Ⅲ 障害年金認定の現状
社労士 安部敬太
2020.10.25改訂
目次
(4) 認定基準の狭い解釈、認定基準に明確に書かれていない場合
(6) 検査数値の採用…身体障害者福祉法や労災、難病などとのかい離
(7) 補助具、薬効、特別な治療、人による支援のある状態の有無
(1) 初診日から1年半経過前の受給権発生(遡及支給の有無)
(1)障害年金行政のありよう
障害年金は、障害により稼得能力を喪失、減退した場合にその補てんを行う所得保障であると国は、何度も国会で説明している[1]。しかし、この国の障害年金認定は、医学モデル[2]に偏重し、その目的に沿った給付を行うということができていない[3]。そして、目的に反していることと表裏一体として、その医学モデル(機能障害)を中心とした認定ですら、公正なものとはなっていないといわざるをえない。障害者に対する、この国の中心をなす公的な金銭給付が障害年金であり、障害がある人にとっての生活の糧であるにもかかわらず、十分な理由も説明されず、不支給とする、打ち切る、減額するということが多々行われている。
(2)大量の処分変更
審査請求を行うことで処分が変更されることは多い。私が行った審査請求で2007年から2020年4月までに結果が出た370件のうち審査請求段階での処分変更は114件(30.8%)、再審査請求213件のうち処分変更は53件(24.9%)ある。総務省の統計[4]では、2014年度の社会保険関係の審査請求のうち25%程度が、審査請求を受けて処分変更されていると推定できる[5]。社会保険の再審査請求のうち障害年金に関するものが73%を占める[6]ことからすれば、障害年金についてもこれと同程度かそれ以上の処分変更があることになる。一方、労災においては、審査請求の取下げは6%程度である[7]。労災が比較的公正な決定をしているとは言えないにしても、不服申立てを受けて、国が2~3割も処分を変更するほどに、障害年金についての処分はその根拠があいまいであると言えるだろう。それは行政側でさえ織り込み済みであるといえる。再度見直せば、自ら誤りを認めるほど、その合理的根拠が不十分で、不公正な決定が多々行われているのである。
初診日とは、障害の原因となった傷病について初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日であるとされていて(国民年金〔以下「国年」〕法30条1項、厚生年金保険〔以下「厚年」〕法47条1項)、「その傷病に関連ある症状での最初の受診日」と解することができる。これを立証することは、その前日で納付要件が、その日で加入要件が判断されるため、受給権に直結する。
納付要件は、初診日の前日において、公的年金加入月のうち滞納月が3分の1以下であるか、直近1年に滞納月がないかのどちらかを満たせばいいというもので、20歳前初診日の場合は、問われない。初診日以後に納付したり、免除申請した月は、滞納月として扱われる。ただし第2号および第3号被保険者については、届出前2年間は遡って納付したとみなされる。
加入要件は、主には厚年に加入していたかどうかが問題となる。20歳から60歳までの国内在住者は国年の強制加入者であり、被保険者であった国内在住の60歳から65歳までは、この要件は問われないためである。法人等で厚生年金に強制加入しなければならないにもかわらず、法人が適用届や被保険者資格取得届を出していない場合には、被保険者確認請求を厚生労働大臣(ハローワーク)に行うことで、強制加入すべきであった日から届出日まで「厚年被保険者であるべきもの」となり、これにより、障害厚生年金の加入要件を満たすことになる。ただし、保険料納付は届出前2年間に限られるので、それ以前の期間は未納期間となり、結果的に納付要件を充足しなくなってしまい、障害基礎年金すら受給できないことがあることには注意を要する。
初診日の立証は複雑である。からみあった糸を、受給権に結びつくように解いていかなければならない。その際、カルテの確認が必要なことは多い。
【事例1】 てんかんの20歳前初診が、本人の請求では客観的資料で証明できず、友人等に話しておらず第三者証明(後述(3)③)が出せず、初診日特定不能により却下された。審査請求から受任し、これまでのすべてのカルテを開示して、丹念に読み込んだ結果、10年前の受診時に本人の父親が中2のときに初めて発作があり救急搬送されたと話している記録が見つかり、処分変更にて、障害基礎年金の受給権が認められた。
【事例2】 うつ病での障害基礎年金の事後重症請求において、もっとも過去のカルテに基づき記載してもらった受診状況等証明書(初診日の証明書)では、納付要件を満たす期間に初診日があることが確認できなかった。そのため、念のためカルテの開示請求をして、カルテを確認したところ、その病院の初診時において、その7年前の納付要件を満たす期間に内科で安定剤が処方されていたと本人が話していたことが記録されていた。そのことを受診状況等証明書に追記してもらい請求したところ、障害基礎年金2級が認められた。
2015年の厚労省通知「障害年金の初診日を明らかにすることができる書類を添えることができない場合の取扱いについて」(2015年9月28日 年管管発0928第6号, 以下「2015年通知」)によれば、カルテがない場合等の初診日の認定は以下により行われることになる。
まず、もっとも一般的なのが、現存する最も古いカルテ上の初診日についての情報である。2015年通知には、請求日から5年以上前の日付のカルテに記載されている、本人が申し立てた最初の受診時期を初診日と認める、とある。
次に、①の記録がない場合には、その他の資料により、初診日が認定されることがある。これは、受診日、診療科および傷病名等のPCデータ、薬局の調剤記録やお薬手帳、障害者手帳や生命保険、自賠責、会社へ提出した診断書および傷病手当金等の他の様式の診断書、精神科(または心療内科)単科の場合には日付の入った診察券、交通事故の記録、レセプト、救急搬送記録ならびに労災の記録等である。単独では証明力が弱いときは、年金機構のマニュアル[8]によると、これらのうち複数(たとえば、下肢障害での障害者手帳交付日とその4か月前の整形外科受診日〔傷病名不明〕の記録)を提出することによる「併せわざ」で、認定されることがある(事例4)。
上記①と②がない場合には、いわゆる最後の手段として、受診状況を知っている、複数の第三者による証明(以下「第三者証明」)を提出することになる。これは、3親等以内の者を除く友人や近隣者、教師、同僚などに、初診日の時期、病名、医療機関名および初診に至った状況などをできるだけ記載してもらうものである。2015年通知は20歳前初診日の場合は、第三者証明だけで認定することができる、とし、20歳以降初診日の場合は、20歳以降初診は他の資料とセットで認めることがあるとする。なお、診療に関わった医療従事者の証明1通があれば、それだけで認めるとされている。
さらに、2015年通知は、始期と終期を特定させて、一定期間のどこに初診日があっても納付要件を満たす場合で、①全てが同一制度加入であるときは請求人の申立日を初診日と認定する、②国年と厚年加入が混在しているときで、請求人が、厚年加入でない日を初診日として申し立てるケースでは申立日を初診日として認定(つまり、少なくとも障害基礎年金は支給)し、厚年加入中初診日を申し立てるケースでは他の資料(年金機構はこれを第三者証明[9]とする)が必要である、とする。また、始期については、出生日を始期とすることも否定していない[10]。
初診日の認定に関する1985年改正後の通知で、まとまったものは2015年通知しかないなかで、この通知が行政手続法上の審査基準または処分基準といえるのかどうかが問題となりうる。同通知の語尾はほぼすべてが「初診日として認定できる」としているところ、これをどう解釈するかという点も議論がありうる。2015年通知は審査基準または処分基準として扱われるべきであって、「認定できる」という文言は、明白に証明力に問題がある資料や第三者証明では認定しない場合がありうることを示すにすぎず、原則として、2015年通知に書かれている内容で初診日を認定すべきものであるし、さらに、その解釈を示した年金機構のマニュアルに該当する場合には、初診日を認定する義務が保険者(国)および行政不服審査の審査機関にはあると考える。
【事例3】 2020年4月の社会保険審査会裁決令和元年(厚)272号は、請求人が2015年通知の適用と年金機構の解釈文書(マニュアル)を根拠に厚年初診日を認定すべきと主張したのに対して、2015年通知に一切ふれることなく、請求を棄却した。糖尿病性腎不全により、人工透析を受けているケース(50歳)で、高卒で就職した年の6月の耳鼻科入院のときに、糖尿病の初診日があるとの請求(障害基礎年金から障害厚生年金への裁定替え請求)を、保険者は初診日特定不能と却下した。厚年期間は高卒後から4年で、その後は自営業で国年1号であった。障害基礎年金の初診日は、35歳と認定されている。出生日から35歳の初診日まで、初診日がどこにあっても、納付要件は満たしているため、就職直後の6月の耳鼻科入院時に初診日があった(入院中の検査で糖尿病と診断)という当時の同僚の証明2通により、2015年通知と年金機構の書面により、厚年初診日が認められるべきと主張した。再審査請求の公開審理では、国は出生日は始期として認められないと述べた。さらに、審査長は、2015年通知はこれに該当しなければ、認定しなければならないという趣旨なのか、と保険者に質問し、保険者は「認定できる」と書かれていることから「しなければならない」ということではないと回答し、審査長も、審査会はこの通知には縛られないと公言した。始期については、高校時代は運動部に所属し、糖尿病と言われたことはなかったという元教師の妻と同級生の第三者証明を審理後提出したものの、裁決は2015年通知にもその解釈にも一切ふれず、第三者証明では証明力がないと棄却した。
まず、前提として、国は証明責任は請求者にあるという。しかし、カルテ保存期間が終診時から5年(レセプト等も同様)とされているなかで、どうして請求人が証明責任を負わなければならないのかという問題がある。
2015年通知を前提としても、初診日を証明できないケースは、まだまだ多い。以下などである。
第一に、第三者証明が取れないことが多々ある。統合失調症などでは、誰にも言っていないことが多い。
第二に、通知からすると、20歳前初診日については、第三者証明のみで認定することができるとしているものの、実際には、20歳前初診日であっても、第三者証明のみで認定する場合と認定しない場合(事例4)があり、その切り分けがどういう基準でなされているのかはまったく不透明である。
第三に20歳以降の初診等で第三者証明しかない場合には、あわせて必要な客観的資料とは何かが問題となる(事例4)。客観的資料については、日記、メール、ブログ、家計簿などは客観的資料とはみない、というのが厚労省見解である。しかし、実際の行政争訟では、証明力によっては認められた事例も過去にはある。
【事例4】 17歳時初診日の遺伝性の視力障害について、入社前の健診で視力低下を指摘されたことを請求人から聞いたという第三者証明2通だけでは初診日が認定できないと返戻されたのに対して、健診を受けたクリニックの受診日(受診内容は一切不明)の日付だけの記録を提出したところ、第三者証明との併せ技で、障害基礎年金の受給権を認めた。
第四に、5年以内のカルテしか残っていない場合にも、あわせて必要な客観的資料とは何かが問題となる。受診が必要のない場合、治療法がない場合、進行が非常に緩やかな場合などでは受診していない期間が長期に及ぶことは多い。5年以上前のカルテは破棄されている場合には、初診日認定は非常に困難となる。
第五に、一定期間のどこに初診日があっても納付要件を満たすが、複数の制度に加入し、厚生年金加入中初診を証明したいものの、第三者証明が取れないときも問題となる。誰かに話したのが5年以内の場合は、第三者証明としては認められない。
第六に、一定期間に納付要件は充足とする場合に、特定しなければならない始期と終期がはっきりしない場合がある。2010年頃、35歳頃という記載については、年金機構はQ&Aで始期と終期を示している(2010年は同年1月1日~12月31日、35歳は同誕生日~翌年の誕生日前日)[11]。では、「1年前に〇〇に受診した」という場合の始期と終期はいつからいつまでなのかが明確ではない。
精神障害の場合は、原則は、生涯で最初に精神科または心療内科にかかった日が初診日とされる。しかし、受診経過によっては、それ以降が初診日と認定されることがある。
【事例5】 精神科受診前に全身性エリテマトーデス[12]の受診があり、精神科受診時には、全身性エリテマトーデスによる器質性精神障害と診断された。しかし、全身性エリテマトーデスの初診日では納付要件は満たさない。カルテ開示により、精神科受診後、最初の1年半は睡眠薬しか処方されず、その後、抗うつ剤が継続して処方されていたことを確認し、抗うつ剤の処方前は精神症状についての受診ではないとして、抗うつ剤処方開始日を初診日(納付要件を満たす)として請求したところ障害基礎年金2級が認められた。
内科等の他の診療科受診であっても、通常、医師が精神科受診を勧めた時点が初診日となる。精神疾患を疑われた時点、抗不安薬や睡眠薬が処方された時点も、その前後の受診状況によっては初診日と認定されることがある。
なかなか確定診断がされない、慢性疲労症候群、線維筋痛症や難病などの場合に問題となる。特異的症状やウイルス感染が原因である可能性が指摘されている場合などは、それによる受診が初診日とされることもある。たとえば、慢性疲労症候群で、疲労を訴えてかかりつけ医に行った日やマイコプラズマ肺炎で受診した日が初診日と認定されたことがあるものの、全身疲労により仕事ができなくなっていろんな科にかかっても病名がつかなかったときではなく、確定診断日が初診日とされる傾向は強まっていると考えられる(慢性疲労症候群の初診日については東京地裁で係争中)。線維筋痛症の初診日が争点となった、2020年6月5日東京地裁判決(判例集未搭載)では、判決直前に、国は確定診断の1年前に症状が発現した受診日を初診日と認め、障害認定日における障害の程度が争点に変わった(同判決は3級を認容)。
