昨今の報道を受けての声明及び記者会見
2025年5月7日、当会は昨今の障害年金をめぐる報道を受けての声明を発表し、併せて、厚労省記者クラブにて記者会見を行いました。
<声明>
昨今の障害年金をめぐる報道を受けての障害年金法研究会の声明
2025年5月7日
障害年金法研究会
一 当会は障害年金の構造的改革を求めて活動を続けています
当会は障害年金の権利が必要な人に行き渡ることを願って2015年に結成された専門職団体です。
近時、次の3つの文書を国に申し入れました。
1 2023年6月2日付「障害年金制度改革専門部会の立ち上げを求める声明(申入書)」
2 2024年3月6日付「障害年金2025年制度改革への障害年金法研究会からの提言書」
3 2025年3月25日付「国の障害年金無改革に対する共同抗議声明」(7団体連名)
いずれも日本の障害年金の制度運営に構造的に大きな問題があるため、早急に改善をはかるべきとの提言・意見です。
特に2の「提言」は、日本の障害年金制度のあるべき方向性を提示するものです。
ところが国はこれらの意見を一顧だにせず、「障害年金の改革は5年先の2030年度まで不要」という立場です。
二 共同通信社による報道について
そのような状況の中、共同通信社が2025年4月29日~30日、障害年金をめぐる報道を配信し、各社で新聞記事化されています。
その骨子は、
① 2023年度(令和5年度)の不支給率と2024年度(令和6年度)の障害年金不支給率が2倍以上になっていること
② その原因に日本年金機構の幹部の変更があると思われること
③ 年金機構が判定医の評価書を内部作成し、職員が判定医に対して認定内容を誘導している実態があること等です。
① の新規裁定請求に対する不支給率の変動を「障害年金業務統計」で確認してみます。
令和5年度 9.2% (非該当と却下)〔注1〕
令和4年度 7.7% (非該当)
令和3年度 7.8% (非該当)
令和2年度 8.0% (非該当)
令和元年度 12.4% (非該当)と発表されています。
記事によると令和6年度では(変動の可能性があると留保つきながら)約17%が不支給とされたとしています。
確かにこの5年の不支給率平均が約9%であることからすれば、報道の数値が事実であるとすれば急に令和6年度に17%となることは、突出し、不可解な印象を否めません。
実際、近時不支給割合が増加していると感じている会員も少なくありません。
一例を挙げれば当会会員の飯塚泰雄社会保険労務士のデータでは 〔注2〕
2023年度(2023年4月~2024年3月) 不支給率4.76% 〔注3〕
2024年度(2024年4月~2024年9月:半期) 不支給率8.90% 〔注4〕
2023年と2024年の比較 1.87倍 という数値です。
当会の複数の会員から、この1~2年、国から的確な論拠が示されないまま不支給あるいは等級が不当に低い事例等が多い旨の報告があり、今回の報道には当会としても見過ごせないものを感じています。
② の不支給率の倍増に機構幹部の意向が反映しているかの事実関係については機構内部のことで当会として責任をもったコメントはできません。
当会が今回の件で重要と考えるのは、「誰か個人の問題」であれば「その人を処分して終わり」になりかねず、問題の本質はそのようなところにないということです。
メディアのみなさまには今回の問題を「一過性の事件、トピック」という表面的な理解をせず、長年にわたって政治、多くのメディアを含め社会から見過ごされ続けてきた、日本の障害年金のあまりにも不合理な仕組み・あり方に関し、目を向けて頂きたいところです。
③ の点も事実関係はわかりませんが、判定医に関して
「方向性や程度、不支給理由に関してもこちらであらかじめ決めておくのが望ましい」などの指示文書が写真入りで報道されていますので、今まで闇に包まれてきた障害年金が決められていく実態が白日に晒されたとの印象があります。
但し、報道に対する一般のコメントなどで、「障害年金の認定は医師の判定に国は委ねるべき」という声もあり、若干の誤解も危惧します。
2016年に「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」が策定されましたが、そのきっかけは、「判定医」個人の考えにより障害年金の結論が決まってしまう不合理の是正でした。そのために各地バラバラで認定していた方式を東京での一括認定に改革しました。
つまり国が委託した医師個人の考え方や匙加減一つで障害年金の受給が決まることも問題なのです。
この「国の委託した判定医が事実上一人で障害年金の受給権を決めている」という問題は、上記の2016年改革によっても解消していません。
そもそも、障害年金は、障害により働けない、日常生活・社会生活に支障があることに対する填補のための社会保障給付であり、極めて社会的意味を有する仕組みであり、患者の労働の現場や日常生活・社会生活について、実際には実態をよくわかっていないことも多い医師にその給付の必要性の判断を委ねることは妥当ではありません。これは患者の主治医であったとしても同様です。
ましてや障害年金の判定は、氏名は一切公開されておらず、果たして請求者の障害・病気に対して専門性がある医師が判定しているのかも不明であり、ブラックボックス内でどこの誰かわからない、どのような専門性があるかもわからない医師が障害年金の受給の有無を決めるという現在の仕組みは障害年金に関する法の趣旨に反するものです。
