1、本日の資料にある準備書面(7)は、「行政手続自体に実体とは別に守るべき法的価値がある」あるいは「国民の適正手続を受ける権利」という指摘もされており、行政手続の重要性を強調されている、と理解しました。

 

  2、社会保障給付に係る行政手続の解釈と運用

① しかし社会保障給付に係る行政手続の解釈と運用においては、こうした行政手続一般の重要性に重ねて「社会保障給付に固有の手続の必要性」が強調される必要がある、と私は考えています。

② 社会保障に関する判決ではありませんが、昭和38年の白石判決(「個人タクシー事件」及び「群馬中央バス事件」に係る判決。いずれも東京地裁)は、憲法14条の「法の下の平等」と憲法13条、31条の国民の権利、自由の保障規定に手続的保障を含ませることによって、「行政手続」の「公正」さ の要請を裏づけようとしました。そして重要なのは、手続的正義の原則が13条および31条に含まれることについて、

  ⅰ 憲法前文の「信託」の法理

  ⅱ 憲法15条の公務員の全体の奉仕者として誠実に事務処理すべき義務

をあげている。

この指摘は、先に述べた「国民のニーズの一種の確認手続」を通じて、「国民の生存の「権利」性と行政主体の「決定」の間になんらかの調和を見出す」という視点が、単なる「調和」を意味するものではなく、(人権の法的主体である国民が、行政客体の地位におかれている現状を、転換させる)ことへの手がかりを示唆しているように私にはみえます→ちなみに、憲法前文の「信託」の法理は→~国政は国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、~、その福利は国民がこれを享受する と述べています。

 

  3、アメリカ法のdue process of law(法の適正な過程/適正手続)ならびにイギリス法の自然的正義の法理

 

① アメリカ法のdue process of lawならびにイギリス法の自然的正義の法理は、わが国の「行政手続」に多大な影響を与えた、といわれています

 

② アメリカ法の適正手続ならびにイギリス法の自然的正義の法理にみる「行政手続」の考え方に学ぶこととして、2つのことをあげておきたいと思います。

 

ⅰ 拡がりをもつ「行政手続」

イギリスやアメリカの場合、特定の「行政手続法」に個別事案をあてはめてきたわけではない→(わが国でいう刑事手続保障も行政手続保障も截然と概念区分せず)多種多様な形で、人権を保障する手続が育ってきた

 

ⅱ 流れとしての「行政行為」(行政処分)

イギリスの広義の「行政手続」の法体系における行政当局の行為は、たんに、静止的あるいは断片的に捉えるべきでなく、権限の遂行される過程として、動的あるいは継続的に捉えられるべきものとされる。この立場は、アメリカ法において、行政過程としてこれを捉える立場と共通する、といわれています。

 

ⅲ これらのことから考えること

これらのことは、反復禁止効を考える視点とも関係するように窺えますが、それと切り離して考えても、行政手続を総合的かつ継続的に捉え、行政庁の行為(大阪の例でいえば、支給停止の理由を改めて記載した書面を再度作成、遡って支給停止処分を行う通知書の送付)を、当初の処分(障害基礎年金の支給停止処分)に継続する広い意味での「行政手続」の流れの中に位置づけることはできないか ということへの関心を浮上させます。

 

   ⅳ この場合の「行政手続」においては、「社会保障給付に固有の手続の必要性」が念頭に置かれる必要があると考えます。先に述べた「国民のニーズの一種の確認手続」を体現する「イギリスの補足給付上訴審判所」は、広義の「行政手続」の一環。いいかえれば、審判所ぬきに「行政手続」は考えられない、とされています。

 

   ⅴ 手続法と実体法の融合への示唆

事案の性質に応じ、事前あるいは事後手続、さらに、行政不服手続と司法手続が、どのように総合的に活用されれば、人権を奪うことにならないか、という視点は、「手続法と実体法の融合」への示唆も含んでいるように思われますが、どうでしょうか。

 

 

Ⅳ むすびにかえて 

 

  1、人権保障の一環として、(少なくとも社会保障給付に関わる)行政手続を考えるということは→「生存権」を起点に置く

 

  2、「生存権」(人間として生きる)を起点におくという発想とは

 

   ① 核規定としての憲法13条を考える

ここで「生存権」(人間として生きる)を起点におくという発想は、憲法13条の規定のされ方のなかに「生存権的基本権」の意味を読み取り、憲法13条を核規定としてそれとの関わりで憲法25条を含む憲法の諸規定を位置づけることによって「基本的人権」一般の問題を考究するという立場に依拠しています。