手術や特殊治療が原因で発症した場合に、元の病気と因果関係があるかどうかは、これまで裁定段階や裁決でも判断がわかれていて、明確な切り分けができていない。認定医の判断次第と思われる。しかし、元の病気がなければ手術や特殊治療は行われていないのであり、それらが発症の直接の原因であれば、因果関係ありと判断するのが原則ではないかと考える。障害年金の実務上、因果関係ありと判断される場合でも、A傷病からBという病気を発症することが 100%ではない(糖尿病だからといって、糖尿病性腎症にすべての人が罹患するわけではない)ことと比べると、元の病気の治療の結果の発症は元の病気との因果関係はより明確である。
【事例6】 がんに対する抗がん剤治療により、骨髄異形成症候群となり、死亡したケースの未支給年金請求について、国は、2回目の抗がん剤治療開始日を初診日としたのに対して、審査請求で、初診日はがんの最初の受診日であると主張している(審査中)。
条文上は「疾病又は負傷及びこれらに起因する疾病」(国年法30条、厚年法47条)とされている。他の傷病に起因する負傷はありえないということである。すると、うつ病により、高所から飛び降りケガをした場合にはどうなるか。この場合には因果関係で判断するのではなく、高所からの飛び降り(とその障害)は、直接「うつ病による障害」であると考えるべきである[13]。
【事例7】:うつ病のため飛び降りをはかり、両下肢障害により車いすとなったケースで、飛び降り時には国年だったため、障害基礎年金を請求し、1級と裁定された。受給開始の3年後に、原因はうつ病であり、その初診時には厚年加入だったため、飛び降り時のけがの受診状況等証明書に原因は「うつ病」とされていたことを根拠に、事後重症の障害厚生年金に裁定替え請求を行ったところ、国は障害厚生年金の受給権を認めた。さらに、障害基礎年金請求と認定したことが国の誤りであったとして、障害基礎年金請求時に障害厚生年金の請求があったとみなすべきであると主張したところ、国は認めて、障害基礎年金の返金は生じなかった。
現行の年金機構マニュアル[14]には「ステロイドの投薬による副作用で大腿骨頭無腐性壊死が生じたことが明らかな場合には、相当因果関係ありとして取り扱います。」とある。下線部は、2012年5月の障害厚生年金手引きから加筆された。ステロイド治療後の骨頭壊死等の関節症状はそれ以前は原則として因果関係あり、とされていたのに対して、最近は因果関係を認めさせるには根拠が必要とされる傾向にある。
原則として、裁定や不服申立てでは、因果関係を認めていない。2014年10月30日東京地裁判決(裁判所ウェブサイト)では、他の原因を具体的にすべて消去したうえで、高血圧との因果関係を認めている[15]。裁定段階や不服審査でも、このようなていねいな立証が必要であろう。
これまでの裁決では、因果関係を認めているもの[16]と認めていないもの[17]があるが、最近の傾向としては認めない傾向が強いと考えられる。
【事例8】 社会保険審査会2007年(厚)495号裁決(『2008-2010年社会保険審査会裁決集』被用者保険231頁)は、糖尿病、高コレステロール血症は「いずれも心筋梗塞発症の主要な危険因子であり、また、これらの危険因子が複合することによって心筋梗塞発症の蓋然性が高まることが種々の疫学研究の結果から広く認められているものの、前発傷病と心筋梗塞発症との間に、糖尿病と糖尿病性網膜症のように、前者が後者を招来する関係を是認し得る高度の蓋然性があるとまではいえないから、両者の間に相当因果関係を認めることは困難といわざるを得ない」とした。
糖尿病と糖尿病性腎症の因果関係は当然ありとされるのに対して、急性腎不全の場合は、糖尿病は直接の原因ではないとされている。しかし、糖尿病により腎臓の状態がよくないことがベースとなり、感染などにより急性腎不全となったときに、糖尿病との因果関係の有無がどう判断されるのかが問題となる。
請求人が同一傷病であると主張をしない限りは別傷病と判断されることが多い。
医学的には因果関係がある可能性が高いとされている場合でも別傷病と判断されることがある。たとえば、クローン病(またはその治療薬)と悪性リンパ腫、クローン病と直腸がんなどである。
家族の相談であっても、初診として認められることはある。家族が訴えた内容、医師のそれに対する応答の内容、診断名はついているかなどにより、認められる場合がある。
【事例9】 社会保険審査会裁決『2005年版社会保険審査会裁決集』国年関係44頁は、両親が精神科クリニックに行き、医師から、推測として、一応うつ状態との診断を受けている件について、「本人に病識を欠き受診を拒否することの多い精神病に関しては近親者による相談も保険給付上初診日に当たるものとして取り扱うことができる場合があると考えられ、本件事実関係の下では、このうつ状態とされた傷病は当該傷病と同一性があると認められる」とした。
原則として、医師または歯科医師であることが条文上の規定であるが、それ以外の専門職への相談であっても、初診日と認めることがある。
【事例10】 社会保険審査会裁決『1998年版社会保険審査会裁決集』436頁は、親元離れを独立生活しており、自発的受診は困難な状況にあり、精神科受診2年前の19歳時に臨床心理士が精神科受診を勧めたケースで、20歳前までに専門医の診断を受けるべき状態にあったとして、この期間に初診があったものと取り扱うのが相当であるとした。
2015年通知では、「原則として初めて治療目的で医療機関を受診した日とし、健康診断を受けた日(健診日)は初診日として取り扱わないこととする。」とした。しかし、これは医師の「診療」をどう解釈するかの問題である。この通知前は「健康診断により異常が発見され、療護に関する指示を受けた場合は健康診断日」を初診日としていたし、医療保険上は「診療」には当たらない、大学の保健管理センターでの医師への受診であっても、初診日と認定している。これらから、医師との面談がある健診について、初診日と認定しないというのは法に反するといえるのではないか。実際に、事例4は健診での異常指摘されたという第三者証明により初診日と認定している。
覚せい剤などの使用については、厳しい認定が行われているものの、覚せい剤の前に精神疾患を発症している場合には、因果関係なしと扱われる可能性がある。覚せい剤使用後に発症した場合には、発症までの期間、発症までの就労・生活状況、発症後の精神疾患の病態(覚せい剤精神病との類似性の有無)などによっては因果関係なしと判断される場合がある。なお、給付制限の根拠条文については、国は国年法69条(故意に障害…を生じさせた者の当該障害については、これを支給事由とする障害基礎年金は、支給しない)と70条(故意の犯罪行為若しくは重大な過失により…障害若しくはその原因となつた事故を生じさせ…た者の当該障害については、これを支給事由とする給付は、その全部又は一部を行わないことができる)を区別せず、70条が適用される覚せい剤使用の場合も、69条と同様に全部の支給をしないと扱っているが、因果関係があるとしても、支給制限は一部とされるべきである[18]。
社会的治癒とは、国の説明によれば、「医学的な治癒に至っていない場合でも、医療を行う必要がなくなりまして社会復帰している状態を社会的治癒ということで治癒と同様の状態と認めまして、その後、症状が著しく悪化した再発の時点を初診日として取り扱う」[19]とされている。
再発と社会的治癒の違いについては、再発後を初診とする扱いのうちに、医学的な治癒(寛解)後の再発と社会的治癒の2つがあると考えられる。社会的治癒はどういう場合に認められるべきなのか、社会的治癒に一定の医学的な裏打ちは必要なのかについては、社会保険審査会裁決は治療が必要ではない状態であることや精神障害等の場合には寛解維持のための最小限の投薬であること等医学的な根拠を要するとしているものが多い。裁判例でも一定必要としている(事例11)。
【事例11】 2007年4月12東京地裁判決(判例集未搭載, ウェストロージャパン2007WLJPCA04128004)は「薬物療法を継続していることのみを理由として,『医療を行う必要』がなくなっていないから社会的治癒ではないとの結論を導くことは相当ではない。したがって,仮に薬物療法を継続していたとしても,寛解状態にあり,就労をするなど一般社会において安定的な社会生活をある程度長期間にわたって継続的に営むことができるのであれば,社会的治癒を肯定することができるというべきである。もっとも,薬物療法によって辛うじて症状が抑えられているにすぎず,これを中断すれば直ちに症状が現れるような状態にある場合は,効果的な薬物療法が継続しているといえることから,社会的治癒を肯定することは困難である。」とする[20]。
進行性の病気で、かつ、治療法がない場合に社会的治癒は認められるのか、については、「原則として認められないが、認められる場合もある」というのが、事例12の口頭意見陳述(2019年3月)での保険者の回答であった。上記の医学的裏打ちを要するという扱いと非整合な面があることは否めないし、その切り分けは明らかではないものの、下記事例のほかに網膜色素変性症でも認めている事例[21]が複数ある。
【事例12】 筋ジストロフィーの確定診断と、そのきっかけとなった数か月前の受診日は厚生年金加入中だったので、障害厚生年金を請求した。しかし、中学時代に受診したカルテの病名欄に、確定診断と別種ではあるものの、筋ジストロフィーの1種との記載があったことから、国は20歳前初診と認定した。カルテをすべて取り寄せ、20歳前の受診は、何ら検査もなく、本人や家族への病名告知もないことから、病名はレセプト上の記載に過ぎず、本件傷病の診療開始時期は、確定診断の数か月前であること、仮に20歳前の受診と同一傷病であったとしても、就学と就労には支障がなかったことから、社会的治癒により厚年初診と認定すべきだと主張したところ、再審査請求にて、国は、処分変更で障害厚生年金を認めた。処分変更後に開示請求した障害状態認定表には、就学期は体育実技ができていたことを根拠に社会的治癒を認める、と記載されていた。
日本の障害年金認定は、医学モデル(機能障害[22]認定)に偏重した法令・認定基準・認定方法より行われている。かつ、そのやり方も不公正なものになっている。
等級表は、1級と2級は国年法1966年から、3級と手当金は厚年法1954年から、変わっていない。変わったのは1985年改正により法別表から政令別表に格下げされたことだけである。
日常生活能力によって、障害年金の等級を画することは、国が説明する障害年金の目的(障害による稼得能力の喪失・減退に対する所得の補てん)と整合性が問われうる。この日常生活能力は、国民年金の障害年金創設時に採用された認定尺度である。法案提出1か月半前までは、厚年と同様に労働能力を尺度としていたものが、議論も説明もなされずに、日常生活能力に差し替えられている[23]。
2002年に国会において、西川きよし議員の「所得保障の必要性と日常生活能力、この日常生活能力の関係が不明であるのではないか、あるいは厚生年金加入中の、先ほども出ましたが、初診の場合は一級、二級は日常生活能力で、三級の場合は労働能力で測定されることになっているというこの点についてですけれども、一つのものをはかる途中で例えばその物差しを変更するということなどは不可能なことではないか」との質問に対して、国は「昭和六十年までは国民年金と厚生年金、これは別々の制度でございました。それで、国民年金につきましては日常生活能力に着目して認定基準がつくられておりまして、厚生年金はサラリーマンでございますので、労働能力に着目して基準がつくられておったわけでございます。六十年改正におきまして、その国民年金を日本国民全体の一階部分の制度として再編成するということになったわけでございまして、そのとき、その認定基準につきましても統一が図られたわけでございます。そのときは、日常生活能力の制限の程度に応じて国民年金は基準がつくられておりましたので、これを基本にいたしまして一級と二級は決められたわけでございます。基準は一緒にされたということです。ただ、厚生年金につきましてはサラリーマンでございますので、日常生活については大した支障はない、しかし労働能力には支障があると、こういった障害を有する方につきまして、三級の厚生年金だけの障害年金の制度ができたということでございます。」と答えている[24]。国は、所得保障の必要性と日常生活能力尺度との関係について、正面から答えることはできていない。ただ、元々別制度であった国年の障害年金と厚年の障害年金を接合したために、認定の尺度が、1級と2級は日常生活能力、3級は労働能力という木に竹を接ぐものになっていることの歴史的経過を述べたにすぎない。
障害者権利条約の批准に向けた2011年の障害者基本法の改正(2条)では、障害者を「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。」と、社会的障壁を「障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。」と定義している。この条文のように、「日常生活」は「社会生活」と区別されることが一般的である。日常生活に制限を受ける状態は、労働を含む社会生活に制限を受ける状態よりも重度の障害状態にあると捉えられる。日常生活の制限の程度で、2級(障害基礎年金)を給付するか否かを画することの最大の問題は、身辺処理可能だが稼得能力を喪失している場合に2級(障害基礎年金)が支給されないことにある。