もちろん障害年金の手続過程の中に医師の医学的知見が不要という意味では全くありません。むしろ、当該障害に詳しい医師が関与することは不可欠です。あくまで医師は医学的判断において知見を発揮するに過ぎず、障害年金請求者に対する社会保障給付の可否を決める立場にはなく、その権限もないということです。
三 当会提言の求める「障害年金における手続保障の徹底」の重要性について
障害年金の権利は、障害年金認定審査の一連のプロセスにより具体的権利として形成されていきます。受給に至る手続きの流れは法的に制度化され、当事者・市民に提示され、障害当事者の参画も保障しながら透明化されるべきものです。
しかし、年金機構内部での手続過程は曖昧かつ不透明であり、「手続自体が確立していない」実情とも言えます。
そのため当会は2024年3月の提言において障害年金改革の方向を示しております。
今回の報道に関連していえば、提言の5章「障害年金における障害者に対する手続的権利の保障を徹底せよ」(34~39頁)で詳論しています。
特に「(2) 障害認定審査における手続保障…形式審査から実質審査方式への転換…」とし「認定の公正性の担保及び当事者の手続保障のため(介護保険、障害者総合支援法等も参考に)請求者が希望する場合は、生活または就労の場に担当官が出向く実地調査を必須とし、そこで請求人本人および支援者(家族、介助者、支援者等)の説明・意見陳述の機会(障害者参画)の保障をする。
認定にあたる職種、資格者についても、決して医師のみで判断することなく、社会福祉士、弁護士、社労士、PSW等の合議により認定する。」と提言しています。
報道にあるような恣意的に闇の中で行われる障害年金判定システムを、一部の医師、一部の職員の恣意的意向で決める現在のやり方から透明性・客観性・公平性のある方式に変革することが求められていると確信しています。
まとめると、障害年金の判定システムについて
「障害認定のやり方を 形式(書面)審査から実質審査へ
当事者の希望があれば現地調査を必須とし、当事者・支援者・ソーシャルワーカー等が日常生活・社会生活上の不利益・支障等を説明する機会を保障し、医師だけでなく、複数の職種者が合議により認定する制度へ転換する。」
という提言について、改めて、広く社会でその是非を検討いただくことを当会は強く希望します。
障害年金の受給権の保障を根底においた公正で透明な「手続」を確立させることを当会は改めて願うものです。
四 厚生労働省に対する疑問
いずれにしても、これらの報道が事実であるとすれば、組織の一部の幹部の意向一つで障害のある市民の憲法上の生存権としての社会保障給付の存否が決められていることを意味し、権利決定のあり方が恣意的・属人的になされることがあってはならないことは言うまでもありません。
また、果たしてこのような実態を厚生労働省が把握していたのかも気になります。
「支給を絞るよう」に厚生労働省が具体的に年金機構に指示していたと公式に同省が認めることはないでしょう。
しかし、そのように障害者の所得保障としての重要な権利を恣意的に抑制することが国の政策の方向性に合致するという暗黙の忖度が、今回の報道のような事態が起きる所以であり、障害年金の運用を年金機構に丸投げして、責任ある指導・監督もせず、障害年金のあり方に関心もないような現在の厚生労働省の存在意義は問われるものと言わざるを得ません。
今般の報道を受けても「障害年金のあり方に関する見直しは今後5年間不要」だと厚生労働省はなおも強弁されるのでしょうか?
五 国への話し合いの申入れ
本日当会は、厚生労働省年金局に対し、当会との話し合いをできるだけ5月中に設定するよう申し入れを致しました。
本声明に記載した問題のほか、この1~2年、障害年金請求者に対して年金機構が「カルテを医療機関から入手し申請のための資料として提出せよ」と法的根拠無く強要してくるなどの問題を含め、質疑を行い、課題の解決に向けた意見を述べる予定です。
どうぞ、みなさまご理解、ご支援のほど、宜しくお願いします。 以上
〔注1〕非該当と却下の数値が記載されているのでそれを加えた
〔注2〕2025年4月11日共同通信社配信記事にも飯塚会員のデータは反映されています
〔注3〕請求件数252件うち不支給件数12件
〔注4〕請求件数146件うち不支給件数13件
<記者会見>
記者会見では、藤岡運営委員(弁護士)から、声明内容の意義を訴え、後日厚労省に申入れを行う旨伝えました。特に、声明を広く報道してもらうことを通じて、障害年金にたどり着いていない人に届けてほしいという強い訴えを行いました。
また、橋本代表から、法律ではない基準により人権侵害が行われていることの問題性や厚労省のHPでも詳しい手続基準が分かりやすく教示されていないため、たどり着けない現状があることを訴えました。
最後に、実務上の現状の観点から、不支給が増えている現状や、これまで出されていないような不支給理由が保険者側から出てきていること、障害認定基準にも記されていない基準を認定医が勝手に立てていること、カルテ開示を要求されていることの不合理性などについて安部運営委員(社労士)・飯塚運営委員(社労士)から報告がなされました。
記者との主な質疑は以下のとおりです。
1.厚労省への申入れは障害者団体と行う予定か。
<回答> 今回は当会のみで行う予定。
2.SNS等を通じて、情報収集がしやすくなり、申請がされやすくなったということが不支給率増加に影響している可能性はないか。
<回答> 経験上そうは考えられない。
3.飯塚会員の事例以外に、会として把握されている不支給事例数・割合等はないか。
<回答>アンケート等で統計はとっていない。