 

② この場合の核規定としての憲法13条は、近代自然法思想の単なる再確認に留まらない「人間の尊厳」の理解を背景としています。

 

 Ⅴ 障害認定基準を考える方向性

  1、国民のニーズの確認手続は、国民の権利を絵に書いた餅にするのではなく、人間が人間として生きるための障害年金への期待(要求)を「ニーズ」として捉えようとするものです。              

2、そこでは行政主体の主張は、(判決が指摘するように)いかなる事実関係に基づき、どのように障害認定基準を適用して当該処分がなされたのかを、当該処分の相手方においてその理由の提示内容自体から了知しえるものとすることが必要、となります。

  3、他方当事者は、人間として生きるための障害年金への期待(要求)を当事者の考える障害認定基準(あるいはそれを超えた独自の)視点から、主張(理解)していくことになります。いいかえればそこでは、障害年金への期待(要求)を背景とする個々人の請求の上に立って、個々の「必要即応の原則」により当該案件を処理するのが理念となります。

4、したがってそこでは、障害認定基準は、個別事案処理の一応の内部準則に過ぎない、ことになると思われます。[14]

 

 



[1] 現行認定要領(抜粋)「糖尿病については,必要なインスリン治療を行ってもなお血糖のコントロールが困難なもので,次のいずれかに該当するものを3級と認定する。…なお,症状,検査成績及び具体的な日常生活状況等によっては,さらに上位等級に認定する。」

[2] 旧認定基準(認定要領)は,HbA1cが 8.0%以上等の場合をコントロール不良とし,合併症の程度を認定の基準としていたところ,HbA1cは過去12か月の血糖の平均値であり,短期間で血糖値の乱高下(原告の場合60029)を繰り返す1型糖尿病患者の症状を評価することは困難であった。

[3] これに対し、学説においては、争訟裁断行為や不利益処分については、理由を付記すべきとの主張もなされていたようです。南博方『行政手続と行政処分』(弘文堂 1980194196頁。

[4] 例えば、田中二郎『行政法総論』(有斐閣 1957年)353354頁、西鳥羽和明「理由付記判例法理と行政手続法の理由提示(一)」民商1126号(1995年)869870頁参照。

[5] 藤原静雄「理由附記判例にみる行政手続法制の理論と実務」論ジュリ367頁(2012年)70頁、田部井彩「理由付記の趣旨に関する一考察‐最高裁昭和38531日第二小法廷判決をめぐって-」中央学院大学法学論叢31263頁(2018年)87頁等。

[6] 最高裁判所判例解説民事編平成23年度761762頁(古田孝夫執筆)、藤原・前掲注(4)71頁、阿部泰隆「不利益処分の理由附記(行政手続法一四条一項)のあり方(一)」自治研究9353頁(2017年)45頁等参照。

[7] 例えば、総務庁行政管理局編『逐条解説 行政手続法〔増補〕』(ぎょうせい1994年)110111156頁。

[8] 例えば、本多滝夫「行政手続法における理由の提示と瑕疵の効果」龍法454199頁(2013年)214頁参照。

[9] 宇賀克也『行政手続法の解説(改訂版)』(学陽書房 1994年)8586頁参照。

[10] 北島周作「判批」法教37349頁(2011年)57頁、高木光=常岡孝好=須田守編『条解 行政手続法(第2版)』(弘文堂 2017年)200頁〔須田執筆〕等参照。

[11] なお西上治「判批」法教43450頁以下参照。

[12] 阿部泰隆「不利益処分の理由附記(行政手続法一四条一項)のあり方(二・完)」自治研究93644頁(2017年)45頁は、行政処分を刑事訴追と同様に国家による侵害行為であるとして厳密な理由付記を求めています。私もデュープロセスの法理の観点から同様の立場です。

[13] 平成471日最高裁大法廷判決(民集第465437頁)

[14] 以上は、以下の文献をも適宜参照しつつ、橋本の理解のもとに纏めたものです。

○ 下山 瑛二 『人権と行政救済法』 三省堂 1979年 

○ 下山 瑛二 『人権の歴史と展望』 法律文化社 1972年

○ 下山 瑛二 「沼田理論と『基本的人権論』」『沼田稲二郎先生還暦記念論文集 現代法と労働法学の課題』 総合労働研究所 1991年