【事例13】 2015年5月29日大阪高裁判決(裁判所ウェブサイト)は、不安恐慌性障害および回避性人格障害について2級該当性が争点となった事案に関して、「施行令別表における『日常生活』とは、労働に従事すること等の、社会内における様々な他人との複雑な人間関係の中での社会的な活動よりも狭い範囲の活動、具体的には食事や入浴、家事等、他人関係を伴わず、主に家庭内で行う活動や、買物や通院等、比較的単純な対人関係を伴う活動をいうものと解すべきである。そして、このように解することは、国民年金が厚生年金保険法等の被用者年金各法とは異なり学生や主婦等の職業を持たない者も加入する制度であって、労働能力の喪失の程度を基準として障害の程度を判断することが必ずしも適切でないこととも整合し、また、社会的な活動を行う能力や労働をする能力が著しい制限を受ける場合であっても、日常生活が著しい制限を受けていない場合に障害基礎年金を支給しないこととしても、健全な国民生活が損なわれることを防止するという法の趣旨に反することはない。」と判じた。
一方、日常生活能力尺度により、精神障害や内部障害により自立した日常生活はできないが労働はしているという場合に2級に該当するかというとそうはならないことも多い。というのは、日常生活能力と労働能力との関係については、一般的には、身辺処理や家事の能力よりも労働して収入を得る能力のほうが高度なものであると理解されていることに加えて、認定基準の一般的程度の記載(障害の状態の基本)に日常生活能力の中身として、2級は「労働により収入がえられない」および「活動範囲は家屋内に限られる」程度であると記載があるからである(後述2の(1))。内部障害については、これに加えて、「座業や軽い家事もできない状態」以上が2級という記載があるため、どういう形であれ、仕事ができている場合には、「日常生活が著しい制限を受けるか、又は、日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」という2級に該当しないと判断される可能性があるからである。このことにより、福祉的就労や週10時間労働等、とても自立した生活ができない程度の稼得状況であっても、労働している(つまり、活動範囲が家屋内を超える、または一般状態区分ウ「座業もできない」に該当しない)というだけで、2級非該当となってしまうことがある。さらに、日常生活能力は医師が判定する機能障害認定と親和性が極めて高いと考えられることも指摘しておきたい(後述2の(2)参照)。
日常生活能力の問題点は、審査基準・処分基準としてのあいまいさにもある。2級包括条項(15号)の「日常生活に著しい制限状態」というのはどういう状態なのか。15号は「前各号に掲げるもののほか、身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活が著しい制限を受けるか、又は、日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」とする。つまり、1号~14号までは、「障害の状態」としては同程度であって、その状態とは「日常生活が著しい制限を受けるか、又は、日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」であるとしていると解される(2(1))。しかし、「両眼の視力の和0.08」、「両耳の聴力90db」、「一上肢のすべての指を欠く」、「一下肢の足関節以上で欠く」などの1号~14号の記載が、どうして同じレベルの「日常生活に著しい制限がある障害状態」といえるのかは不明である。少なくとも、同レベルと判断するために、どういう能力障害や社会的不利(参加制約)の指標を立てたのかが説明され、それらの指標により各障害が、どうして同レベルの障害状態にあると判断されたのかが説明されなければならない。1985年改正前の厚年法の2級は、同様の抽象的表現であっても、「高度の労働能力制限」であった。これであれば、少なくとも労働能力を喪失していることが立証できれば2級であると主張できる。しかし、「日常生活の著しい制限」では、「日常生活」とは何か、「著しい」とはどの程度なのかが何ら明確ではなく、審査基準・処分基準として、あいまいすぎて、これに当てはめて2級を認定することも、請求者がこれを根拠に2級を主張することも不可能というほかない。
障害全般についての「日常生活の著しい制限」について、一定具体的に、国が示しているのが、認定基準における「障害の基本」である。これについては後述する(2(1))。
外部障害は機能障害のみで、内部・精神障害は労働能力を含む日常生活能力(全般的能力障害)で認定する。2級でいえば、国年令別表1号~14号(外部障害)と15号(包括条項)の規定の仕方の落差は大きい。
【事例14】1985年改正前の認定基準により血友病による障害の状態が2級と判断できるかどうかが争われ、検査数値は2級程度と認めたものの、認定基準の日常生活能力の記載により2級非該当とした一審判決[26]の控訴審[27]において、外部障害に比して内部障害の場合にだけ日常生活能力や労働により収入が得られないことが 2級認定において要件とされることが憲法14条に反しないかが争点となり、判決は次のように判じた。「国民年金の障害給付は、被保険者が障害により日常生活に支障を来したり、日常生活に著しい制限が加えられたりして所得が減少した場合に、その生活の安定が損なわれるのを防止することを目的として支給されるものであり、…外部障害であれば、旧国年法別表の各号に規定された障害の内容から、障害の程度を推測することが可能である一方で、内部障害については、多種多様な傷病により生じる身体への障害を『前各号と同程度以上と認められる状態』の文言のみで判断することは極めて困難であり、検査成績が異常であっても日常生活に支障を来さない場合もあれば、検査成績に異常がなくても日常生活に相当の制限が生じている場合もあるから、旧国年法別表2級15号に関し策定された認定基準において、検査成績だけではなく、一般状態も考慮して障害の程度を判断すると定めていることは相当である。…旧認定基準が内部障害について『労働により収入を得ることができない程度』との要件を付加する点は、新認定基準においても維持されており、旧認定基準の当該部分は、前記の障害基礎年金等の趣旨に照らしても合理性があるといえ、憲法1 4条に反しない。」(下線引用者)
この判旨には、疑問がある。国年法が制定された1959年から2級1~14号は変化がない(制定当時は法別表)。15号も1966年から同一である。目的を「所得が減少した場合に、その生活の安定が損なわれるのを防止する」と言いつつ、外部障害だからといって、半世紀以上を経て、装着する人工物・補助具やユニバーサル機器も進んでいるなかで、「所得減少による生活不安定の程度=障害の程度」を機能障害により認定可能といえるのか。「障害の程度」が稼得能力の程度であればもちろんだが、「日常生活能力」の程度であっても、現状では、そうとは言えないケースは多々あるのではないか。
機能障害認定への偏重の始まりは、等級表に解剖学的、外科的、生理学的な機能障害が列記されていることによるものと考えられる。そして、その影響からと考えられるが、認定基準においても、単独の外部障害は、原則として、その部位の検査成績、欠損範囲等で等級が決まる。四肢の麻痺や失調、そしゃく障害、発語障害、平衡機能障害などの場合に、例外的に、その障害部位に関わる動作制限(能力障害)の程度が問われることはあっても、外部障害についての個別基準において、日常生活能力や労働能力等の全般的能力障害が等級判定に影響するとの記載はない。
機能障害認定による最大の問題は、重症度を示せない難病(事例15)、がん(事例16)等の場合に、障害年金制度から排除されていることである。
【事例15[28]】 数値で重症度が示せない全身性強皮症[29]により、20歳からほぼ毎年、1~2か月程度入院し、それ以外も週3回、2時間の点滴をほぼ常時行っていて、就労はまったくできていないケースで、20歳前初診の障害基礎年金を30歳時に請求したところ、裁定段階では、検査数値で重症度が示せないために不支給とされ、再審査請求で請求日現状についてのみ2級と認定された。しかし、この2級認定は、不服審査の最中に病気のため死亡したことが大きく影響した。
【事例16】 前立腺がんにより、前立腺の全摘の後遺症としての尿失禁(夏には匂うほど)と長年のホルモン療法により筋力が低下して倦怠感が大きく退職を余儀なくされたケースで、障害厚生年金を請求したところ、重症度が示せないことで3級すら不該当とされ、提訴し、高裁まで行ったが、棄却された[30]。
傷病が複数あったり、同一傷病による複数の障害があったりして、全体として働けない状態となっていても、各傷病や障害をそれぞれバラバラにみて、併合認定するため、全般的な能力障害の程度と等級認定が違ってきてしまう。たとえば、事例16は、尿失禁、筋力低下、貧血等をバラバラにみて、それぞれ3級にもならないとして、3級非該当とした。その人の生の総体としての全般的能力障害(この場合は稼得能力の喪失)をみて判断するということをしない。症状、障害をバラバラにみるのは解剖学的機能障害認定(医学モデル)が貫かれているからであろう。
1964(昭和39)年に、内部障害の一部(結核性疾患およびそれ以外の呼吸器の機能障害)を給付の対象としたときに、包括条項が機能障害または病状により認定するとされた。国民年金法別表1級9号と2級15号については「身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が…」とされていて、2級15号の場合にはこの後に「前各号と同程度以上と認められる状態であつて、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」と続けている。この規定は現在も国民年金法施行令別表に現存している。この2箇所の「又は」をどう考えるかはあまり注目されてこなかった。しかし、これは機能障害認定とは別のもう一つの認定を規定したもので極めて重要である。この規定の一般的な対応関係は、「身体の機能の障害」が「日常生活が著しい制限を受ける」か、または「長期にわたる安静を必要とする病状(症状)」が「日常生活に著しい制限を加えることを必要とする」かのどちらかに該当すれば、2級と認定するということになる。これは、機能判定と病状判定のどちらかでみるとの趣旨ということである。病状判定は、肺機能に障害がなくても、結核で排菌により社会に出られない場合も対象とすると説明されている[31]。社会的不利あるいは社会参加制約(ICF)と部分的にしろ重なる判定方法であったといえよう[32]。しかし、この後の経過は、このような説明は医学モデルによる認定か強まることにより後景に追いやられていき、この「又は」以降の規定の意味合いも、認定実務において、議論の俎上にもほとんど乗らなくなって行った。
外部障害であっても、2級については、国年令1~14号に該当しない場合には15号が適用される。しかし、認定基準により外部障害は15号に該当するケースとして、具体的に、欠損部位や関節可動域等の客観的な機能障害を記載しているため、結局は、単独の外部障害はほぼ機能障害で認定される。これは、外部障害については、その機能障害を解剖学的、生物学的に1~14号で2級を規定していることに、他の外部障害も引きずられているといえるだろう。
1級と2級の日常生活能力は身辺処理能力であるとされ、2級は「必ずしも他人の助けを借りる必要はないが、日常生活は極めて困難で、労働により収入を得ることができない程度のものである。たとえば、家庭内の極めて温和な活動(軽食作り、下着程度の洗濯など)はできるが、それ以上の活動はできないもの、または行ってはいけないもの、すなわち…家庭内の生活なら、活動の範囲がおおむね家屋内に限られるものである。」とされている。この記載は1966年から変わっていない。
事例17~19は、「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」施行前の事案ではあるが、いずれも、社会保険審査会は、「障害の状態の基本」において「活動の範囲がおおむね家屋内に限られる程度のもの」を2級としていることを根拠に2級非該当(障害基礎年金を不支給)とした。
【事例17】 社会保険審査会2013年(国)687号裁決『2013年社会保険審査会裁決集』は、統合失調症で、診断書の「日常生活能力の判定」が平均3、「日常生活能力の程度」が「(4)日常生活において多くの援助が必要である」で、就労はできず、多少、家の手伝いをして、週に1~2回訓練センターに通所しているだけの事案について、2級非該当(障害基礎年金を不支給)とした。
【事例18】 社会保険審査会2012年(国)697号裁決『2013年社会保険審査会裁決集』は、うつ病により「日常生活能力の判定」平均3.3、「日常生活能力の程度」(4) で、就労継続支援B型に週4日通所している事案について、2級非該当(障害基礎年金を不支給)とした。
【事例19】 社会保険審査会2012年(国)217号裁決『2011・12年社会保険審査会裁決集』は、アスペルガー・精神遅滞により「日常生活能力の判定」平均3、「日常生活能力の程度」(4) で、時には野球観戦に出かけ、就労はできない状態であるものの求職活動を続けていることから就労に対する意欲があるとされた事案について、2級非該当(障害基礎年金を不支給)とした。
この記載は、「障害の程度を認定する場合の基準となるものは、国年令別表、厚年令別表第1 及び厚年令別表第2 に規定されているところであるが、その障害の状態の基本は、次のとおりである。」としたうえで、2級を「日常生活の著しい制限状態」であるとして、上記の具体的記載がなされる。すなわち、この記載は、包括条項2級15号の説明にとどまらず、2級の1号~17号に共通する障害イメージであり、すべての傷病による2級の障害の状態のレベルということになる。しかし、肝臓2級、腎臓2級、人工透析2級、心臓2級、両眼視力の和0.08以下、両聴力90db、一上肢のすべての指を欠く、言語機能の著しい障害、両下肢の各関節の筋力著減2級等がどうして同一の日常生活能力の著しい制限状態(2級レベル)といえるのか、ということを国は説明できているとはいえない。これらすべての障害について「家庭内の極めて温和な活動以上不能」=「活動の範囲がおおむね家屋内」とはいえないことは明白である。両聴力90dbであっても、常時車椅子であっても、両眼視力の和0.08以下であっても、活動範囲が家庭内にとどまることはない。つまり、法令(1の(1)②)のみならず、この記載を含めた認定基準全体によっても、傷病の症状の相違、機能障害の表出部位やその客観的な示し方(客観的に示せるのか否か、示せる場合にその指標は何か)が異なるなかで、傷病にかかわらず、どういう状態が2級(=日常生活の著しい制限)なのか、傷病・障害をつらぬく2級のレベルはどう設定されているのかがまったく明確ではないのである。ものさしがないなかで、公正な等級認定はできない。
ほぼすべての内部障害の認定基準で、一般状態区分表のウ「時には少し介助が必要で、軽い家事もできない状態」以上が2級であるという記載となっている。
一般状態区分は、日本癌治療学会「がん診療ガイドライン」「リハビリテーション診療ガイドライン」[33]によると1982年のEastern Cooperative Oncology Group(ECOG) Performance Status (付記文献17-19, 初発は1960年)である。同学会は、ここで一般状態区分=Performance Statusについて、がん医療において3層障害評価を勧めつつ、「機能障害」評価として世界的に使用されている、とある。家事、労働の強度、自力での外出の程度についても記載がある一般状態区分が「機能障害」といわれることは、評価主体が医師である場合に、日常生活能力を中心とした全般的能力障害が機能障害とかなり重なり、相互関係にあることを示しているといえよう。
知的障害と発達障害は2011年から、統合失調症・気分感情障害と器質性精神障害は2013年から、精神障害の各個別基準には、「現に仕事に従事している者については、労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況等を十分確認したうえで日常生活能力を判断する。」[34]との記載がある。知的障害・発達障害で就労との関係により2級非該当決定の取消請求について、認容判決[35]は知的障害・発達障害の個別基準とこの記載に当てはめ、棄却判決[36]では「障害の状態の基本」(労働により収入がえられない、活動範囲は家屋内)に当てはめている。
【事例20】2016年6月28日東京地裁判決(判例集未搭載LEX/DB 25536623)
「原告の障害の程度は,…ヘルパーの支援を受けることなく毎日の入浴,洗髪,歯磨き…等を一人で行い,指示があれば部屋の片付けも行うなどして生活し,…障害者枠で就職してメール便の集配,清掃,トナーの交換,封入等の事務補助の業務に週5日従事し、…一人で通勤…するなどしており,…日常的な会話のやり取りに応じられていること等に照らすと…『日常生活が著しい制限を受ける…程度のもの』(障害認定基準においても,上記の程度とは,…『日常生活は極めて困難で,労働により収入を得ることができない程度のもの』である…)に該当するとは認め難い」
「障害認定基準は,障害等級2級…の例示として,『家庭内の極めて温和な活動(軽食作り,下着程度の洗濯等)はできるが,それ以上の活動はできないもの…活動の範囲がおおむね家屋内に限られるもの』を挙げるが,前示の諸事実に照らすと,原告の障害の状態は,上記の例示に該当するとは認められない…。…障害認定基準は,障害等級2級に相当する知的障害及び発達障害の状態の例示として,〔1〕『知的障害があり,食事や身のまわりのことなどの基本的な行為を行うのに援助が必要であって,…日常生活にあたって援助が必要なもの』及び〔2〕『発達障害があり,社会性やコミュニケーション能力が乏しく…日常生活への適応にあたって援助が必要なもの』を挙げるが,これらの例示にいう日常生活における『援助が必要』とは,令別表の定義…に係る『日常生活の著しい制限』に相当し対応する程度の広範な介護や介助の必要性を指す趣旨と解されるところ(このことは,障害認定基準における障害全般の状態に係る上記の例示の内容からもうかがわれる…),…原告の障害の状態は,上記〔1〕又は〔2〕の例示に該当するとまでは認め難い」
【事例21】2018年3月14日東京地裁判決 判例タイムズ1461号170頁,裁判所ウェブサイトほか
〔障害等級の認定について〕 「知的障害があり、食事や身のまわりのことなどの基本的な行為を行うのに援助が必要であって…日常生活にあたって援助が必要なもの」…と認められるか否かで判断するのが相当である。そして、その際には、障害認定基準が定めるとおり、知能指数のみに着眼することなく、日常生活…における援助の必要度を勘案して総合的に判断すべきであり、また、…労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず、…仕事場で受けている援助の内容等を十分確認した上で日常生活能力を判断すべきである。また、…診断書においては、日常生活能力の判定…の判断に当たっては、単身で生活するとしたら可能かどうかで判断すべきこととされ…これは…上記した援助が必要な程度を適正に判断するための方法と解され、合理性が認められるから、日常生活能力の判定に当たっては、対象者が単身で生活することを仮定して判断することが相当である。」
〔2級該当性〕 診断書の「日常生活能力の判定」の各評価項目について、「適切な食事」については「食事は…栄養バランスという概念がなく、…食事の用意がないときは、原告自らカップ麺にお湯を入れて食べることはするが、お湯がぬるくなっていても入れてしまい…などとされている。…以上からすれば、原告は、空腹を感じた上で、助言や指導の下、…用意できた食事を摂ること自体はできるものの…本件診断書において、適切な食事、すなわち、配膳などの準備も含めて適当量をバランスよく摂ることがほぼできるなどの能力について、自発的かつ適正に行うことはできないが助言や指導があればできるとされているのは相当というべきである。」、「身辺の清潔保持」については、「毎日、家族に何度も指示されて入浴し、洗髪がうまくできないため、妹に手伝ってもらっている、用便のあとの始末がきちんとできていないため、下着が汚れている…などとされている。…以上からすれば、…身辺の清潔保持、すなわち、洗面、洗髪、入浴等の身体の衛生保持…ができるなどの能力について、自発的かつ適正に行うことはできないが助言や指導があればできるとされているのは相当というべきである。」と判断する。「金銭管理と買物」、「通院と服薬」、「他人との意思疎通及び対人関係」、「身辺の安全保持及び危機対応」および「社会性」についても、同様にそれぞれ具体的に検討し、「助言や指導があればできる」等という診断書の評価をおおむね相当であるとする。
就労状況について「…仕事場で受けている援助の内容…等を十分確認した上で日常生活能力を判断すべきであるところ、…原告は、あくまで本件特例子会社に、障害者雇用枠にて、1年単位の有期雇用の契約社員として採用されたものであり、その作業は、障害者職業生活相談員である管理職員の指導や監督を受けて、おおむね反復継続して行われる、類型的な単純作業である。」とする。
「以上からすると、…障害の状態は、障害認定基準にいう『知的障害があり、食事や身のまわりのことなどの基本的な行為を行うのに援助が必要であって、…日常生活にあたって援助が必要なもの』に該当する…ものであり、障害等級2級に該当する」
「なお、被告は、障害認定基準が、障害等級2級の障害の程度につき、『…活動の範囲がおおむね家屋内に限られるものである。』とするところ、原告の活動範囲は、家庭内にとどまるものではないことは明らかで…2級に該当しない旨を主張するが、そもそも障害認定基準は、労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず…としており、親族や職場の関係者等の支援を受けた結果、対象者の活動の範囲が家庭内にとどまらない場合に直ちに2級に該当しないとするものではない」
【事例22】2018年4月24日東京地裁判決 判例タイムズ1465号119頁, 裁判所ウェブサイト
「本件認定基準においては,アスペルガー症候群(本件傷病)を含む発達障害の場合について,社会行動やコミュニケーション能力の障害により対人関係や意思疎通を円滑に行うことができないことに特に着目すべきものとされ,『社会性やコミュニケーション能力が乏しく…日常生活への適応にあたって援助が必要なもの』と認められる場合には障害等級2級に相当するものと例示されている…原告は,本件傷病のため社会性やコミュニケーション能力が乏しいことにより,通勤以外の外出,社会生活に必要な諸手続,職場での意思疎通など,日常生活において対人関係が必要となる様々な面での制約が生じている。また,強迫観念に基づく確認行為や,衝動を抑制することができず興奮状態となるなどの不適応な行動がみられることから,他人とのトラブルが生じやすく,そのため,日常生活に生じる上記の制約は一層困難なものとなっている。さらに,給与の管理や,掃除,洗濯,入浴等の身の回りのことであっても,自発的かつ適正に行うことができないものが少なからずあり,両親の援助や指導が必要とされている。これらに照らせば,原告は…上記の例示に該当し,国年令別表15号,16号及び本件認定基準にいう『日常生活が著しい制限を受ける…程度のもの』に当たる」
「被告は,障害等級の認定にあたって想定される『日常生活』とは,労働に従事すること等の社会内における様々な他人との複雑な人間関係の中での社会的な活動よりも狭い範囲の活動であり,具体的には,食事や入浴,家事等,他人関係を伴わず,主に家庭内で行う活動や,買物や通院等,比較的単純な対人関係を伴う活動を指すものとし,原告の本件処分当時の生活は,『…活動の範囲がおおむね家屋内に限られるもの』との例示にみられる活動範囲を大幅に超える広い活動範囲の中で営まれていたものである旨主張する。…本件認定基準の例示の記載は,…『…日常生活は極めて困難で,労働により収入を得ることが出来ない程度のもの』の例示として記述されたものであるところ,これらは『身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする症状』についての例示であって,必ずしも発達障害を含む精神の障害について想定したものとはいえない…。本件認定基準は,発達障害について個別に基準を設け,日常生活能力等の判定に当たっては,社会的な適応性の程度において判断するものとしているのであり,また,労働に従事したことをもって,直ちに日常生活能力が向上したものと捉えるべきではないとしているのであるから,発達障害について,障害等級2級に相当する場合として活動の範囲がおおむね家屋内に限られるものに限定する趣旨ではないと解すべきである。」
ただし、認容判決事例21と22は、就労状況についての認定基準の記載よりも、主には、それぞれ知的障害と発達障害の個別基準に当てはめて2級を認めたといえる。他の精神障害については日常生活が何を指すのかという記載は個別基準にはないため、認定基準のレベルでは「障害の状態の基本」にある活動範囲が家屋内等に当てはめるほかなくなる。ガイドラインでは、他の精神障害についても、就労と等級との関係を「障害者雇用等で2級以上」等と一定記載しているので、こちらへ当てはめるべきであろう。
特に知的障害・発達障害について減ってきているとはいえ、いまだに1割弱程度の事案で、就労を理由とした2級非該当認定があると思われる。これは認定医の違いによるとしか考えられない。そして、一度、2級非該当とすると、不服申立てでは現状、審査官、審査会ともに2級非該当を維持する傾向が強い。そのため、裁判か、再度の請求(支給停止の場合は支給再開の請求)をするしかないことは多い。
【事例23】:知的障害と発達障害により、「日常生活能力の程度」が4・「日常生活能力の判定」平均は2.9で、の目安では2級とされ、就労できていないのに、審査請求に対する国の意見書によれば、①「明確で具体的な指示を与えられれば簡単な作業は可能かもしれない。」と診断書にあることと②病歴就労状況等申立書で「働きたいが適切な職場がないから」に○が付され請求人は就労意欲を自認していることの2点だけを理由に2級非該当にした。社会保険審査会は同様の理由で2級請求を棄却した。
精神ガイドラインにある「単純な業務」、「常時の管理」とは具体的にはどのようなものかが問題となる。口頭意見陳述で、国は、「単純な業務」とは、たとえば封筒の糊付けを延々と続けるだけの作業である、と述べている。また、ガイドラインでは、障害者雇用以上を2級とするとしているにもかかわらず、事例35の27歳時の支給再開請求に関する審査請求の口頭意見陳述で、国は、自分が仕事をしているとわかっている人は2級にはならない、と述べた。
個別基準の一部例示において、「障害の状態の基本」よりもさらに厳しいといえる一般状態区分のウ(少し介助が必要で、軽い家事もできない)以上が要件のような書き方となっている。
【事例24】 全身性エリテマトーデスで、一般状態区分はウだが、生活のため、1日3時間、週2日働いているだけでも、就労を理由に2級非該当とされ、再審査請求でも棄却された。
たとえば、以下のような点が争点となりうる。
国年令は「体幹の機能に座っていることができない程度又は立ち上がることができない程度の障害を有するもの」を1級8号、「体幹の機能に歩くことができない程度の障害を有するもの」を2級14号としているが、国は認定基準により「高度体幹麻痺」[37]という医学的に定義づけができない状態のみを体幹障害の対象としている。
厚年法第52条第3項には、「障害厚生年金の受給権者の障害の程度が増進したことが明らかである場合として厚生労働省令で定める場合」には保険者の診査を受けた日から起算して1年を経過した日以前であっても、障害厚生年金の額改定請求ができるとされ、厚生年金保険法施行規則(以下「厚年則」)第47条の2の2第2項の3級から2級とする「状態に至った場合」の10号に「心臓再同期医療機器(心不全を治療するための医療機器をいう。以下同じ。)を装着したもの」が掲げられている。CRT-DはCRTとともに心臓再同期医療機器にほかならないから、CRT-D装着は 1年を待たずに2級とする障害の状態とされているのである。3級の受給権者に対して、診査から1年を待たずに2級とすると厚年則で明確に定めているのであるから、新規の裁定請求者に対しても、障害の程度を認定すべき日がCRT-D装着から少なくとも1年未満である場合には、当然に2級とされなければならい。これに対して、国は、新規裁定時、額改定時のいずれも「重症心不全の場合に限って」2級となるとし、その根拠として、認定基準の「心疾患による障害」において、CRT-DやCRT装着を2級とするとの記載が「重症心不全」という表題の下にあることを挙げる。しかし、このような要件は厚年則にはない。省令である厚年則の規定にない、通知にすぎない認定基準を根拠に装着から1年未満であっても、2級としないことがあるというのである。このため、CRT-D装着から1年に満たないにもかかわらず、装着前に重症心不全の状態であるか否かの確認もない(診断書は装着後の現症日の状態で書かれ、診断書様式にCRT またはCRT-Dの装着前の状態が重症心不全かどうかを示す欄はない)ままに3級と認定される(2級に改定されない)ことになる。このようなケースでは、不服申立てによって、装着前に重症心不全であったことを証明しなければならないことになる。
肘の一本の骨に人工骨頭を入れた場合に、3級とは認めない。肘の場合は2本の骨があり、1本だけでは認定基準の「人工骨頭置換」とは認めない。
【事例25】 致死性不整脈[39]についての審査請求の口頭意見陳述で、保険者は「難治性不整脈」認定基準の文言「2級:異常検査所見の『心電図で、重症な頻脈性又は徐脈性不整脈所見のあるもの』で、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの」には該当していることは認めながら、ICDが正常作動していることを根拠に2級非該当としたと述べた。社会保険審査官が決定書で2級容認した。
法令上の根拠はない。1964年8月の国年法改正で、「精神の障害(精神病質、神経症及び精神薄弱によるものを除く)」が支給対象となり、1965年8月に「精神病質、神経症及び精神薄弱によるものを除く」が削除され、精神障害すべてが対象とされた経緯からすれば、法令に反しているといいうる。
神経症と精神病(障害年金ではICD-10[40]のF2「統合失調症、統合失調症型障害および妄想性障害」とF3「気分(感情)障害」)の区分けも明確とはいえない。気分変調症(抑うつ神経症)はF34.1なので、支給対象とされ、混合性抑うつ不安障害はF41.2なので対象外とされる。「精神病の病態を示している」と診断書に記載すれば、対象とされるが、この定義は医師にも不明である。さらに、F2またはF3と神経症が混在している場合には、神経症による日常生活能力低下を差し引いて(現状は2級でも差し引くことで3級等に)認定することがある。
【事例26】 気分変調症・広場恐怖症で、独力での外出はもちろんベッドからも出られないほど重度で、診断書の日常生活能力評価は2級相当であるにもかかわらず、日常生活能力の低下が広場恐怖症によるものであるとして、それによる同能力の低下の程度を差し引いて、3級と認定した。再審査請求でも棄却された[41]。
例外規定もなく、原則として対象外とされている。ただし、精神病の病態を示しているとされた境界性人格障害や統合失調症性人格障害は対象とした裁決などがある。
認定基準の記載により、脊髄性小児麻痺、脳性麻痺だけを対象としている可能性がある(前述(4)①)。ただし、国は、2019年1月の意見陳述で、傷病による限定はしていないと述べた。
8年くらい前までは、医学的に説明が可能な疼痛については3級と認定することがあった。しかし、その後、認定基準に挙げられている「㋐四肢その他の神経の損傷によって生じる灼熱痛、㋑脳神経及び脊髄神経の外傷その他の原因による神経痛、㋒根性疼痛、㋓悪性新生物に随伴する疼痛、㋔糖尿病性神経障害による激痛」のみを支給対象として扱っている。ただし、神経障害性疼痛については、3級を認容している判決がある[42]。
認定基準では障害手当金の程度という記載しかない。治療効果を認めて「治っていない」として3級とする裁決は少なくとも6件ある。不服申立てに対する処分変更も2019年以降、6件ある。また同年4月以降の裁定請求に対しては3級を認めている。しかし、一旦3級と認定した後の症状固定を理由とした支給停止については処分を維持している。つまり、3級認定後、治療していても、その内容や症状に変化がないことを理由に、短期間で、症状が固定したとして支給停止とされる可能性が高い。また、就労不能であったり、外出に付き添いが必要な場合でも2級以上はもちろん3級12号(労働に著しい制限)すら認めない。裁判でも障害基礎年金請求が棄却されている[43]。
アルコール依存症は対象外と判断される傾向が強い。2014年の肝疾患の認定基準改正で、最低6か月の禁酒後でないと認定から除外するとしたことの基礎にも、国のアルコール依存症に対する拒否感があると思われる。しかし、精神障害を国民年金の対象としたときの国会審議で、国はアルコール依存症も対象にすると明言している[44]し、抗酒剤を服用し、アルコールを口にすると命の危険すらあるということを承知のうえでも飲酒してしまうという場合に精神障害ではないとする理由はないと考えられる。
【事例27】統合失調症という病名での診断書のなかに症状としてアルコール依存と書かれているだけで、国は診断書の生活能力低下には酩酊状態によるものが含まれている(いつも酩酊状態にあるという記載はない)という理由で、認定不能の却下とした。審査請求中に、処分変更にて、今度は2級非該当(障害基礎年金不支給)としてきた。社会保険審査官は決定で2級を容認した。
顔面の一定部分が失われたり、ケロイド状となったり等により、隠すほかなく、就労不能である場合も障害年金は、原則対象とされない。労災では対象となっている。また、臭覚の喪失でこれまでの仕事ができない場合も障害手当金すら支給がない。
【事例28】 顕微鏡的多発血管炎[46]のため、室内空気下の動脈血酸素分圧(PaO2)では1級に該当し、ベッドの隣に置いたポータブルトイレに移動するだけでも、呼吸不全状態となる重度の間質性肺炎であるケースで、社会保険審査会は酸素吸入時のPaO2値により、2級非該当とした。裁判しようと弁護士を探している最中に本人が死亡した。
認定基準には、動脈血酸素分圧は、室内空気下か酸素吸入時のどちらの検査数値で認定するのかという記載はない。年金は実務的には酸素分圧時で認定しているという(2019年1月の再審査請求公開審理での国の発言)。酸素を吸入していれば、PaO2が改善されるのは当然である。手帳、労災、難病等すべてが室内空気下での数値で認定している。しかも、PaO2は安静状態で測定される。少なくとも動作時のSpO2等を参考とすべきである。
【事例29】 常時酸素療法施行中で、室内空気下では高度異常であるものの、酸素吸入時の動脈血酸素分圧は軽度異常にも該当しないケースについて1級を求めた審査請求に対して、社会保険審査官は車いすを使用し、ほぼ自力で屋外歩行はできない状態であることにより容認決定をした。
保険者は特に指示はしていない。旧来は、Baldwin式が使用されていたのに対して、日本人に適した計算方法として、2001年に日本呼吸器学会から「日本のスパイログラムと動脈血ガス分圧基準値」がとして発表された。身体障害者福祉法における身体障害認定基準においては、2016年2月4日厚労省通知「障企発0204第2号」により、日本呼吸器学会の式を採用することを明確にした。それにより、たとえば旧来の式では3級に該当しなくとも、3級となることがある。しかし、国は再審査請求の公開審理(2019年1月)において、根拠もなく、旧来式のままにすると表明している。
これらが、ある状態で認定するのか、ない状態で認定かるのかについても、統一性はない。
眼鏡を除いて、取り外しが可能なものやスイッチにより作動停止可能なものは外した状態で認定している。補聴器、人工内耳、義足、車いす、杖などを使用しない状態で認定している。一方、外せない、ペースメーカー、ICD、人工関節、人工骨頭、人工血管等は3級等と等級を明示している。言語障害関連では、「歯のみの障害による場合は、補綴等の治療を行った結果により認定を行う」とされ、気管切開し挿入しているカニューレにより発声している場合は、取り外した状態で認定している。
精神、てんかんについては、薬物治療をしていることが前提となり、他の内部障害についても同様である。パーキンソンなど薬効に日内変動がある場合は、どの状態で医師が診断書を書くのかは、平均的状態で評価するほかなく、実際は医師に委ねられ、明確な基準はない。
人工透析では2級だが、1級かどうかについては、毎回の透析直前の検査数値で判断する。血友病の凝固因子補充については最も適切に病態を示している時期の検査数値とされているので、補充因子効果が最も少ない時期または効果がない状態での最低の凝固因子活性の数値が認定の対象となる。一方、糖尿病はインスリン治療をしたうえでの検査数値である。
外部障害の場合は生活介護や外出付添のない状態で判断される。精神の場合には、助言、指導の必要性や就労支援の内容により等級が判定される[47]。内部障害の場合は、支援や配慮があったうえで就労できるかどうかにより判定される。
2018年7月に身体障害者福祉法施行規則や認定基準等が大幅に改正施行された。主な改正点は、視力障害は原則として、左右どちらかよい方の視力で認定することと、視野障害は①求心性視野狭窄や輪状暗転など医学的に定義が統一されていない用語が削除され、原則、中心視野の障害の程度だけで認定されること、②自動視野計による認定も採用されたことの3点である。年金の等級認定は手帳の等級認定の後を追って改正されてきた(前回は手帳改正2003年で年金改正は2013年)が、現在のところ、国年令(視力障害は国年令別表に規定)、認定基準改正の予定はない。
医学的に基準が明確となった手帳認定に対して、障害年金が旧来の認定を続けることが妥当といえるのか、手帳に沿った形での改正まで権利保障はされないのかが問題となる。たとえば、年金は求心性視野狭窄(中心だけみえて中心以外は見えない)に該当することを前提としているため、中心視野(Ⅰ/2の視標)だけみると2級に該当していても、広ろめの視野(Ⅰ/4の視標)では、島状や一方向の視野は残っている場合に2級に認定するのかは、求心性視野狭窄をどこまで厳密に解釈するのかにかかっていて、認定医によって判断が分かれる可能性がある。
「第1 上肢の障害」には「両上肢の機能に相当程度の障害を残すもの」を2級とするとしつつ、「一上肢のみに障害がある場合に比して日常生活における動作に制約が加わることから、その動作を考慮して総合的に認定する。」とあるだけで、どういう動作制限で2級とするのかという記載はない。これは下肢についても同様である。一方、「第4 肢体の機能の障害」では「一上肢及び一下肢の機能に相当程度の障害を残すもの」を2級とし、「『機能に相当程度の障害を残すもの』とは、日常生活における動作の多くが『一人で全くできない場合』又は日常生活における動作のほとんどが『一人でできるが非常に不自由な場合』をいう。」との記載がある。同一の「機能に相当程度の障害を残すもの」なのだから、両上肢や両下肢の場合にも、「第4 肢体の機能の障害」の動作制限についての具体的記載を援用し、両上肢や両下肢に係る動作のほとんどが非常に不自由な場合は「機能に相当程度の障害を残すもの」として2級とすべきである。同様に、3級「両上肢(または両下肢)に機能障害を残すもの」も、「第4 肢体の機能の障害」の「機能障害を残すもの」を援用し、両上肢(または両下肢)に係る動作のほとんどが「一人でできてもやや不自由な場合」とすべきである。
この点について、口頭意見陳述で問うと、厚労省の担当官によって、同意する者と拒否する者がいるなかで、線維筋痛症に関する障害の程度を判断した2020年6月5日東京地裁判決(Ⅰ2(3)②)は、両下肢について、「第4 肢体の機能の障害」の記載を援用し、両下肢に係る動作のほとんどが「一人でできてもやや不自由」であることを根拠の一つとして、3級を認容している。
併合認定では大きく結果に影響する。3級12号「労働に著しい制限」は併合判定参考表7号であるから、他に1つの6号または2つの7号があれば2級に該当する。しかし、3級14号「労働に制限」は、併合10号のため、2級となることはほぼなくなる。
認定基準上は内部障害のすべてで3級14号の記載しかない(これに対して精神障害は、器質性精神障害、知的障害および発達障害は3級12号の記載があり、他の精神障害は3級14号の記載となっている)。にもかかわらず、確かに内部障害の年金証書をみると3級12号と3級14号がある(これに対してなぜか精神障害はほぼ全部が3級13号「労働に著しい制限」となっている)。その切り分けの基準の有無を口頭意見陳述で確認すると、保険者はない、と断言する。
内部障害、精神障害で、傷病が治っているか、治っていないかの判断はできない。というよりも、障害年金の場合は治らないことを前提に精神や内部障害の認定基準は作られている。
この違いもまったく明確ではない。併合認定基準の活動能力減退率が、著しい労働制限が56%、単に労働制限が27%となってはいる。しかし、口頭意見陳述で厚労省は、同減退率は差引認定で使うためのもので、等級認定とは無関係としている。
同一部位でも後発障害が単独で等級認定が可能である場合に差引認定はなされるのか否か。保険者は具体的事案で、その場合には差引認定をしないという。しかし、以下の理由で、差引認定は行われなければならないと考える。併合認定基準の第4節「差引認定」の2には「後発障害の障害の状態が、併合判定参考表に明示されている場合、その活動能力減退率が差引残存率より大であるときは、その明示されている後発障害の障害の状態の活動能力減退率により認定する。」とあり、認定例1と2が挙げられている。この記載は「後発障害の障害の状態が、併合判定参考表に明示されている場合」で、かつ、「後発障害の活動能力減退率が差引残存率より大であるとき」に限って、後発障害の活動能力減退率により認定する、といっていて、逆に、後発障害の活動能力減退率が差引残存率より小であるときは、原則どおり、差引認定を行うということにほかならない。このことは、「差引認定基準の見直しに関する専門家ヒアリング」において、差引認定事例として提示された事例1および2が、眼の障害と聴力の障害に関するもので、ともに両側を同一部位として、後発障害は前発障害とは別の側の障害で、いずれも後発障害だけで等級認定が可能であるものの、差引認定がなされている[48]ことで確認できる。
また、差引認定基準の改正後も、現状1級であっても、後発が2級とならない場合等、差引認定による後発障害の等級認定に基づき、前発障害の年金と選択または併合した支給等級と、現状の等級とが一致しないケースがある。差引認定の改正では実際に例がなかった場合には、併合または選択の結果が現状等級にあう形とはされなかったためである。この場合にも現状の等級と支給等級が同一となるよう認めさせる必要がある。
認定基準によれば、総合認定は同節に記載されている内科的疾患による障害(内部障害)同士、精神の障害の認定要領に記載がある精神障害同士に限られる。そのため、㋐外部障害2級と外部障害2級、㋑外部障害2級と内部障害2級、㋒外部障害2級と精神障害2級、㋓内部障害2級と精神障害2級の場合は、併合(加重)認定により、必ず併合1級となり、㋔内部障害2級と内部障害2級、㋕精神障害2級と精神障害2級の場合にだけ、総合認定で1級11号の状態でないと1級としないということになる。これは、著しく公平性を欠く扱いであり、法令根拠もない。
また、総合認定でない場合に適用される併合(加重)認定にはさらに大きな問題があり、障害手当金の程度の外部障害がいくつあっても(たとえ100個あっても)、絶対に2級とはならない(Ⅱ1(3)②)。
そもそも内部障害か外部障害かという切り分け自体に合理性がない。たとえば、線維筋痛症は、原則として、肢体の診断書により請求することとされ、WHOの国際疾病分類において「筋骨格系及び結合組織の疾患」に分類されコードはM79.7とされている。にもかかわらず、口頭意見陳述で保険者は、線維筋痛症は全身に症状が出現する病気だから総合認定にするという。一方、同じ全身症状のある関節リウマチや筋ジストロフィーなどは外部障害としている。
国年法36条2項但書により、2級の受給権はあるものの支給停止となっていて、後発の2つの病気で2級である場合は、併合はなされるはずである。また、後発障害で納付要件・加入要件を満たすのであれば、少なくとも現状の障害の程度から差引認定がなされなければならないともいえるのではないか、と考える。
条文上は「治った日(その①症状が固定し②治療の効果が期待できない状態に至った日を含む。)」となっていて、この日が初診日から1年6月前であれば、その日が障害認定日となる。認定基準では「器質的欠損若しくは変形又は機能障害を残している場合は、医学的に傷病が治ったとき、又は、その症状が安定し、長期にわたってその疾病の固定性が認められ、医療効果が期待し得ない状態に至った場合をいう。」とされている。「傷病が治った」とは上記①と②の要件を両方満たした状態といえる。行政解釈も同じである。
人工関節、ペースメーカー・人工弁装着、在宅酸素、人工肛門から6か月、人工透析から3か月等の人工物の置換や特別の治療開始(または、開始から一定期間経過した時点)は、その時点で「傷病が治った」(基本的にそれ以上は改善しない)とみなして、初診日1年半前でも、受給権を発生させる(だからといって、永久認定ということではない。永久認定とされることもあるが額改定請求は可能)。それ以外の場合は初診日から1年半前の受給権発生はなかなか認めない。
麻痺や痛みにより「使わないことで使えなくなる」廃用症候群や加齢による悪化を、再審査請求でも、障害年金の対象となかなか認めない。特に年齢が60歳近い場合は神経学的悪化(再発)がなければ、症状固定とする傾向がある。
障害手当金の程度で傷病が治っていなければ、3級が支給される。この場合には、3級認定後、「傷病が治った」と判断されれば、3級は支給停止となり、障害手当金も支給されない。
初診日から1年半前はなかなか「傷病が治った」とは認めず、1年半を過ぎたら、「治った」と判断して、増額改定や3級支給を認めない。初診日から1年半前は非常に厳格で、労災や自賠責とは違う扱いをしている。一方、初診日から1年半を過ぎたら、いきなりハードルを下げ、「傷病が治った」と判断する。どちらにしても請求者側にとって不利な結果(国の給付抑制)をもたらす。
【事例30】外傷性左眼球破裂に起因する左増殖性網膜症により、左眼の矯正視力が0.05まで低下したケースで、初診日から1年で障害年金の請求をしたところ、傷病が治っていないため、障害認定日が到来していないとして、障害給付を支給しない処分がなされ、それに対して審査請求をしたところ、医師照会への「増殖性網膜症は今後進行する可能性はあります。進行して失明まで至ればその時点が症状固定と考えます」との回答を根拠に、審査請求は棄却された。初診日から1年6か月経過後に同じ診断書で再度、請求したところ、今度は「傷病は治った」として、障害手当金が決定された。それに対して、前回請求時の医師回答を根拠に審査請求をしたところ、審査官決定で、傷病は治っていないとして3級14号が容認された。
切断では明確であるものの、特に脳血管障害で問題となる。障害者手帳の申請が、通常、初診からおおむね6か月経過して、医師等から勧められて申請するのに対して、障害年金は制度を知らずに何年もあとに請求することが多い。そのため、初診日から1年半のデータがなく、手帳申請診断書を基に、症状固定を主張して遡及請求することになることが多い。
どういう状態で症状固定と判断するのか。主には、リハビリの状況が問題となる。機能回復リハビリが終了し、維持期リハビリであれば症状固定と認定すべきであろう。認定基準では、「脳血管障害の場合に初診日から6か月が過ぎ、医学的に機能回復がほとんど望めない場合は障害認定日とする」としているが、初診日から1年程度で症状固定を認めることもあるが、6か月程度ではなかなか認めないという傾向があると思われる。
認定基準がその程度を障害手当金としているため、ボトックス治療を継続していても、裁定段階ではほぼ一律手当金と決定していたものの、2019年春頃の請求分から、裁定段階で3級14号を認める傾向にある(Ⅱ2(5)③)。
症状固定はない、とされている(Ⅱ2(10)①)。しかし、精神障害では3級13号と認定され、内部障害でも3級12号との決定もある。
年金機構窓口等では、診断書の提出をしないと障害認定日請求はできない、という説明が通常なされる。しかし、以下のいずれかまたは複数に該当する場合は、障害認定日頃の年金診断書がなくても、障害の程度が認定されることがある[49]。
障害特性からして、障害認定日の前の診断書の状態と比して、障害の状態が固定しているか、改善することがない(不可逆である)場合、良くなるという傷病の特性から、障害認定日の後の診断書と比して、同じか、悪かったといえる場合および他の制度(障害者手帳、労災、総合支援法の支援区分、介護保険、傷病手当金等)の認定、日記、ブログ、第三者証明および写真等の診断書以外の資料により、障害認定日の状態が証明できる場合には、障害認定日で受給権が認められることがある。
「先天的に膝から下が欠損しているケースでも20歳時の診断書がないと請求できない。」、「自殺未遂による失明は障害年金の対象ではない。」などと、明らかに誤った説明がいまだに行われることがある。
同様の診断書に対して、相違した認定となることは多々ある。
【事例31】 多発性硬化症で松葉づえを使用しても歩行がやっというケースで、20年間2級を受給していたのと同じ診断書を提出した結果、3度連続で3級に落とされた。順に審査会、審査官、審査官といずれも級落ちは取り消されたものの、3度目の審査請求の口頭意見陳述(2017年9月)で、同じ診断書で不服申立ての審査機関が2度も2級と判断したことは尊重すべきではないかというと、年金局の事務官は不服申立てでの判断と保険者判断は無関係であり、保険者としては3度とも3級と判断している、それがどうして問題なのか、判決が出ても同じだと言い放った。
認定基準、認定の実務、取扱いの実際を、年金局、年金機構が十分に理解していないことすらある。
【事例32】 脳性まひで、両下肢の足関節の筋力が著減、膝、股関節が両下肢ともに筋力半減のケースで2級非該当との認定だった。これについての口頭意見陳述で、「一下肢2級は2関節が強直、『筋力半減+可動域半減』、筋力著減のいずれかとされ、両下肢2級は、各1関節が例示として『筋力半減+可動域半減』とされている。ということは、『筋力半減+可動域半減』とは同程度であるのだから、両下肢各1関節が筋力著減の場合も当然2級である。」と主張した。保険者は「『筋力半減+可動域半減』と筋力著減は障害の状態が違う。筋力だけでは判断しない。」と繰り返す。障害の状態が違うのはわかっているが、等級を判断する障害の程度としては同じではないか、と言っても繰り返しの回答のみ。では、一下肢2関節では筋力だけでも判断できるのに、両下肢各1関節では筋力だけでどうして認定できないのか、と聞くと、「質問の意味をはき違えていた。これについては即答できないので、文書で後日回答する」という。どうはき違えていたのかを聞いても混乱するので聞いていない。
また、両下肢各1関節の筋力が半減していれば3級なので、3級が3つあることになり、併合認定でも2級だという主張に対しては、「単一傷病では併合加重認定は行わない。」と回答してきた。認定基準にはそんなことはどこにも書かれていないし、逆に、同一傷病でも併合認定することは、マニュアルや裁決や実際の事例でも多々ある。「回答の根拠を、法令、認定基準、裁決例で示してほしい。」と言ったら、これも後日文書回答するとなった。こんなレベルでは、口頭意見陳述において、実質的なやり取りができず、質問権が担保されない。
以下のとおり、認定医の専門性が疑われる事例がしばしばみられる。
【事例33】 初診日が同じQT延長症候群と冠攣縮性狭心症[50]での障害厚生年金請求に対して、QT延長症候群のみ認定日3級とされ、重度で難治性の冠攣縮性狭心症について、3級非該当された。①障害状態認定表で「冠攣縮性狭心症でこのように重症となるケースはあるのでしょうか」と質問がなされている。保険者は、「虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)」の認定基準で冠攣縮について説明がなされていることをも知らずに認定したものと考えられる。②「認定内容で疑義が生じたため循環器担当認定医に相談して下さい」とあることから、少なくとも最初の審査は循環器専門医でない認定医が審査していたことになる。③循環器診断書には「心電図所見のあるものは心電図を必ず添付してください」と赤字で書かれているにもかかわらず、心電図を見ないで審査した。請求者は心電図を提出したものの、年金機構職員は審査部署に心電図の保管がなく、審査に際しても心電図は見ていないと言う。仮にどこかに紛失したとしても、心電図がなければ再度提出を求めればいい。些末なことで返戻を繰り返す一方で、機構は「今回については心電図所見の記載があるから心電図は見る必要がないと判断した」という。心電図所見の記載で済むならすべてのケースで心電図は不要になり、診断書の注意書きに反している。審査請求に対して、3年前の認定日で(初めて2級では遡及支給が取り消されるので認定日2級は求めなかったが職権で)冠攣縮性狭心症単独で2級、請求日同1級に処分変更となった。
【事例34】 劇症1型糖尿病の障害認定日において受給権を求めた障害厚生年金請求に対して、認定日前の尿中Cペプチド[51]検査値に関して、尿中Cペプチドでは認定できないと却下した。認定基準にある血清Cぺプチド0.3ng/mLは尿中Cペプチド10 μg/日に相応[52]し、本件では3.2μg/day と2.9μg/dayという2回の検査データがある。また、他の事案では尿中Cペプチド検査値だけでも3級と認定されている。審査請求の口頭意見陳述で「糖尿病専門医が認定したのか」と質問をしたが、口頭意見陳述後、文書で、「年金機構において、認定医の情報として内部疾患、外部疾患、精神疾患等の範囲で把握している。本件においては内部疾患の担当医が認定している」と回答するだけであった。再審査請求の公開審理直前に処分変更で、遡及3級となった。
【事例35】 20歳(2009年)時に発達障害と知的障害で2級と認定され障害基礎年金を受給していたところ、25歳の再認定では2級とされたものの、26歳に支給を停止された。審査請求、再審査請求を行ったが、認められなかった。ガイドライン施行後の27歳時に支給再開を求めたが認められず、審査請求も棄却された。支給停止処分の取消しを求めて提訴するとともに、再度、28歳時に支給再開を求めたところ、2級が認められ、26歳時の支給停止時に遡って2級と処分が変更され、支給停止期間の全額の障害基礎年金が支給され、かつ、永久認定となった。20歳時の診断書から28歳時の診断書までの5通の診断書の内容はほとんど変化なく、障害者雇用で単純作業を常時の指示のもとで行っていることにも違いはなかった。裁判上の和解が成立し、その席で、厚労省年金局の事務官は、等級認定が相違した原因として、認定医の発達障害の理解度にバラツキがあり、統一的な認定がなされていない現状がある可能性があると述べ、統一的な認定がなされていない状況のなかで、今後の再認定でも不利益な認定がなされないことを考えて、再認定不要の永久認定にしたと述べた。
たとえば、事例35で厚労省自身が認めているように、発達障害の理解に認定医間の差が大きい。知的障害または発達障害で就労により、1割弱が2級非該当となっているのは認定医による違いであると考えられる。
認定医による認定のバラツキが、精神ガイドライン策定に至った精神・知的障害に関する認定地域差および2018年に発覚した大量支給停止問題をもたらした。
2014年頃から認定医に番号が振られているため、障害状態認定表等を開示請求すれば、番号(常勤の医療専門役2名は姓)が確認でき、認定医の特定ができる。認定医番号ごとに事例を集積すれば、各認定医の認定傾向を把握しうる。
2018年の大量支給停止問題を受けての厚労省通知[53]には、「認定基準のうち客観的な基準のみでは必ずしも判断が容易ではなく、認定医の医学的な総合判断を特に要する事例(上位等級に認定する事例、症例数の少ない疾患による障害の事例など)は、担当の認定医のみならず、他の認定医の意見も聴いて判断すること」および「医学的な総合判断を特に要する事例については、障害の分野別に認定医による会議を開催し、当該事例について検討し、認定事例の共有を図るとともに、認定医間の審査基準に対する認識の統一を図ること」とある。年金機構文書2019年7月3 1日給付指2019-94「複数の障害認定医が認定に関与する仕組みの導入」は、公正性の一層確保のため、複数の障害認定医が認定に関与する仕組み(以下「セカンドオピニオン」)を導入するとし、①支給停止事例、上位等級認定事例、症例数の少ない疾患事例などで、障害認定医の医学的な総合判断を特に要する場合、②障害認定医から、より専門性を持つ障害認定医の医学的判断が必要との指摘等があった場合の2つを対象とし、㋐セカンドオピニオンを行う障害認定医は、認定医経験が原則2年以上の認定医から選定し、㋑2人の認定医の認定結果が一致しない場合は、障害認定審査委員会を開催し、合議で判断する、とある。複数の医師の認定、事例共有会議が、誰の判断で、どのようなケースで、何件行われているのかについての文書開示を求めるなどして、このセカンドオピニオンと合議が適正に行われていくよう監視する必要があろう。知的障害・発達障害と就労との関連、難病(指定難病だけでなく慢性疲労症候群等も含む)、上記5に挙げた傷病等については、必ず複数の医師の認定を行わせ事例共有会議の開催を求めていきたい。
精神ガイドラインの等級の目安が「2級または3級」になる場合には、ほぼ3級となる。また、慢性疲労症候群や化学物質過敏症などで「その他の障害」診断書の一般状態区分(ウ)(2級または3級)の場合は2級非該当(ほぼ3級)となる。
実地調査を否定(事例36)、動画をみない(事例37)・本人をみない(事例38、39)という認定が行われている。たとえば、運動失調、知的障害、自閉症スペクトラムなどでは診断書よりも、実際に本人に会い、障害の程度を確認したほうが公正な認定により近づく。これは、裁定段階はもちろん行政不服審査でも同様である。
【事例36】中央裁定前の埼玉では、発達障害での障害年金認定そのものを否定するような決定が相次いだ。面談すれば、就労できないほど重度の広汎性発達障害であることがわかるケースで、実地調査をすべきだ、と求めたところ、そのようなことはしていないと、年金機構は即座に拒否した。
【事例37】脳幹障害で重度の運動失調があり、自力では立ち上がることも、歩行も、肘かけがない椅子で座位を保つことも、トイレへの移乗もまったくできないケースについて1級を求めた再審査請求で、診断書の内容はやや軽めの評価であったため、動画を撮影し提出したところ、社会保険審査会審査員はわざわざ公開審理で、動画を重視して審査している、と発言したにもかかわらず、動画の内容はまったく無視して、診断書の内容だけで1級請求を棄却した。
【事例38】 重度の知的障害により、自宅の住所を聞かれても何を聞かれているのかがわからず、会話ができない状態にある事案について、1級を求めた再審査請求で、診断書の評価が軽めであったため、本人に公開審理に出席してもらい、実際に代理人とやり取りをして見せ、診断書の内容ではなく、障害の実体で判断すべきだと主張したが、社会保険審査会は診断書内容だけで1級請求を棄却した。裁定請求段階だけでなく、不服審査段階でも本人をみようとしない。
【事例39】重度知的障害と自閉症スペクトラムで、自傷、他害があり、常時付き添い、見守りが必要で、生活介護事業所に通所している人の20歳時診断書の日常生活能力評価はすべて最重度だったが、診断書に「配慮と理解があればコミュニケーションは可能」等との記載があったことで、2級とされた。1級を求めた再審査請求において、公開審理に本人が出席したところ、審査員(医師)から本人に名前やどうやって来たかなどの質問がされ、本人が答えられず、それを受けて、保険者医師が、「小児科医師なので期待を込めて診断書を書いたのかもしれないと思ってはいたが、まさにそうでした。2級ではないと思います」と話し、その場で処分変更を表明した。実地調査をしさえすれば、このような認定誤りはなくなる。
これまでは、処分通知はどうしてその等級となったのか、なぜ不支給、支給停止、級落ちとなったのか、初診日が認められなかったのかがまったく不明の書き方となっていた。また、行政の内部文書(障害状態認定表または同調書)でも、理由は1語、2語せいぜい1文程度で、理由がまったく書かれていないものもあり、事後に検証可能な形で文章化された処分理由は残されない(労災においては、調査復命書というA4・3~5枚程度の処分理由書が個人情報の開示請求により出てくる)。そのため、請求者側としては、処分理由を予想するほかなく、不服申立てで国の判断にどう反論していくのかという主張の組み立てがしづらい。また、認定の標準化が担保されないとともに、行政としても事後的な検証ができない。このことが認定のずさんさと不公正をもたらし、処分の理由が不服審査の課程で、二転三転することにもつながる。
【事例40】 1型糖尿病支給停止等集団訴訟, 2019年4月11日大阪地裁判決(判例タイムズ1466号114頁, 裁判所ウェブサイト)
行政手続法の理由付記は、「行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解される」としたうえで、「支給停止処分の通知書には…処分の理由として,『…障害等級の3級の状態に該当したため,障害基礎年金の支給を停止しました。』と記載されているのみであって…障害認定基準中の認定要領…において総合評価の対象とされた事情である症状,検査成績及び具体的な日常生活状況等によって2級に該当する程度の障害の状態に該当すると認定しなかった理由は何ら明らかにされておらず,行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するという趣旨を全うしていないといわざるを得ない。」「また,本件各支給停止処分の通知書に記載された理由は…結論のみを示したものと評されてもやむを得ないほど簡素なものであるところ,これでは…診断書(障害状態確認届)に記載された事実関係を前提としてされたものであるか否かすら認識することができないのであって,本件各支給停止処分に対して不服を申し立てた場合,前記診断書に記載された事実関係のうちのどの部分や範囲が争点となるのか,また,当該事実関係は争点とはならずこれを前提とした上で,症状,検査成績及び具体的な日常生活状況等に関する総合評価の手法や判断内容等が争点となるのか等の見通しを立てることは困難であるから,不服申立ての便宜を図るという趣旨に照らしても,不十分な理由の提示というべきである。」
そして、具体的に理由付記の仕方について、「厚生労働大臣が,糖尿病による障害を理由とする障害基礎年金の受給権者につき,例えば,2級の状態とは認められなくなったことを理由として支給停止処分を書面で行う場合には,その理由として,(ⅰ)前記診断書記載の事実関係を前提として当該処分を行ったか否か(当該事実関係を前提としない部分・範囲が存する場合にはその特定を含む。)に関する記載や,(ⅱ)障害認定基準中の認定要領において3級よりも「さらに上位等級に認定する」際の考慮要素とされる症状,検査成績及び具体的な日常生活状況等に関する判断等について,前記診断書の記載の要点部分や前記障害状態認定調書中の認定医の意見等を引用しつつ,一定程度具体的な記載をした書面を当該受給権者に交付することが,行手法14条1項本文の趣旨にかなうものと考えられる」とした。
上記判決を受けて、厚労省通知「障害年金の不利益処分等に係る理由記載の充実について」(年管管発0926, 2019年9月26日)が出され、「障害の程度(障害等級)の認定の考え方を示した上で、対象事案に適用した 障害認定基準や当該基準に該当する事実関係等を示し、 これらを踏まえた判断結果を記載する。」として、申請拒否処分(不支給、額改定不該当、支給停止事由不該当)および不利益処分(支給停止、降級)について、2020年4月以降に認定したものは障害の程度を認定する事案について、判断結果の記載を行うとされた。
これにより、審査請求時に出される保険者意見書に近いものが、障害の程度要件に関する申請拒否処分および不利益処分については出てくる可能性がある。しかし、この理由付記の扱いは以下の点で極めて不十分なものである。
第一に、障害の程度要件に関する理由付記についても、認定基準の該当箇所を示し、診断書にある事実関係を列挙する(本判決の(ⅰ))だけで、それらの事実が法令や認定基準に照らして、どうして障害程度要件を満たさないのかという判断についての具体的記載(本判決の(ⅱ))はまったくなされていない理由付記事例が多々あることである。これでは、本判決がいう「行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える」という理由付記の趣旨にかなうものとはいえない。そして、この点は、より根本的には、審査基準・処分基準としての法令(Ⅱの1(1)②)および認定基準(Ⅱの2(1))の決定的不備によるのである。
第二に、却下処分(初診日特定不能、初診日非被保険者期間中、傷病混在等による認定不能)については、国は今回の理由付記の扱いの対象としないようである[54]。初診日についての却下決定(不支給決定ということもある)は、受給要件のうち納付要件、加入要件に関わるものであり、請求書類の不備などにより申請が不適法である場合の「却下処分」と解して、理由付記の対象外とするのではなく、受給要件を満たさないことによる申請拒否処分と解するべきものである。また、傷病混在による認定不能も、混在しているかどうか、混在していたとしても請求傷病についての障害の程度が認定可能かどうかは、障害程度要件認定の範疇に含まれ、申請拒否処分と解するべきである。これらの処分が行政手続法8条で理由の提示が必要とされる申請拒否処分に含まれないとされれば、その根拠を記録として残すことがこれまで以上にないがしろにされ、審査請求になって初めて後付けで、理由を文書化する可能性が高く、審査請求をするかどうかの判断や審査請求を行う場合の主張を組み立てていくことの困難さはこれまでと何ら変わらないことになる。
さらに、給付処分(2級、3級および障害手当金決定)については、申請拒否処分ではないとして、この理由付記の扱いに含まれないため、上位等級を求める審査請求については審査請求をするかどうかの判断や審査請求を行う場合の主張を組み立てていくことの困難さはこれまでと変わらないことも留意したい。
[1] 国会での政府答弁は繰り返しこのように行われている。たとえば、「障害年金の、御指摘ございましたけれども、公的年金の立て付けと申しますのは、稼得能力が喪失をする場合に所得保障を行う、これが公的年金の大きな目的の一つでございまして、この稼得能力の喪失は、通常は年を取るに従って、すなわち加齢に伴って起こるわけでございますけれども、障害につきましてはこの稼得能力の喪失が加齢ではなくて現役期に障害状態となって早期に到来をしたんだと、こういった考え方で所得保障をする、これが公的年金におきます障害年金の立て付けでございます。」国会会議録2016年4月14日参議院厚生労働委員会。無拠出制の障害福祉年金についても、「障害福祉年金の場合は、本人が障害を持つことによって、本来なが(ママ)ば勤めてあるいは仕事をして得られるであろう所得の稼得能力が喪失いたしますので、それに対する補てんという意味で考えられておるわけでございます。」と説明する。国会会議録1975年3月20日衆議院社会労働委員会。
[2] 障害を社会の側から捉える社会モデルに対して、障害を個人の医学的に身体、精神における各器官の機能障害により捉える思考枠組みである。
[3] 福島豪「障害年金の権利保障と障害認定」『社会保障法』33号(2018年) 121頁。
[4] 総務省「2014年度における行政不服審査法等の施行状況に関する調査結果─国における状況─」(同省ウェブサイト)別表2。
[5] 却下(老齢年金の特例水準是正のための審査請求がほとんど)を除いた処理件数に取下げ件数を加えた11,772件のうち、取下げ件数の9割(同年度の再審査請求取下げのうち処分変更による取下げの割合, 社会保険審査会「年度別(再)審査請求受付・裁決件数等の推移」〔厚労省ウェブサイト〕により算出)が処分変更だとすれば、その割合は25.4%になる。
[6] 社会保険審査会「年度別・制度別(再)審査請求受付状況」(厚労省ウェブサイト)の数字から2016~18年度分を集計。
[7] 総務省・前掲文書(注4)において、同年度の1588件のうち107件で、すべてが処分変更によるものだとしても、6.3%である。
[8] 年金機構「初診日を明らかにすることができる書類を添えることができない場合の取扱い(指示・依頼)」(2015年9月29日給付指2015-120,年相指2015- 76) 別添8「障害年金の初診日の認定に関する事例集」 9頁。
[9] 年金機構「初診日を明らかにすることができる書類を添えることができない場合の取扱い(指示・依頼)」(2015年9月29日給付指2015-120,年相指2015- 76) 別添9「初診日を明らかにすることができる書類を添えることができない場合の取扱Q&A」 6頁。
[10] 年金機構・前掲文書(注9) 5頁。
[11] 年金機構・前掲文書(注9) 10頁。
[12] 指定難病49。「発熱、全身倦怠感などの炎症を思わせる症状と、関節、皮膚、そして腎臓、肺、中枢神経などの内臓のさまざまな症状が一度に、あるいは経過とともに起こってきます。その原因は、今のところわかっていませんが、免疫の異常が病気の成り立ちに重要な役割を果たしています。」神経精神症状が起こることがある。難病情報センターウェブサイト。
[13] 安部敬太・田口英子編『詳解 障害年金相談ハンドブック』(日本法令・2016)77頁。
[14] 年金機構『国民年金・厚生年金保険障害給付(障害厚生)受付・点検事務の手引き』(2016年4月)、同『国民年金障害基礎年金 受付・点検事務の手引き』(2015年9月)。
[15] 日弁連高齢者・障害者権利支援センター編『法律家のための障害年金実務ハンドブック』(民事法研究会・2018)250頁。
[16] 『1995年版社会保険審査会裁決集』221頁。
[17] 事例9のほか『2005年版社会保険審査会裁決集』被用者保険418頁。
[18] 日弁連・前掲書(注15) 226頁。
[19] 2003年10月9日参議院厚生労働委員会。
[20] 日弁連・前掲書(注15) 241頁。
[21] 安部・田口・前掲書(注13)185頁は、網膜色素変性症について裁定段階で、社会的治癒を認定していることが障害状態認定表で確認できる。
[22] 障害は、1980年のWHO「国際障害分類」(ICIDH)により「機能障害」、「能力障害」、「社会的不利」の3層構造と捉えられた。上田敏「国際障害分類初版(ICIDH)から国際生活機能分類(ICF)へ―改定の経過・趣旨・内容・特徴―」『ノーマライゼーション 障害者の福祉』251号(2002年)38-42頁は、この3層を「手足が動かない(機能障害)、歩行その他の日常生活の行為ができない(能力障害)、職を失う(社会的不利)」と説明する。この3層は、2001年のWHO「生活機能・障害・健康の国際分類」(ICF)で、「機能・構造障害」、「活動制限」、「参加制約」とされた。厚生労働省訳『ICF 国際生活機能分類』(中央法規・2008)。
[23] 国年法案は1959年2月国会提出。1958年12月の案は労働能力だった。社会保険庁『国民年金三十年のあゆみ』(ぎょうせい, 1990年) 71頁。詳しくは別稿にゆずる。
[24] 国会会議録2000年2月24日参議院国民福祉委員会。
[25] 身体障害者福祉法では同法施行規則「身体障害者障害程度等級表」別表5の「心臓、じん臓若しくは呼吸器又はぼうこう若しくは直腸、小腸、ヒト免疫不全ウイルスによる免疫若しくは肝臓の機能の障害」が内部障害、それ以外の視覚障害、聴覚又は平衡機能の障害、音声機能、言語機能又はそしやく機能の障害、肢体不自由が外部障害と考えられるが、年金の場合はこれよりも障害対象を広くしていて、原則としてすべての傷病が対象とされ、認定基準の第3第1章の1~7節(眼、聴覚、鼻腔機能、平衡機能、そしゃく・嚥下、言語機能、肢体)が外部障害、同8~18節(精神、神経系統、呼吸器疾患、心疾患、腎疾患、肝疾患、血液・造血器疾患、代謝疾患、悪性新生物、高血圧症、その他の疾患)が内部障害とされる。ただし、後述2の(10)③のとおり、傷病によりその区分は必ずしも明確ではない。
[26] 2016年4月28日東京地裁判決(判例集未搭載LEX/DB 25561138)
[27] 2017年4月12日東京高裁判決(判例集未搭載LEX/DB 25561139)
[28] 平27(国)60号裁決, 安部・田口・前掲書(注13) 427-431頁。
[29] 指定難病51。皮膚や内臓が硬くなる変化(硬化(※)あるいは線維化(※)といいます)が特徴。難病情報センターウェブサイト。
[30] 2017年10月20日東京地裁判決(判例集未搭載, LEX/DB 25539631), 2018年5月21日東京高栽判決(判例集未搭載, LEX/DB 25560921)
[31] 等級表改正に関わった呼吸器科医師の笹本浩の講演録, 社会保険庁『国民年金 障害等級の認定指針』(厚生出版社, 1968年) 253-262頁と砂原茂一の講演録,同書270-273頁。内部障害を国民年金の対象にする改正のための国会会議録 1964 (昭和39)年4月22日衆議院社会労働委員会でも、国により同旨の説明がされている。
[32] ただし、病状判定の場合も、客観的裏付けとして、X線検査による空洞の有無と大きさ、排菌の有無を確認することとしている。このことが、この後、病状判定と機能判定との区別がつかなくなった要因であったと考えられる。
[33] http://jsco-cpg.jp/guideline/34.html, 第1章CQ02
[34] 尺度が(少なくとも2級以上は)日常生活能力であるであるにもかかわらず、労働に関する記載がどうしてあるのか。2011年改正前から、「現に仕事に従事している者については、その療養状況を考慮し、その仕事の種類、内容、従事している期間、就労状況及びそれらによる影響も参考とする。」との記載があった。これは1985年改正前の国年の基準にはなかった記載で、同改正後の認定基準に同改正前厚年基準から採用された。1961年厚年基準では、結核、高血圧にも同様の記載があったが、1977年の基準で、精神障害だけに残された。それが、1985年改正後にも引き継がれた。1977年に精神だけに残された理由は、精神の程度は客観的に示すことが一切できないためではないか、と思われる。
[35] 事例21 と22のほか、2018年12月14日東京地裁判決(裁判所ウェブサイト)。
[36] 事例20のほか、2017年1月17日東京地裁判決(判例集未搭載, LEX/DB 25545668), 2016年9月29日東京地裁判決(判例集未搭載, LEX/DB 25537718)。
[37] 体幹や脊柱に麻痺が生じることは極めてまれであるとして、「他動可動域による認定が適切でない場合には…」という上肢の障害と下肢の障害にはある記載が、事務官は当初の案からわざわざ削除している。2012年2月24日障害年金の認定(関節の機能等)に関する専門家会合(第3回)議事録,厚労省ウェブサイト。「高度体幹麻痺」とは、「高度体幹麻痺」とは、少なくとも「麻痺によって」生じる、座ることができない、立ち上がることができない、歩行することができない等、国年令の体幹に関する各号に規定された内容のことを指しているものと解するほかない。そして、この国年令の体幹に関する各規定は身体障害者福祉法施行規則の等級表を基づくものであり、同法の障害認定要領には「体幹不自由は、高度の体幹麻痺をきたす症状に起因する運動機能障害の区分として設けられているもの」(身体障害認定基準の取扱い(身体障害認定要領)について, 障企発第0110001号2003年1月10日)している。つまり、同法が体幹不自由の障害として対象としている「座っていることができないもの」等の障害の状態を「高度の体幹麻痺」と表現しているに過ぎないと考えられる。
[38] 植込み型除細動器。命に関わる不整脈を治療するための体内植込み型装置で、不整脈が起こらないように治療するものではなく、常に心臓の脈を監視し、命に関わる不整脈の発作が出た場合にすみやかに反応して、電気ショックを発生させてその不整脈を退治し、発作による突然死を防いでくれる。大阪医科大学外科学講座胸部外科学教室ウェブサイト。
[39] 放置したままでいると意識消失から突然死に至る危険性が高く、緊急な治療を必要とする不整脈。拍動が異常に速くなる頻脈性不整脈のうち、心室頻拍や心室細動を致死性不整脈という。コトバンク。
[40] 世界保健機関(WHO)が作成した「疾病及び関連保健問題の国際統計分類ICD-10(2013年版)」。このうち「精神及び行動の障害(F00-F99)」については『臨床記述と診断ガイドライン』が出されていて、障害年金診断書ではこのコード記載が必須とされている。
[41] 安部敬太・吉野千賀・坂田新悟編『障害年金 審査請求・再審査請求事例集』(日本法令・2016)521頁。
[42] 2016年5月27日東京地裁判決(裁判所ウェブサイト)。
[43] 2019年6月21日東京地裁判決(LEX/DB 25580484)。
[44] 国会会議録1964年4月20日衆議院社会労働委員会。「○滝井義高委員:(略)それからもう一つ、内部疾患としてアルコール中毒、麻薬中毒、モルヒネの中毒、こういうものは、もう御存じのとおり重くなるとなかなか手に負えぬですね。こういうものが、やはり生活の安定がないので麻薬を打って、何かふわふわしながら人生を過ごしていくということになるのですが、これは年金を差し上げるとだいぶ状態が違ってくると思うのです。…ここらあたりの討議はどうなっておるのですか。○安福信雄厚生事務官(社会保険庁年金保険部福祉年金課長)説明員:麻薬あるいはアルコール、そういうことに基因する中毒性精神病は対象にいたします。」。
[45] 「動脈血酸素分圧(PaO2)は、肺における血液酸素化能力の指標です。PaO2の低下は呼吸器系の異常すなわち呼吸不全を示します」。岐阜市医師会ウェブサイト。障害年金認定基準において最も重要な指標となっている。
[46] 「腎臓、肺、皮膚、神経などの臓器に分布する小型血管(顕微鏡で観察できる太さの細小動・静脈や毛細血管)の血管壁に炎症をおこし、出血したり血栓を形成したりするために、臓器・組織に血流障害や壊死がおこり臓器機能が損なわれる病気です」。難病情報センター ウェブサイト。
[47] 事例20の2016年6月28日東京地裁判決は、なお書きで、「上記の認定判断は,…原告の家族や職場の指導及び支援を踏まえた本件基準日の時点における原告の日常生活や労働の具体的状況等を前提とするものであるところ,仮に,…将来においてこれらの指導・支援が十分に得られない事情が生じ,そのために原告の障害の状態がより大きな日常生活の制限を生ずる状況に至った場合には,…将来的に法30条の4第2項に基づく障害基礎年金の受給資格を取得するに至る可能性があり得る」とし、援助のある状態で認定したように読める。これも2級非該当判断の要因であったろう。
[48] 2017年6月9日「差引認定基準の見直しに関する専門家ヒアリング」資料4, 同議事録。いずれも厚労省ウェブサイト。
[49] 日弁連・前掲書(注15) 9章判例14~17。
[50] 「一般に狭心症は、運動等で体を動かした時に起きる『労作性狭心症(ろうさせいきょうしんしょう)』と、安静時に起きる『安静時狭心症(あんせいじきょうしんしょう)』とに分類されます。冠動脈(心臓の筋肉を養なっている血管)が動脈硬化により狭くなり、運動をした時などに心臓の筋肉に充分な酸素が供給できず起きるのが『労作性狭心症』です。一方で、夜間、早朝の安静時に冠動脈が痙攣により狭くなり、心臓の筋肉に充分な酸素を供給できずに起きるのが『冠攣縮性狭心症』です。…自覚症状は、狭心痛といわれる胸の痛みもありますが、胸がしめつけられる、胸の中が焼けつくといったような『胸部絞扼感(きょうぶこうやくかん)』や『胸部圧迫感』、『胸部重圧感』等。」奈良県医師会ウェブサイト。
[51]「 Cペプチドは、膵臓からインスリンが分泌されるときにインスリンにくっついて出てくるタンパク質です。その後、インスリンからは切り離されて、血液中を通った後に尿に出されます。実際に血糖値を下げるのはインスリンであり、Cペプチドはそのかけらのようなものです。Cペプチドの量を測ると、自分の膵臓からでたインスリンの量を推測することができます。」国立国際医療研究センターウェブサイト「糖尿病情報センター」。「C-ペプチド検査は、24時間尿をためて、そのなかのC-ペプチド量を測る尿中C-ペプチド検査のほかに空腹時の血中C-ペプチドを測定する検査もあります。」サノフィ㈱ウェブサイト「DM TOWN」。
[52] 日本糖尿病学会『糖尿病治療ガイド2018-2019』18頁。
[53] 2018年7月9日厚労省通知「日本年金機構における障害年金センターへの集約後の障害年金の審査事務の取扱いについて」(年管管発0709第5号)。
[54] 厚労省通知「障害年金の不利益処分等に係る理由記載の充実について」(年管管発0926, 2019年9月26日)別添「障害年金の不利益処分等に係る理由記載の充実について」によると、申請拒否処分のなかに初診日認定や認定不能は含まれていない。